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70.終戦(2)
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アルフォンスは声を出して笑う。
「休戦条約に従って、無理やり彼女を我が王国に嫁がせた非礼は詫びよう。だが、その時に嫁ぐはずだった前マリエン国王は亡くなり、わたしがその後を引き継いだ。それによってエレインはわたしの妻とならざるを得なくなったのだが……」
ちらりとエレインを見て、それからサラント公爵に向けてはっきりと告げるアルフォンス。
「ガリアナ国王にお伝え願いたい。素晴らしい方を娶らせていただき、感謝しかない。あなた方が大切にしていらしたエレイン姫は、わたしが責任をもって幸せにすると、そう伝えてくれ」
彼のその言葉を聞いて、サラント公爵は目を見開いた。すると、それまで静かに聞いていたミレッカー宰相が助け船を出す。
「我が国王におかれましては、嘘はつかない方ゆえ。そこは、安心していただけると思います。臣下であるわたくしがそう申し上げるのはいささか弱いとは思いますが、こればかりは嘘ではありません」
その言葉が最後の一押しになったのか、サラント公爵の両眼に涙が湧き上がる。
「姫様……よろしゅう……よろしゅうございました……! マリエン国王陛下、姫様を、姫様をよろしくお願いいたします……!」
「うん。まだ、事実上の敗戦国の騎士だったと言うことで、人々からの目はいくらか冷たい。残念ながらそれは本当のことだ。だが、きっと彼女ならばそれに耐え、そして後々は人々から祝福される王妃になってくれると信じている」
サラント公爵の口からは嗚咽が漏れた。エレインは「泣きすぎですよ」と言ったが、自分のためにそんな風に泣いてくれる者に冷たく言えるわけがない。彼女もまた目の端に涙を浮かべており、それをアルフォンスは手を伸ばしてぬぐった。
「あなたも泣きすぎだ」
「あなたの前でだけです」
「うん。そうしてくれ」
ミレッカーは「国王夫妻は、どうにも正直すぎて困ります……」とサラント公爵に言い、サラント公爵は泣きながら笑顔を見せた。
「では、みなはミレッカーを頼む」
「は」
「エレイン。行くぞ」
「はい」
ファラント族の集落を出て、ミレッカーは馬車に乗ったものの、アルフォンスとエレインは馬に乗る。護衛騎士は二手に分かれて――とはいえ、ミレッカーを守る者の方が人数は多い――彼らは出発した。だだっぴろい草原を彼らは駆けていく。
「どうだった? 久しぶりに王城から出て。ガリアナ王国の者と会って」
「ありがとうございます。とても、とても嬉しかったですし……今でも、こうやって馬に乗っていることも嬉しいです」
「たまには、王城を出てデートをしよう」
「はい」
彼の心遣いをエレインはよくわかっている。王城から少し離れた辺りでも、未だエレインに対して冷たい視線を送る人々はいる。それらは、これから少しずつ変わっていくだろうとアルフォンスは言う。が、何にせよ今は今。だから、アルフォンスは彼女を遠くへと連れて来てくれたのだろうと思う。
「帰ったら、王太后の罪について話し合いが行われる。それから、エリーストの扱いについても再考しなければいけない」
「はい」
馬をゆっくり走らせながら、エレインは頷いた。問題はまだ山積みだ。だが、これで本当に終戦となったのだ。それを噛みしめる。ようやく、自分がマリエン王国に来た意味がひとつ。肩の荷がひとつ下りたような気持ちだ。
そんな彼女にアルフォンスは言葉を続けた。
「エレイン。改めてもう一度あなたにお願いをしたいのだが」
「えっ?」
「5年を経ても、その先も、わたしの隣で王妃でいてくれないだろうか。わたしはもう腹を括った。この先、わたしはマリエン王国のために生きていくが……あなたに、支えて欲しいのだ」
気が早い、とエレインは思ったが、答えはもう決まっていた。実際5年後にどうなっているのかなぞわからない。まだ、嫁いで、いや、マリエン王国に来て、そう時間は経過していないのだし。それでも、彼女ははっきりとわかっていることがあった。自分は彼のことを愛しているのだ。それだけは何があっても譲ることはできない。ならば、答えはやはりひとつ。
「そうですね。来年……オレンジの薔薇が咲くガゼボで、わたしとお茶をしてくださると、それを絶対に約束してくださるなら」
それを聞いたアルフォンスは「はは」と笑った。
「勿論だ。来年でも、再来年でも、この先ずっと」
「本当ですね。では、お受けしましょう。アルフォンス。これからよろしくお願いします」
「ああ、こちらこそ、だ……よし、少しスピードをあげよう。今日はクレーブ辺境伯の邸宅に泊めてもらうことになっている。ミレッカーは夜遅くの到着になるだろうが、我々は夕食に間に合わせよう。今日は、良い酒を飲みたい気分だな」
彼は護衛騎士にそう言うと、馬を走らせる速度をあげた。クレーブ辺境伯の邸宅。それは、最初にエレインがマリエン王国に来た時に世話になった場所ではないか。なんとなくそれは面白いな、とエレインは思う。
「行くぞ!」
アルフォンスの号令に従って、みなも馬の速度をあげる。
エレインは「早く一年が過ぎて、あの薔薇を2人で見られると良いのに」と思いながら、馬の速度をあげた。
了
「休戦条約に従って、無理やり彼女を我が王国に嫁がせた非礼は詫びよう。だが、その時に嫁ぐはずだった前マリエン国王は亡くなり、わたしがその後を引き継いだ。それによってエレインはわたしの妻とならざるを得なくなったのだが……」
ちらりとエレインを見て、それからサラント公爵に向けてはっきりと告げるアルフォンス。
「ガリアナ国王にお伝え願いたい。素晴らしい方を娶らせていただき、感謝しかない。あなた方が大切にしていらしたエレイン姫は、わたしが責任をもって幸せにすると、そう伝えてくれ」
彼のその言葉を聞いて、サラント公爵は目を見開いた。すると、それまで静かに聞いていたミレッカー宰相が助け船を出す。
「我が国王におかれましては、嘘はつかない方ゆえ。そこは、安心していただけると思います。臣下であるわたくしがそう申し上げるのはいささか弱いとは思いますが、こればかりは嘘ではありません」
その言葉が最後の一押しになったのか、サラント公爵の両眼に涙が湧き上がる。
「姫様……よろしゅう……よろしゅうございました……! マリエン国王陛下、姫様を、姫様をよろしくお願いいたします……!」
「うん。まだ、事実上の敗戦国の騎士だったと言うことで、人々からの目はいくらか冷たい。残念ながらそれは本当のことだ。だが、きっと彼女ならばそれに耐え、そして後々は人々から祝福される王妃になってくれると信じている」
サラント公爵の口からは嗚咽が漏れた。エレインは「泣きすぎですよ」と言ったが、自分のためにそんな風に泣いてくれる者に冷たく言えるわけがない。彼女もまた目の端に涙を浮かべており、それをアルフォンスは手を伸ばしてぬぐった。
「あなたも泣きすぎだ」
「あなたの前でだけです」
「うん。そうしてくれ」
ミレッカーは「国王夫妻は、どうにも正直すぎて困ります……」とサラント公爵に言い、サラント公爵は泣きながら笑顔を見せた。
「では、みなはミレッカーを頼む」
「は」
「エレイン。行くぞ」
「はい」
ファラント族の集落を出て、ミレッカーは馬車に乗ったものの、アルフォンスとエレインは馬に乗る。護衛騎士は二手に分かれて――とはいえ、ミレッカーを守る者の方が人数は多い――彼らは出発した。だだっぴろい草原を彼らは駆けていく。
「どうだった? 久しぶりに王城から出て。ガリアナ王国の者と会って」
「ありがとうございます。とても、とても嬉しかったですし……今でも、こうやって馬に乗っていることも嬉しいです」
「たまには、王城を出てデートをしよう」
「はい」
彼の心遣いをエレインはよくわかっている。王城から少し離れた辺りでも、未だエレインに対して冷たい視線を送る人々はいる。それらは、これから少しずつ変わっていくだろうとアルフォンスは言う。が、何にせよ今は今。だから、アルフォンスは彼女を遠くへと連れて来てくれたのだろうと思う。
「帰ったら、王太后の罪について話し合いが行われる。それから、エリーストの扱いについても再考しなければいけない」
「はい」
馬をゆっくり走らせながら、エレインは頷いた。問題はまだ山積みだ。だが、これで本当に終戦となったのだ。それを噛みしめる。ようやく、自分がマリエン王国に来た意味がひとつ。肩の荷がひとつ下りたような気持ちだ。
そんな彼女にアルフォンスは言葉を続けた。
「エレイン。改めてもう一度あなたにお願いをしたいのだが」
「えっ?」
「5年を経ても、その先も、わたしの隣で王妃でいてくれないだろうか。わたしはもう腹を括った。この先、わたしはマリエン王国のために生きていくが……あなたに、支えて欲しいのだ」
気が早い、とエレインは思ったが、答えはもう決まっていた。実際5年後にどうなっているのかなぞわからない。まだ、嫁いで、いや、マリエン王国に来て、そう時間は経過していないのだし。それでも、彼女ははっきりとわかっていることがあった。自分は彼のことを愛しているのだ。それだけは何があっても譲ることはできない。ならば、答えはやはりひとつ。
「そうですね。来年……オレンジの薔薇が咲くガゼボで、わたしとお茶をしてくださると、それを絶対に約束してくださるなら」
それを聞いたアルフォンスは「はは」と笑った。
「勿論だ。来年でも、再来年でも、この先ずっと」
「本当ですね。では、お受けしましょう。アルフォンス。これからよろしくお願いします」
「ああ、こちらこそ、だ……よし、少しスピードをあげよう。今日はクレーブ辺境伯の邸宅に泊めてもらうことになっている。ミレッカーは夜遅くの到着になるだろうが、我々は夕食に間に合わせよう。今日は、良い酒を飲みたい気分だな」
彼は護衛騎士にそう言うと、馬を走らせる速度をあげた。クレーブ辺境伯の邸宅。それは、最初にエレインがマリエン王国に来た時に世話になった場所ではないか。なんとなくそれは面白いな、とエレインは思う。
「行くぞ!」
アルフォンスの号令に従って、みなも馬の速度をあげる。
エレインは「早く一年が過ぎて、あの薔薇を2人で見られると良いのに」と思いながら、馬の速度をあげた。
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