56 / 72
54.核心に近づく
しおりを挟む
王太后の前で、エレインはまずお辞儀から披露をさせられた。王太后はお辞儀の途中で止めて、エレインにあれこれと講釈を垂れた。その内容は既にターニャから聞いていたものに毛が生えた程度のものだったが、くどくどと長話は続く。その間に、膝を曲げた状態でエレインはずっと動きを止められている。
正直なところ、普通の令嬢がそれをされればきっと音を上げるところだと思う。だが、エレインからすれば「鍛錬の一環だな」と思う程度。むしろ、実は王太后の話を聞けば「へえ」と思う内容もあり、それはそれで悪くはなかった。彼女は所作の裏側にある考え方や、少しの違いによる心理戦についても語ったからだ。それらは、貴族が多いマリエン王国ならではのもので、ガリアナ王国にはない考え方だ。
何種類ものお辞儀を披露し、歩き方も注意をされ、少しばかりエレインも「話を聞き続けるのもまあ疲れるものだ」と辟易しだした頃。話をしている王太后側も多少疲れたようで「ここまでにしましょう」と言い出した。要するにあちら側が先に音を上げた。エレインは心の中で「勝った」と思いながら椅子に座り直した。
「アルフォンス様」
「どうした」
月華の棟に行こうと準備をしているアルフォンスのところに、ランバルトがやってくる。
「ひとつ、気になることがわかりました」
「うん」
「クリスティアン前王がエレイン様に使っていたバングルなのですが」
そのバングルは回収をして、今は王城の保管庫に安置されている。高い金を積んで作った、とクリスティアンも言っていたようだが、実際にそれが高価なものであることは彼らもよくわかっている。
そもそも天恵を封じたり、防いだり、果ては増幅したりとそういった操作を行う媒体になる石は珍しい。しかも、その石の能力を引き出すことが出来るのも、実は「錬金術」の天恵持ちのみだ。だが、その天恵持ちはそうそういない。その天恵持ちが存在すれば、もうそれだけでその天恵持ちは王城に雇われ、一生の生活を困らないほどの報酬も与えられる。
それが、彼らは腑に落ちなかった。そんな天恵持ちを今この王城では雇っていないからだ。今は、錬金術の天恵ではなく「地術」と呼ばれる天恵を持つ者がその代わりになっているが、錬金術の天恵を持つものとはほど遠い。ということは……。
「あのバングルは、アルフォンス様の御父上がお作りになったものらしいです」
「何……? 兄上ではないのか?」
「はい。作ったのは、アルフォンス様がお持ちの魔除けのブレスレットを作った職人と同じだと調査結果が出ました。そして、これは調べでわかったのですが、もうその職人は他界しております。老衰だそうです」
アルフォンスはぴくりと眉根を潜める。
「父が作ったと……? 何のために……? だが、兄がそれを持っていたということは……」
何かが繋がるような気がして、アルフォンスはぶつぶつと呟く。
「兄が知っていて、保管庫から出した? あるいは……誰か……バングルをつけていた者からそれを奪って……?」
霧が晴れるような感覚。だが、それは完全には晴れ切ってはいない。しかし、かすかに光が見えた気がする。それは、よろしくない光だが。
「だから……それがあったから、王太后を殺さずにいたということか?」
「!」
ランバルトは驚いて目を見開く。エレインの推測はもしかしたらあたっているのかもしれない。王太后は何かはわからないが、天恵持ちだ。そして、それをあのバングルで父王は防いでおり……。
「エレインにあれをつけるために、兄が王太后からそれを奪った……?」
アルフォンスは呻いて、それからハッと顔をあげた。
「国王陛下がいらっしゃいました」
ようやくのお出ましか、とエレインはちらりと入り口を見る。迎え入れたのは王太后側なのだから、わざわざエレインが立ち上がる必要もない。
アルフォンスは一人で入って「お招きに与り」と軽く会釈をして歩いて来る。王太后はベルを鳴らして侍女を呼ぶ。アルフォンスのティーカップに茶を注ぎ終えた侍女に「もう下がって良いわ」と告げた。あまり茶会は長くやるつもりはないのだな、と思うエレイン。
「うん? わたしは遅れた、のかな?」
「いいえ。問題ありませんよ。よく来てくれましたね」
アルフォンスはエレインが食べていた焼き菓子、半分飲んで既に冷めているティーカップの中身を見て「おや?」と思ったようだった。彼は、自分が招かれた時刻が半刻遅かったことを知らない。
「人払いをしていらっしゃるのですか」
「ええ。でも、そう大したことではないでしょう? この部屋は棟の端だし、護衛騎士たちは通路の入口にいるのだから問題はありませんよ」
「まあ、確かに……」
それから、アルフォンスは壁側で控えているターニャを見て何かを言おうとしたが、それは飲み込んだようだった。
ようやく茶会が始まり。彼らはなんとはない会話をした。王太后は何故かエリーストの話をして、仕方なくアルフォンスがそれに対して何か答える……何を話しても、表面上のものばかり。一体この茶番がどれほど続くのかとエレインはちらりとアルフォンスの顔を見る。
が、ほどなくしてアルフォンスは若干苛立ちを見せつつ「今日はまだ仕事がありますので、そろそろお暇いたします」と言い出した。ちょうど茶を一杯飲み終わらないぐらい。それから「エレイン。あなたも一緒に」と声をかける。
「はい。そういたしましょう」
そう言ってアルフォンスとエレインは立ち上がり、テーブルから少し離れる。すると、王太后は「アルフォンス」と彼の名を呼んだ。
「はい?」
「あなたは、わたしに言いたいことがあるのではなくて?」
「言いたいこと、でしょうか」
アルフォンスは困惑の表情で王太后を見た。王太后は「そうですよ。きっと、あなたはわたしに言うべきことがあります」と答える。
「あなたに言うべきこと……?」
アルフォンスは少しばかり難しい表情になった。エレインはそれを見て「多分、聞くか聞かないか、今か今ではないか、彼は悩んでいるのだろう」と思う。しかし、それを王太后側から仕掛けるとは、なかなか豪胆だな……と思いつつ、王太后を見た。
正直なところ、普通の令嬢がそれをされればきっと音を上げるところだと思う。だが、エレインからすれば「鍛錬の一環だな」と思う程度。むしろ、実は王太后の話を聞けば「へえ」と思う内容もあり、それはそれで悪くはなかった。彼女は所作の裏側にある考え方や、少しの違いによる心理戦についても語ったからだ。それらは、貴族が多いマリエン王国ならではのもので、ガリアナ王国にはない考え方だ。
何種類ものお辞儀を披露し、歩き方も注意をされ、少しばかりエレインも「話を聞き続けるのもまあ疲れるものだ」と辟易しだした頃。話をしている王太后側も多少疲れたようで「ここまでにしましょう」と言い出した。要するにあちら側が先に音を上げた。エレインは心の中で「勝った」と思いながら椅子に座り直した。
「アルフォンス様」
「どうした」
月華の棟に行こうと準備をしているアルフォンスのところに、ランバルトがやってくる。
「ひとつ、気になることがわかりました」
「うん」
「クリスティアン前王がエレイン様に使っていたバングルなのですが」
そのバングルは回収をして、今は王城の保管庫に安置されている。高い金を積んで作った、とクリスティアンも言っていたようだが、実際にそれが高価なものであることは彼らもよくわかっている。
そもそも天恵を封じたり、防いだり、果ては増幅したりとそういった操作を行う媒体になる石は珍しい。しかも、その石の能力を引き出すことが出来るのも、実は「錬金術」の天恵持ちのみだ。だが、その天恵持ちはそうそういない。その天恵持ちが存在すれば、もうそれだけでその天恵持ちは王城に雇われ、一生の生活を困らないほどの報酬も与えられる。
それが、彼らは腑に落ちなかった。そんな天恵持ちを今この王城では雇っていないからだ。今は、錬金術の天恵ではなく「地術」と呼ばれる天恵を持つ者がその代わりになっているが、錬金術の天恵を持つものとはほど遠い。ということは……。
「あのバングルは、アルフォンス様の御父上がお作りになったものらしいです」
「何……? 兄上ではないのか?」
「はい。作ったのは、アルフォンス様がお持ちの魔除けのブレスレットを作った職人と同じだと調査結果が出ました。そして、これは調べでわかったのですが、もうその職人は他界しております。老衰だそうです」
アルフォンスはぴくりと眉根を潜める。
「父が作ったと……? 何のために……? だが、兄がそれを持っていたということは……」
何かが繋がるような気がして、アルフォンスはぶつぶつと呟く。
「兄が知っていて、保管庫から出した? あるいは……誰か……バングルをつけていた者からそれを奪って……?」
霧が晴れるような感覚。だが、それは完全には晴れ切ってはいない。しかし、かすかに光が見えた気がする。それは、よろしくない光だが。
「だから……それがあったから、王太后を殺さずにいたということか?」
「!」
ランバルトは驚いて目を見開く。エレインの推測はもしかしたらあたっているのかもしれない。王太后は何かはわからないが、天恵持ちだ。そして、それをあのバングルで父王は防いでおり……。
「エレインにあれをつけるために、兄が王太后からそれを奪った……?」
アルフォンスは呻いて、それからハッと顔をあげた。
「国王陛下がいらっしゃいました」
ようやくのお出ましか、とエレインはちらりと入り口を見る。迎え入れたのは王太后側なのだから、わざわざエレインが立ち上がる必要もない。
アルフォンスは一人で入って「お招きに与り」と軽く会釈をして歩いて来る。王太后はベルを鳴らして侍女を呼ぶ。アルフォンスのティーカップに茶を注ぎ終えた侍女に「もう下がって良いわ」と告げた。あまり茶会は長くやるつもりはないのだな、と思うエレイン。
「うん? わたしは遅れた、のかな?」
「いいえ。問題ありませんよ。よく来てくれましたね」
アルフォンスはエレインが食べていた焼き菓子、半分飲んで既に冷めているティーカップの中身を見て「おや?」と思ったようだった。彼は、自分が招かれた時刻が半刻遅かったことを知らない。
「人払いをしていらっしゃるのですか」
「ええ。でも、そう大したことではないでしょう? この部屋は棟の端だし、護衛騎士たちは通路の入口にいるのだから問題はありませんよ」
「まあ、確かに……」
それから、アルフォンスは壁側で控えているターニャを見て何かを言おうとしたが、それは飲み込んだようだった。
ようやく茶会が始まり。彼らはなんとはない会話をした。王太后は何故かエリーストの話をして、仕方なくアルフォンスがそれに対して何か答える……何を話しても、表面上のものばかり。一体この茶番がどれほど続くのかとエレインはちらりとアルフォンスの顔を見る。
が、ほどなくしてアルフォンスは若干苛立ちを見せつつ「今日はまだ仕事がありますので、そろそろお暇いたします」と言い出した。ちょうど茶を一杯飲み終わらないぐらい。それから「エレイン。あなたも一緒に」と声をかける。
「はい。そういたしましょう」
そう言ってアルフォンスとエレインは立ち上がり、テーブルから少し離れる。すると、王太后は「アルフォンス」と彼の名を呼んだ。
「はい?」
「あなたは、わたしに言いたいことがあるのではなくて?」
「言いたいこと、でしょうか」
アルフォンスは困惑の表情で王太后を見た。王太后は「そうですよ。きっと、あなたはわたしに言うべきことがあります」と答える。
「あなたに言うべきこと……?」
アルフォンスは少しばかり難しい表情になった。エレインはそれを見て「多分、聞くか聞かないか、今か今ではないか、彼は悩んでいるのだろう」と思う。しかし、それを王太后側から仕掛けるとは、なかなか豪胆だな……と思いつつ、王太后を見た。
3
あなたにおすすめの小説
堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
第零騎士団諜報部潜入班のエレオノーラは男装して酒場に潜入していた。そこで第一騎士団団長のジルベルトとぶつかってしまい、胸を触られてしまうという事故によって女性とバレてしまう。
ジルベルトは責任をとると言ってエレオノーラに求婚し、エレオノーラも責任をとって婚約者を演じると言う。
エレオノーラはジルベルト好みの婚約者を演じようとするが、彼の前ではうまく演じることができない。またジルベルトもいろんな顔を持つ彼女が気になり始め、他の男が彼女に触れようとすると牽制し始める。
そんなちょっとズレてる二人が今日も任務を遂行します!!
―――
完結しました。
※他サイトでも公開しております。
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。
【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~
双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。
なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。
※小説家になろうでも掲載中。
※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。
下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~
星森
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。
王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。
そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。
これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。
⚠️本作はAIとの共同製作です。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
燻らせた想いは口付けで蕩かして~睦言は蜜毒のように甘く~
二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
北西の国オルデランタの王妃アリーズは、国王ローデンヴェイクに愛されたいがために、本心を隠して日々を過ごしていた。 しかしある晩、情事の最中「猫かぶりはいい加減にしろ」と彼に言われてしまう。
夫に嫌われたくないが、自分に自信が持てないため涙するアリーズ。だがローデンヴェイクもまた、言いたいことを上手く伝えられないもどかしさを密かに抱えていた。
気持ちを伝え合った二人は、本音しか口にしない、隠し立てをしないという約束を交わし、身体を重ねるが……?
「こんな本性どこに隠してたんだか」
「構って欲しい人だったなんて、思いませんでしたわ」
さてさて、互いの本性を知った夫婦の行く末やいかに。
+ムーンライトノベルズにも掲載しております。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【完結】男装令嬢、深い事情により夜だけ王弟殿下の恋人を演じさせられる
千堂みくま
恋愛
ある事情のため男として生きる伯爵令嬢ルルシェ。彼女の望みはただ一つ、父親の跡を継いで領主となること――だが何故か王弟であるイグニス王子に気に入られ、彼の側近として長いあいだ仕えてきた。
女嫌いの王子はなかなか結婚してくれず、彼の結婚を機に領地へ帰りたいルルシェはやきもきしている。しかし、ある日とうとう些細なことが切っ掛けとなり、イグニスに女だとバレてしまった。
王子は性別の秘密を守る代わりに「俺の女嫌いが治るように協力しろ」と持ちかけてきて、夜だけ彼の恋人を演じる事になったのだが……。
○ニブい男装令嬢と不器用な王子が恋をする物語。○Rシーンには※印あり。
[男装令嬢は伯爵家を継ぎたい!]の改稿版です。
ムーンライトでも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる