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48.蛇(2)
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エレインが放ったフォークは蛇にしっかり刺さっている。どれだけの筋力でそれを放ったのか、と思えばランバルトはぞっとしたが、彼女には言わない。小さなデザートフォークなのに、それは蛇を貫通して木の幹に刺さっている。とんでもないことをこの人はしでかすな……と思うランバルト。
「今、あなたに天恵を発動しています。噛まれることはありません」
「えっ? 天恵を?」
ぎょっとした表情のランバルト。
「はい。ガーディアンの天恵。当分、あなたは何者からの攻撃も受け付けないでしょう」
「そ、そうだったんですか? えーーーっと……でも……」
エレインは立ち上がり、茂みに近づいて蛇を素手で持った。フォークが刺さった場所から血がにじみ出ていたが、彼女は気にしないようだった。蛇は暴れて彼女の手を尻尾でばしばしと叩こうとしているようだったが、それすら彼女の天恵によって弾かれる。ただただ空中でぴちぴちと動いているだけに見える。
「まあ天恵を発動してランバルトも巻き込んだので我々は問題はありませんが、そのまま放置してしまえば王城で誰か死者が出るかもしれない。内密に調べてもらえますか。多分これは毒持ちだと思う。とはいえ、蛇なぞ王城内の庭園に突然現れるようなものではない」
「は、はい……」
そう言ってエレインが蛇をランバルトに渡そうとするが、ランバルトはうけとらずに嫌そうな表情をしている。
「ランバルト?」
「そのう、蛇が、その、苦手、でして」
「ええ? いいから、ほら」
「そういうところ、ちょっとエレイン様はアルフォンス様と似ていらっしゃいますね……!」
苦々しくそう言いながら、ランバルトはおどおどと手を差し出し、恐る恐る蛇を握った。それから「資料は、お読みいただければわかりますから!」と早口で言って、ばたばたと庭園から蛇を持って出て行く。蛇を両手で持つ姿を見て「気にしなくても良いのに。よほど嫌いなのか」とエレインは笑い、手ぬぐいで手を拭いた。
「わかりやすすぎないか。王城内に蛇。そんなものを持ち込めるような者。そして、わたしがこの庭園を使うことを知っている者。あとは、この庭園に放てる者。庭師がやられる可能性の方が高いだろうに……」
そして、ここは光彩の棟ではない。光彩の棟から出て、居館へと移動をする途中にある庭園。要するに「蛇をここに放った」犯人は、光彩の棟には入れない。いや、入れるかもしれないが、そこではエレインの命を狙えない者だ。そして、エレインがここを最近使っていることは知っている。それぐらい王城のことを良く知る者、いや、光彩の棟を良く知る者と言うべきか。それは、エレインを狙うだけであれば、居館のことを知らなくとも問題はないからだ。
(そして、確実性が高くない手段に頼らなければいけない者)
もし、庭師が先に蛇に噛まれたら。そうしたら、それは呪いの一つとでも言われて終わりになるのだろうか。
(呪いが再発すれば、殺される可能性もある。が、アルフォンスは公平な人間だ。呪いがどうのという理由で簡単にそうはしない。そして、今エリースト殿下がいらっしゃるわけで)
だから、守られているとでも思っているのだろう。王太后は。
エレインは立ち上がって、書類を持って入口に向かった。使用人たちに「図書室に行く」と言えば、護衛騎士だけが彼女と共に従い、侍女たちは頭を下げてエレインの姿が消えてからガゼボの後片付けへと向かった。
エレインは図書室で静かに本のページをめくる。少し前から、マリエン王城にある呪いについては調べていた。
答えは簡単には出ない。だが、十中八九何かの天恵によるものだと思える。その呪いが発動するのは、女児を生かしていた時のみ。王城のあちらこちらで死人が出ている。となれば、それは簡単だ。その「女児が何かをしている」ということだ。女児が生きているから呪いが発動するのではなく、生きている女児が呪いを発動させている。それ以外に答えはない。
とはいえ、女児が生きていても呪いが発動しないこともある。それは、その女児が天恵を持っていなかったと考えられるだろう。
(とはいえ、女児が死んだ後にも呪いが発動することもあるんだよな……しかし、それはもしかしたら「関係がない」死だった可能性もある)
ただ、明確にわからないことが多い。呪いという話が出たのがいつ頃のことかはわからないが、当時は女児に男装をさせて男として育てたとも書いてある。それで回避されたとも、それで回避出来なかったとも書かれており、曖昧だ。
「……うん?」
そういえば。天恵を計る石はどこに保管をしているのだろうか。王族はみなそれを使うのだろうか。その辺りのことはどこにも書いていない。
(これほど、少し調べればすぐにわかるということなのに)
だが、それを調べれば殺される。そう考えられていたのもわかる。みな、よくわからない呪いで自分が突然死ぬことを怖れているのだ。王城の人々と未だにあまり関わりがないエレインでもわかる。特に今は王太后が生きている。アルフォンスは「呪いなぞ信じない」と言っていたが、マリエン王国の長い歴史の中、間違いなくそれは「ある」。そう人々は思っている。
(皮肉だな。もっとアルフォンスが呪いを信じる人間だったら……いや……そうではない。彼はそういうことは決してしない)
彼がそうだったら、王太后を殺していただろうか。それは否だ。だが、もしクリスティアン王が生きていたら。バーニャを嫁がせた後にきっと王太后を殺していたに違いない。そういうことをし兼ねない人物だ。
そっと手首につけているブレスレットを撫でる。夜、眠る時にそれを外していてもアルフォンスは何も言わないが、昼間はずっとつけていた。閨で外していたのは、彼を信用していると知らせたかったからだ。そして、彼は何も言わなかった。わかってくれていたのだろうかと思う。
(これをつけなければいけない、ということはやはり何らからの天恵を女児が持って生まれるということだろうか。遺伝をするとは聞いたことがなかったが)
となると、女性である自分にはこれが必要ないのではないかと思う。呪いは男性ばかりを殺すと聞いた。だが……。
(ううん、王城に基本的に女性は侍女しかいないからかもしれないな)
何にせよ、今はまだ完全な答えは出ていない。しばらくはあれこれ調べる必要がありそうだった。
「今、あなたに天恵を発動しています。噛まれることはありません」
「えっ? 天恵を?」
ぎょっとした表情のランバルト。
「はい。ガーディアンの天恵。当分、あなたは何者からの攻撃も受け付けないでしょう」
「そ、そうだったんですか? えーーーっと……でも……」
エレインは立ち上がり、茂みに近づいて蛇を素手で持った。フォークが刺さった場所から血がにじみ出ていたが、彼女は気にしないようだった。蛇は暴れて彼女の手を尻尾でばしばしと叩こうとしているようだったが、それすら彼女の天恵によって弾かれる。ただただ空中でぴちぴちと動いているだけに見える。
「まあ天恵を発動してランバルトも巻き込んだので我々は問題はありませんが、そのまま放置してしまえば王城で誰か死者が出るかもしれない。内密に調べてもらえますか。多分これは毒持ちだと思う。とはいえ、蛇なぞ王城内の庭園に突然現れるようなものではない」
「は、はい……」
そう言ってエレインが蛇をランバルトに渡そうとするが、ランバルトはうけとらずに嫌そうな表情をしている。
「ランバルト?」
「そのう、蛇が、その、苦手、でして」
「ええ? いいから、ほら」
「そういうところ、ちょっとエレイン様はアルフォンス様と似ていらっしゃいますね……!」
苦々しくそう言いながら、ランバルトはおどおどと手を差し出し、恐る恐る蛇を握った。それから「資料は、お読みいただければわかりますから!」と早口で言って、ばたばたと庭園から蛇を持って出て行く。蛇を両手で持つ姿を見て「気にしなくても良いのに。よほど嫌いなのか」とエレインは笑い、手ぬぐいで手を拭いた。
「わかりやすすぎないか。王城内に蛇。そんなものを持ち込めるような者。そして、わたしがこの庭園を使うことを知っている者。あとは、この庭園に放てる者。庭師がやられる可能性の方が高いだろうに……」
そして、ここは光彩の棟ではない。光彩の棟から出て、居館へと移動をする途中にある庭園。要するに「蛇をここに放った」犯人は、光彩の棟には入れない。いや、入れるかもしれないが、そこではエレインの命を狙えない者だ。そして、エレインがここを最近使っていることは知っている。それぐらい王城のことを良く知る者、いや、光彩の棟を良く知る者と言うべきか。それは、エレインを狙うだけであれば、居館のことを知らなくとも問題はないからだ。
(そして、確実性が高くない手段に頼らなければいけない者)
もし、庭師が先に蛇に噛まれたら。そうしたら、それは呪いの一つとでも言われて終わりになるのだろうか。
(呪いが再発すれば、殺される可能性もある。が、アルフォンスは公平な人間だ。呪いがどうのという理由で簡単にそうはしない。そして、今エリースト殿下がいらっしゃるわけで)
だから、守られているとでも思っているのだろう。王太后は。
エレインは立ち上がって、書類を持って入口に向かった。使用人たちに「図書室に行く」と言えば、護衛騎士だけが彼女と共に従い、侍女たちは頭を下げてエレインの姿が消えてからガゼボの後片付けへと向かった。
エレインは図書室で静かに本のページをめくる。少し前から、マリエン王城にある呪いについては調べていた。
答えは簡単には出ない。だが、十中八九何かの天恵によるものだと思える。その呪いが発動するのは、女児を生かしていた時のみ。王城のあちらこちらで死人が出ている。となれば、それは簡単だ。その「女児が何かをしている」ということだ。女児が生きているから呪いが発動するのではなく、生きている女児が呪いを発動させている。それ以外に答えはない。
とはいえ、女児が生きていても呪いが発動しないこともある。それは、その女児が天恵を持っていなかったと考えられるだろう。
(とはいえ、女児が死んだ後にも呪いが発動することもあるんだよな……しかし、それはもしかしたら「関係がない」死だった可能性もある)
ただ、明確にわからないことが多い。呪いという話が出たのがいつ頃のことかはわからないが、当時は女児に男装をさせて男として育てたとも書いてある。それで回避されたとも、それで回避出来なかったとも書かれており、曖昧だ。
「……うん?」
そういえば。天恵を計る石はどこに保管をしているのだろうか。王族はみなそれを使うのだろうか。その辺りのことはどこにも書いていない。
(これほど、少し調べればすぐにわかるということなのに)
だが、それを調べれば殺される。そう考えられていたのもわかる。みな、よくわからない呪いで自分が突然死ぬことを怖れているのだ。王城の人々と未だにあまり関わりがないエレインでもわかる。特に今は王太后が生きている。アルフォンスは「呪いなぞ信じない」と言っていたが、マリエン王国の長い歴史の中、間違いなくそれは「ある」。そう人々は思っている。
(皮肉だな。もっとアルフォンスが呪いを信じる人間だったら……いや……そうではない。彼はそういうことは決してしない)
彼がそうだったら、王太后を殺していただろうか。それは否だ。だが、もしクリスティアン王が生きていたら。バーニャを嫁がせた後にきっと王太后を殺していたに違いない。そういうことをし兼ねない人物だ。
そっと手首につけているブレスレットを撫でる。夜、眠る時にそれを外していてもアルフォンスは何も言わないが、昼間はずっとつけていた。閨で外していたのは、彼を信用していると知らせたかったからだ。そして、彼は何も言わなかった。わかってくれていたのだろうかと思う。
(これをつけなければいけない、ということはやはり何らからの天恵を女児が持って生まれるということだろうか。遺伝をするとは聞いたことがなかったが)
となると、女性である自分にはこれが必要ないのではないかと思う。呪いは男性ばかりを殺すと聞いた。だが……。
(ううん、王城に基本的に女性は侍女しかいないからかもしれないな)
何にせよ、今はまだ完全な答えは出ていない。しばらくはあれこれ調べる必要がありそうだった。
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