敵国に嫁いだ姫騎士は王弟の愛に溶かされる

今泉 香耶

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53.憂鬱な茶会

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 翌日の午前中、またターニャの授業があった。いつもと変わらずに授業をこなし、ようやくそれが終わると言う時にターニャから仕掛けられた。

「今日の授業はここまでにいたしましょう。王妃陛下、本日の午後にお時間をいただけませんか」

「午後? 構いませんが、一体何を……」

 そう答えた瞬間、エレインは「しまった」と思う。違う。先に何をするかを聞けば良かったのに、構わないと言ってしまった。だが、その困惑を表情には出さずにまっすぐターニャを見る。

「王太后様より、こちらをお預かりしております。午後、王妃陛下のお時間がおありになれば、是非お越しいただきたいと」

 まったく、王太后との繋がりをこれっぽっちも隠そうとしないのだな……と、心の中で舌打ちをしながら、エレインはターニャから封書を受け取った。

「茶会ですか」

「はい。是非とも、とのことでございます」

「……」

 昨日の今日。今現在、ランバルトの調査はどうなっているのか、また、それらは王太后も知っていることなのか。確認がとれていないが、この流れで断ることはエレインにも難しかった。いや、体調があまりよくないのでここから出たくない、と言えばそれで通る気もするが、どうしようか……。

(あちらからの……様子うかがいという感じかな……)

 仕方ない、とエレインは招待を受けた。ターニャが退室した後、ランバルトに連絡をとる。すると、どうやらアルフォンスにも王太后からの招待は届いている様子だった。

(うかがいではないと言うことか? それとも、何かの申し開きでもしようとしているのか……)

 エレインが招待を受けたと伝えたところ、それではアルフォンスも招待を受けよう……ということになった。互いに、なんとなくすっきりしない、と思いつつ。

(出来過ぎている。月華の棟に出入りしている者を洗い出そうとしたら、これだ)

 何を企んでいるのか。エレインは少しばかり悩んでから、護衛騎士に短剣を用意できないかと申し出た。案外と簡単に「かしこまりました」と返されたので拍子抜けをして「わたしにそのようなものを用意して、大丈夫なのか?」と逆に聞き返したほどだ。

 それへ「王妃陛下がご所望のものは、なんでもお渡しをせよと国王陛下より命が出ておりますので」と返されてしまい、エレインは言葉を失った。剣を与えられたばかりか、他の武器を所望しても通るとは。これは、一層彼に頭があがらない、と思いつつ感謝をした。



 午後になって、エレインは護衛騎士と共に月華の棟に向かった。すると、ちょうど月華の棟から、エリーストと護衛騎士が出てくるところに出くわす。

「これはエリースト殿下。ご機嫌よろしゅう」

 形ばかりではあったがあいさつをする。無視をされるかな、と思ったが、エリーストは「王妃陛下。ご機嫌よろしゅう」と形だけのあいさつを返す。エレインは小さく頷いて見せた。

「アルフォンス兄さまが」

「え?」

「兄さまが、母上もごあいさつをするのだから、あいさつぐらいはしろって。そう言ってたから、してやっただけだ」

 なるほど。いつなのかはわからないが、アルフォンスに釘を刺されたのか、とエレインは少し笑いそうになったが「よろしゅうございます」と返した。

「どちらへ?」

「今から剣の稽古だ」

「なるほど。いってらっしゃいませ」

 それへの返事はなかったが、エリーストはそのまま振り向きもせずに歩いていく。すれ違う護衛騎士がエレインに一礼をした。

(ちょうど、エリースト様を同席しなくて済む時間にしたというわけか)

 考えれば、先日の茶会もエリーストの姿はなかった。あれもきっと、エリーストが棟にいない時を狙っていたのだろう。もちろん、彼を同席させられるような内容ではなかったので、それは問題がない。

(それにしても、エリースト殿下は……今、5歳らしいが、この先の教育で王位に相応しい人物になれるのだろうか)

 それが心配だ。今は内緒にしているようだが、アルフォンスは後にエリーストに王位を渡すことを前提で即位をしている。しかし、一方のエリーストの方はどうだろう。話を聞けていないが、そういう覚悟があるのだろうか。また、王太后はエリーストを即位させようという気持ちがあるのだろうか。もちろん、最低でもあと5年。10歳になってからの話になるわけだが……。

(クリスティアンの教育はどうも間違えていたようだしな……)

 とはいえ、自分がいつ殺されるかという立場で日々を過ごせば、子供の教育を疎かにしてしまうかもしれない。そのあたりの気持ちをエレインはうまく共感できない。いつ殺されるか、という感情は日々前線にいた時には抱えていたが、その時はその日その日の自軍の兵士を守ることばかりで精一杯だったので、実際自分が何を感じて何を思っていたのか、今ではあまり思い出せないというのが現実だ。

 アルフォンスがまだ姿を現していないことは気掛かりだったが、彼には公務がある。少しばかり長引いている可能性もあるだろうと思い、月華の棟に先に入った。すると、王太后の部屋とは違う部屋に案内をされる。護衛騎士を扉の外に待たせて入室すると、そこは調度品が少ないシンプルな部屋だった。少し空間があり、奥側にテーブルと椅子が置かれていた。なんとなく、手前にある空間が気になるエレイン。

「いらっしゃい」

「お招きありがとうございます。この部屋は……?」

「ここで、時々楽団を招いて演奏をさせたりするのです。今日の夕食もここで演奏を聞きながら食べようと思っているのですよ」

「ああ、なるほど」

 そういった文化がマリエン王国にあることをエレインは知っている。特に何の会やら催しやらを開催しなくとも、貴族が突然楽団を雇い、少人数で演奏をさせながら食事をする。それは、100年ほど前に流行ったものだが、今でもそういうものがあるのか、と思う。

「お座りなさい」

「はい。失礼いたします」

 エレインは勧められるがまま椅子に座る。侍女がやってきて、茶をカップに注ぐ。それが終わると、部屋から出て行き、代わりにターニャが入って来た。

「今日、あなたに来てもらったのは他でもありません。ターニャの授業を、なかなか良いペースで受けているようですね?」

「わたしは言われたままのことをしているだけなので、ペースについてはなんとも」

「謙遜を。とてもよくやっていると、彼女は言っているわ」

 謙遜ではなく事実であったし、そもそも「よくやっている」とまで彼女に言われるほどではないとエレインは思う。なんだかきな臭い。

「ですが、ターニャにいくら太鼓判を押されたとしても、王族のわたしからあなたの所作を見れば、合格点を差し上げられないこともあるでしょう」

「はあ」

 いささか気が抜けた返事をするエレイン。嫁いだ身の上ではあるものの、何故合格点を王太后からもらわなければいけないのか、その辺りがちっともよくわからない。そもそも、王太后はアルフォンスの母親ではないわけだし。

(しかしまあ、立場上逆らうわけにもいかないかな……)

 そこまで話を聞いてから「アルフォンス様にもそれをお見せすると?」と尋ねる。すると、王太后は「ほほほほ」とわざとらしく笑い声をあげた。

「アルフォンスは、半刻遅い時刻で招いていますからね。それまでに終わらせましょう」

 しまった。時刻までは確認をしていなかった。エレインは心の中で舌打ちをする。まったく、面倒ないじめのようなものに引っかかってしまったものだ、と思いながら「では、何からいたしましょうか?」と王太后に尋ねたのだった。
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