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33.冷ややかな視線(1)
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「ふーーーーっ」
執務室にはあるフォルトとランバルト、それから残り2人の部下がいる。あれこれと指示をして、その2人の部下が退出をしてからアルフォンスは深い溜息をついた。
「あれの進捗はどうだ」
「宰相があれこれと手を尽くしてくれたご様子ですが、まったく。亡き公爵の足取りがうまく掴めなかったので、王太后陛下が何かをしたということを立証するのは無理そうですね。明らかに王太后陛下にお会いしたことは何度かある様子ですし、儀式の前日にもお会いはしています」
「エリーストもその時一緒にいたのかな」
「いえ。王太后陛下のみですね。人払いはされていましたが、そもそも王太后陛下と誰かが会う時はほぼ人払いをしているようなので、特に誰も何の気もせずに。幽閉を解かれた後も、そう大事を起こさずに静かにしていらしたので、少し皆の気が緩んではいたかもしれません」
何にせよ、当時の王はクリスティアンで、王城のあれこれについてはまったくアルフォンスは知らずにまつりごとに携わっていた。正直なところ、クリスティアンに比べてアルフォンスは忙しすぎた。それがよくなかったのかもしれない、と思っても後の祭りだ。
「先日、エレインは王太后に茶を招かれた。だが、その時は人払いをしていなかった。ということは、故公爵が行った時は意識的に人払いをしたということだろう」
「茶? エレイン様がお一人で?」
「ああ。自分が送り込んだ教育係の後押しと、わたしへ側室を勧めろと言ってきたらしい。少しでもマリエン王族の血を濃くしたい、ということなのだろうな。わからなくもないが、彼女にはそれしか……自分の血統しか縋るものがないのだから、仕方がないことかもしれないな」
王太后にエレインが言ったように、マリエン王族は血統は重視しつつも、呪いのおかげで王族周りの男性が良く死ぬため、時を経て「片親が王族の血を引けばそれで」ぐらいの気持ちで見られるようになった。だからこそ、アルフォンスが今王位に就いているわけだし。
しかし、濃い血筋である王太后にはそれが許せないのだろう。
「ったく……結局どうして公爵が兄を殺したのかもはっきりしないし、子爵は単なる私怨だしで、話にならんな……」
「そうですね。子爵はそもそもクリスティアン様に恥をかかせてやろうという話で、公爵から毒物を受け取っていた様子でしたし、あの場で共に自死を促されたことにびっくりして逃げたと言っていましたね……」
ふーっ、ともう一度ため息をつくアルフォンス。
王になってから、彼はそれまでの自分の仕事以外に王としての仕事が加わって、てんやわんやだ。そもそも、それまでの彼の仕事も王や宰相に投げるべきものだったのに、だ。今は宰相やランバルトがかなり負担を強いられているが、それでもマリエン王国には問題が山積みだ。
原因はわかっている。クリスティアン王が無能だったからだ。国内のあれこれの問題を、みな体のいい言葉で先送りにしていたからだ。まるで、自分が殺されるとでもわかっていたのかと、アルフォンスは苛立つ。実際はそんなことはない。いつかの日が来たら、宰相以下の臣下たちが苦しむだけ。そんな程度にしか思っていなかったに違いない。
だが、5年後にエリーストに王位を譲るとなると、それまでに多くの問題はクリアにしておきたい。だが、時間がかかる案件が多すぎる。今は、戦争から戻って来た兵士たちがうまく働けるようになるため、領主たちに様々な施策を提出してもらっているものの、現実としてはうまくいっていない。それと共にガリアナ王国との条約も多岐に渡って協議されているが、いまひとつ。それでも、なんとか少しずつは勧めているが……。
「あの、アルフォンス様。エレイン様のことでお話が」
改まってのランバルトの物言いに、アルフォンスはぴくりと眉をあげた。要するに、部下2人がいるところでは出来なかった話題なのだろう、と理解をしたからだ。
「どうした」
「今朝方、エレイン様が鍛錬所に赴かれたようで」
「うん。自由に使っていいとは言った」
それは、求婚の時に話していた話だ。居館から光彩の棟に行く渡り廊下の手前に鍛錬所がある。そこは、朝から夕方近くまで騎士たちが鍛錬をする場所で、その日に使っていい者は朝、午前中、午後、と三つにわけられており、仕事の手が空いた者や、休みの者など、多くの騎士たちがそこに集まる。
「騎士たちに、冷たくされたご様子」
「……何?」
「いや、特に何をされた、というわけではないですよ。逆に言えば、何もされてもいません。ただ、あの方は勘が鋭いというか、なんというか……」
「彼女は繊細なんだ」
「せ、繊細?」
ランバルトはつい驚きの声をあげる。が、アルフォンスは真面目な表情で頷く。
「繊細に、人の心を読み取ろうとする。そして、存外それがあっているのも、彼女の繊細さゆえだ」
「な、なるほど……?」
「いつも、彼女は厳しく己を律している。だから、繊細という言葉をお前は気づかない。そうでいたいと彼女は思っているからだ。繊細で、とても強く、そして、とても弱い人なのだと思う。あんなに……意地を張っているのを、そうだと気づかせない人も珍しい。心が動じていない顔で、きっと揺れているのだろうな」
「アルフォンス様は、饒舌ですね……?」
恐れを知らずランバルトはそう言った。それへ「なんとでも言え」と雑に返事をするアルフォンス。
「で、何を聞いて、冷たくされたとお前は思ったんだ?」
「その……」
ランバルトは言いにくそうな表情で、だが、アルフォンスに語りだした。
執務室にはあるフォルトとランバルト、それから残り2人の部下がいる。あれこれと指示をして、その2人の部下が退出をしてからアルフォンスは深い溜息をついた。
「あれの進捗はどうだ」
「宰相があれこれと手を尽くしてくれたご様子ですが、まったく。亡き公爵の足取りがうまく掴めなかったので、王太后陛下が何かをしたということを立証するのは無理そうですね。明らかに王太后陛下にお会いしたことは何度かある様子ですし、儀式の前日にもお会いはしています」
「エリーストもその時一緒にいたのかな」
「いえ。王太后陛下のみですね。人払いはされていましたが、そもそも王太后陛下と誰かが会う時はほぼ人払いをしているようなので、特に誰も何の気もせずに。幽閉を解かれた後も、そう大事を起こさずに静かにしていらしたので、少し皆の気が緩んではいたかもしれません」
何にせよ、当時の王はクリスティアンで、王城のあれこれについてはまったくアルフォンスは知らずにまつりごとに携わっていた。正直なところ、クリスティアンに比べてアルフォンスは忙しすぎた。それがよくなかったのかもしれない、と思っても後の祭りだ。
「先日、エレインは王太后に茶を招かれた。だが、その時は人払いをしていなかった。ということは、故公爵が行った時は意識的に人払いをしたということだろう」
「茶? エレイン様がお一人で?」
「ああ。自分が送り込んだ教育係の後押しと、わたしへ側室を勧めろと言ってきたらしい。少しでもマリエン王族の血を濃くしたい、ということなのだろうな。わからなくもないが、彼女にはそれしか……自分の血統しか縋るものがないのだから、仕方がないことかもしれないな」
王太后にエレインが言ったように、マリエン王族は血統は重視しつつも、呪いのおかげで王族周りの男性が良く死ぬため、時を経て「片親が王族の血を引けばそれで」ぐらいの気持ちで見られるようになった。だからこそ、アルフォンスが今王位に就いているわけだし。
しかし、濃い血筋である王太后にはそれが許せないのだろう。
「ったく……結局どうして公爵が兄を殺したのかもはっきりしないし、子爵は単なる私怨だしで、話にならんな……」
「そうですね。子爵はそもそもクリスティアン様に恥をかかせてやろうという話で、公爵から毒物を受け取っていた様子でしたし、あの場で共に自死を促されたことにびっくりして逃げたと言っていましたね……」
ふーっ、ともう一度ため息をつくアルフォンス。
王になってから、彼はそれまでの自分の仕事以外に王としての仕事が加わって、てんやわんやだ。そもそも、それまでの彼の仕事も王や宰相に投げるべきものだったのに、だ。今は宰相やランバルトがかなり負担を強いられているが、それでもマリエン王国には問題が山積みだ。
原因はわかっている。クリスティアン王が無能だったからだ。国内のあれこれの問題を、みな体のいい言葉で先送りにしていたからだ。まるで、自分が殺されるとでもわかっていたのかと、アルフォンスは苛立つ。実際はそんなことはない。いつかの日が来たら、宰相以下の臣下たちが苦しむだけ。そんな程度にしか思っていなかったに違いない。
だが、5年後にエリーストに王位を譲るとなると、それまでに多くの問題はクリアにしておきたい。だが、時間がかかる案件が多すぎる。今は、戦争から戻って来た兵士たちがうまく働けるようになるため、領主たちに様々な施策を提出してもらっているものの、現実としてはうまくいっていない。それと共にガリアナ王国との条約も多岐に渡って協議されているが、いまひとつ。それでも、なんとか少しずつは勧めているが……。
「あの、アルフォンス様。エレイン様のことでお話が」
改まってのランバルトの物言いに、アルフォンスはぴくりと眉をあげた。要するに、部下2人がいるところでは出来なかった話題なのだろう、と理解をしたからだ。
「どうした」
「今朝方、エレイン様が鍛錬所に赴かれたようで」
「うん。自由に使っていいとは言った」
それは、求婚の時に話していた話だ。居館から光彩の棟に行く渡り廊下の手前に鍛錬所がある。そこは、朝から夕方近くまで騎士たちが鍛錬をする場所で、その日に使っていい者は朝、午前中、午後、と三つにわけられており、仕事の手が空いた者や、休みの者など、多くの騎士たちがそこに集まる。
「騎士たちに、冷たくされたご様子」
「……何?」
「いや、特に何をされた、というわけではないですよ。逆に言えば、何もされてもいません。ただ、あの方は勘が鋭いというか、なんというか……」
「彼女は繊細なんだ」
「せ、繊細?」
ランバルトはつい驚きの声をあげる。が、アルフォンスは真面目な表情で頷く。
「繊細に、人の心を読み取ろうとする。そして、存外それがあっているのも、彼女の繊細さゆえだ」
「な、なるほど……?」
「いつも、彼女は厳しく己を律している。だから、繊細という言葉をお前は気づかない。そうでいたいと彼女は思っているからだ。繊細で、とても強く、そして、とても弱い人なのだと思う。あんなに……意地を張っているのを、そうだと気づかせない人も珍しい。心が動じていない顔で、きっと揺れているのだろうな」
「アルフォンス様は、饒舌ですね……?」
恐れを知らずランバルトはそう言った。それへ「なんとでも言え」と雑に返事をするアルフォンス。
「で、何を聞いて、冷たくされたとお前は思ったんだ?」
「その……」
ランバルトは言いにくそうな表情で、だが、アルフォンスに語りだした。
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