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60.二人きりの夜(2)
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「……どうした。どうして落ち込んでいる?」
「落ち込んでいるのではないんです……」
「うん? では、一体……」
アルフォンスは何度も何度もエレインの髪を撫でる。静かな時が流れた。エレインは彼の指が自分の髪を梳くのを、瞳を閉じて感じ取っていた。いつも、彼の指が自分に触れるのが好きだった。大きな手が自分の手をとって、甲を撫でて、キスをして。髪を梳いて、頬に触れて。それらすべては、最初から嫌いではなかった。それを好きだと思うようになったのは、いつからだっただろうか。
彼から与えられるそれらから伝わるのは性欲ではない。そこにあるのは慈しみだ。手の甲にキスをするたびに、自分のことを好きだと思い出してもらえるのでは……と彼は言っていた。思い出すも何もない。ずっとずっとわかっていた。彼が自分のことを本当に大切に思っているということを。いや、わかっていると思っていたのに、それ以上の覚悟が彼にはあったのだと気づかされた。
ならば、自分も応えなければいけない。多くのわだかまりはすべて消えてはいないが、それよりも大切なことがある。それは、今生きている人間が、命をかけて為そうとすること。既に失った命への悔恨からは、未だ解き放たれないけれど、だからといって彼が自身を傷つけてもエレインを守ろうとした事実は何一つ覆ることはない。
「わたし、あなたを……」
「うん」
「あなたを、愛しております」
「……ん?」
ゆっくりとエレインは顔を上げ、アルフォンスを見上げた。なんということだろうか。言葉にするとたったこれだけのことなのだ。その呆気なさに彼女は少し驚き、まるで「そうではない。そんな簡単なことではないのだ」と言葉を重ねる。
「あなたを愛しているんです。アルフォンス」
しばらくの間、2人は見つめあった。室内は暗かったが、それでも既に目は慣れて、互いの顔は見える。アルフォンスは「ああ……」とため息にも似た声を出す。
「これは……夢ではない、のかな」
「夢ではありません」
「本当に?」
「ええ」
アルフォンスは、体を起こしたエレインの髪をまたするすると指先で梳く。何度も何度も撫でられ、エレインはことんとそちらに頭を倒した。赤い髪を撫でる手が、そのまま彼女の頬に触れる。あの大きな手にこうやって触れられることが、今はただただ嬉しい。そう思いながら、エレインは少し汗ばんだ彼の手に頬を摺り寄せる。
「朝が来ても、わたしを好きでいてくれるか?」
「朝が来ても、また夜が来ても」
「本当に?」
「ええ」
二度。二度、彼はエレインに「本当に?」と尋ねる。そして、エレインも二度「ええ」と答える。何度彼に言われても、それはくつがえることがない事実だ。やがて、彼は何かを感じ入ったように「ありがとう」と静かに呟くと、体をゆっくり倒した。
「駄目だな……どうにも、長く起きていられないようだ……眠い、というよりも、意識が閉ざされる感覚で抗えない。あなたを抱きしめたいし、何度でもキスをしたいのに……」
「お眠りになってください」
「ん」
アルフォンスは手をエレインに差し出した。彼女はそれに自分の指を絡める。いつもより少しだけ甘えた声音で尋ねるアルフォンス。
「朝まで、共にいてくれるか……?」
「ええ。いますよ。おやすみなさい。アルフォンス」
「エレイン……」
「はい」
彼は今にも消え入りそうな声で、だが、間違いなく呟いた。
「あなたを愛している……」
「はい。わたしもあなたを愛しています」
答えながら、エレインは「とんでもなく、簡単な言葉しかない」と思う。自分が彼に思いを告げる時も、その逆の時も。「愛している」以外の言葉はないのだろうか。饒舌ではない何か。だが、それしか自分は言葉を見つけられなかったし、きっと、同じ言葉を口にした彼もそうなのだろうと思う。
ほどなくアルフォンスの寝息が聞こえてくる。エレインは優しく「おやすみなさい」と呟き、彼の手の甲にキスをした。胸の奥がじんわりと熱くなって、ああ、と何か感嘆のような吐息を放ちながら、エレインは彼の手をそうっと離した。
「落ち込んでいるのではないんです……」
「うん? では、一体……」
アルフォンスは何度も何度もエレインの髪を撫でる。静かな時が流れた。エレインは彼の指が自分の髪を梳くのを、瞳を閉じて感じ取っていた。いつも、彼の指が自分に触れるのが好きだった。大きな手が自分の手をとって、甲を撫でて、キスをして。髪を梳いて、頬に触れて。それらすべては、最初から嫌いではなかった。それを好きだと思うようになったのは、いつからだっただろうか。
彼から与えられるそれらから伝わるのは性欲ではない。そこにあるのは慈しみだ。手の甲にキスをするたびに、自分のことを好きだと思い出してもらえるのでは……と彼は言っていた。思い出すも何もない。ずっとずっとわかっていた。彼が自分のことを本当に大切に思っているということを。いや、わかっていると思っていたのに、それ以上の覚悟が彼にはあったのだと気づかされた。
ならば、自分も応えなければいけない。多くのわだかまりはすべて消えてはいないが、それよりも大切なことがある。それは、今生きている人間が、命をかけて為そうとすること。既に失った命への悔恨からは、未だ解き放たれないけれど、だからといって彼が自身を傷つけてもエレインを守ろうとした事実は何一つ覆ることはない。
「わたし、あなたを……」
「うん」
「あなたを、愛しております」
「……ん?」
ゆっくりとエレインは顔を上げ、アルフォンスを見上げた。なんということだろうか。言葉にするとたったこれだけのことなのだ。その呆気なさに彼女は少し驚き、まるで「そうではない。そんな簡単なことではないのだ」と言葉を重ねる。
「あなたを愛しているんです。アルフォンス」
しばらくの間、2人は見つめあった。室内は暗かったが、それでも既に目は慣れて、互いの顔は見える。アルフォンスは「ああ……」とため息にも似た声を出す。
「これは……夢ではない、のかな」
「夢ではありません」
「本当に?」
「ええ」
アルフォンスは、体を起こしたエレインの髪をまたするすると指先で梳く。何度も何度も撫でられ、エレインはことんとそちらに頭を倒した。赤い髪を撫でる手が、そのまま彼女の頬に触れる。あの大きな手にこうやって触れられることが、今はただただ嬉しい。そう思いながら、エレインは少し汗ばんだ彼の手に頬を摺り寄せる。
「朝が来ても、わたしを好きでいてくれるか?」
「朝が来ても、また夜が来ても」
「本当に?」
「ええ」
二度。二度、彼はエレインに「本当に?」と尋ねる。そして、エレインも二度「ええ」と答える。何度彼に言われても、それはくつがえることがない事実だ。やがて、彼は何かを感じ入ったように「ありがとう」と静かに呟くと、体をゆっくり倒した。
「駄目だな……どうにも、長く起きていられないようだ……眠い、というよりも、意識が閉ざされる感覚で抗えない。あなたを抱きしめたいし、何度でもキスをしたいのに……」
「お眠りになってください」
「ん」
アルフォンスは手をエレインに差し出した。彼女はそれに自分の指を絡める。いつもより少しだけ甘えた声音で尋ねるアルフォンス。
「朝まで、共にいてくれるか……?」
「ええ。いますよ。おやすみなさい。アルフォンス」
「エレイン……」
「はい」
彼は今にも消え入りそうな声で、だが、間違いなく呟いた。
「あなたを愛している……」
「はい。わたしもあなたを愛しています」
答えながら、エレインは「とんでもなく、簡単な言葉しかない」と思う。自分が彼に思いを告げる時も、その逆の時も。「愛している」以外の言葉はないのだろうか。饒舌ではない何か。だが、それしか自分は言葉を見つけられなかったし、きっと、同じ言葉を口にした彼もそうなのだろうと思う。
ほどなくアルフォンスの寝息が聞こえてくる。エレインは優しく「おやすみなさい」と呟き、彼の手の甲にキスをした。胸の奥がじんわりと熱くなって、ああ、と何か感嘆のような吐息を放ちながら、エレインは彼の手をそうっと離した。
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