敵国に嫁いだ姫騎士は王弟の愛に溶かされる

今泉 香耶

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52.真相はいづこに

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 アルフォンスとランバルトを部屋に招き、ソファで歓談を始める。マーシアは三人分の茶を運んでテーブルに並べた。その間、アルフォンスがこの数日どのあたりに何のために出かけていたのか、という話を聞くエレイン。そして、逆に今度はエレインから

「今日、ミレッカー宰相とお会いします。終戦条約について、わたしに目を通させてくださったこと、感謝しております」

 と礼を述べた。

 茶が並んだ後は、マーシアも護衛騎士も部屋から退出をした。そこで、アルフォンスは「毒蛇が出たと聞いた」とはっきりと本題に入る。

「結局特定は出来ないが、王太后だろうと思う」

「そうですか……あの方は、幽閉されていたわりに、王城で権力があるのですね」

「実際、彼女は5年前までは普通にここにいたし、それこそ兄を産んだ人だ。要するに、20年以上はこの王城にいた、ということだよ」

 なるほど、そう言われれば確かにそうだ。そして、王族の純血として、ここである程度の立場があったことも頷ける。

「みな、どうせいつか父に殺されるだろうと思っていた。多分。エリーストが生まれた後は特に。だが、父は幽閉を選んだ。何故なら、それまでに呪いは発生していなかったからだ」

「ああ……確かに……」

「だからこそ、父は呪いを信じていなかった。王族の女児を生かしておいても大丈夫だと信じていた。そして、わたしもそう思っていた」

 だが。話はそこから変わる。まず、アルフォンスの父王が死に、そしてクリスティアンが死に。更にはクリスティアンを殺した公爵も死に。それらを見た臣下たちが「また呪いが復活したのでは」と恐れるのも当然だ。

「だが、呪いに見せかけているだけ、という可能性もあるだろう。父の死は病ゆえだったし、兄だって明らかに恨まれて殺された……のではないか、という推測なのだが」

 クリスティアンに軽い毒を盛った子爵は私怨があったらしいが、殺すつもりはなかった。基本的にすべての命令は自死を選んだ公爵がしていたという話だ。今となっては死人に口なし。公爵についてはよくわからないが……と言ってアルフォンスはため息をついた。

「何にせよ、ちょっとここ最近月華の棟に出入りしている者の一覧でも提出させるかな……ランバルト、頼まれてくれ」

「はい。かしこまりました」

 ランバルトはすぐに立ち上がり、部屋を出て行く。一覧を提出と言われても、誰もそのような管理はしていないはずだ。入口にいる護衛騎士全員に話を聞くか、あるいは王太后から本当かどうかわからない話を聞くか……なんにせよ、すぐに出るものではないだろうとエレインは思う。

「まったく、あの庭園に毒蛇を放つなど、あなたを狙ってのことだろうが、その行為だけではらわたが煮えくり返る」

「庭師が噛まれていたら、悔やんでも悔やみきれません」

「それもそうだが……ようやく、オレンジの薔薇をあそこに植えてもらったのに、そこに王太后の手がわずかにでも入ったと思うと腹立たしい」

 彼の気持ちもわかる、とエレインは「ええ」と相槌を打った。

「とはいえ、王太后以外にわたしを殺したいと思う者は他には? まあ、多少は憎んでいる者も多いとは思いますが」

「少なくとも王城に出入りをする者は、騎士で……戦に出ていた者ぐらいしかいないと思う。あとは、王城に出入りをしている商人などが、戦に関係がある可能性もあるが……しかし、あの庭園に放つとなると、よほど内情に詳しくないと。王城にいる者でも、あの庭園をあなたが最近使っていることを知る者は多くないはずだ」

 そもそも、王城の居館側で働いている者が、光彩の棟の方の動きを知るわけがない、とアルフォンスは言う。

「鍛錬所の近くなので、行き来している騎士が見たのかもしれないが、あの渡り廊下はゆるやかに長い。出入り口はどちらかというと光彩の棟側なので、護衛騎士たちが立っていることは居館側からは見えないはずなんだ」

「そこまでわかっていても、証拠はないから仕方がないですね……」

「ああ。しかも、その毒蛇は比較的この辺りの山に『いる』やつらしい……だから、解毒剤も王城に備えがあるぐらいの」

 そうなると入手経路がどうの、という話も難しいだろうということだ。

「まあ仕方がありませんね……そもそも、わたしを以前襲った暗殺者たちだって、結局誰に雇われていたのかわからずじまいだったのですものね」

「面目ない」

「あなたを責めているわけではありませんよ」

 エレインはそう言って微笑んだ。アルフォンスは少しの間彼女の顔を見て、それから

「ああ、なんだかほっとしたな……あなたの顔を見ていると、安心をする」

と言って笑う。

「わたしの顔?」

「うん。戻って来た、と思えて。今まで、王城でそのように思ったことはなかったが……ありがたいことだ」

 そう言って、彼はエレインの手をとった。また、甲にキスをするのだろうか、とエレインがじっと見ていると、彼はそのまま彼女の手を持ち上げ、静かに甲に口づける。

「その……アルフォンスは、わたしに告白をしてから、その……そういうことを、簡単にするようになりましたね?」

「好きだと、あなたに他に知らせる術がわたしにはないのでね。こうやって、あなたの手の甲にキスをするだけで、わたしがあなたを好きだということを思い出してもらえるんじゃないかと」

「……思い出して、います、よ」

 言葉が喉に絡んでうまく発せない。エレインはかすかに掠れた自分の声を恥じて、かすかに頬を染めた。

「そうか。うん……それは、嬉しいことだな……」

 そう言って、アルフォンスはもう一度彼女の手の甲に口づける。エレインは「あのっ……」と困惑の声をあげ、その手を少し無理やり退いた。

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