婚約破棄された令嬢は“図書館勤務”を満喫中

かしおり

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2-4:魔導具と、灯るもの

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 秋の朝、アシュベリーの空は薄曇りだった。

 けれど、図書館の中には、いつも変わらぬやわらかな光が灯っている。

 その光源のひとつが――魔導具《環境制御灯》。

「クラリス嬢、これが書庫の湿度と温度を調整する装置です」

 エルネスト館長が案内してくれたのは、書庫の奥の壁に据え付けられた、青緑色の宝石が埋め込まれた古びた装置だった。金属の土台には、見慣れぬ文字が環状に刻まれており、その模様はどこか、古い魔法陣を思わせるような繊細な美しさを帯びていた。

「魔法というより、術式に近い古い型でね。設置されてから四十年以上経っているけれど、まだ十分機能していますよ」

「これが……」

 私は思わず手を伸ばした。

 宝石の表面はひんやりとしていて、指先が触れた瞬間、淡く光を灯す。まるで、静かに呼吸する生き物のようだった。

「ここを軽く押すと、調整画面が開きます。基本は自動ですが、雨の季節などは微調整も必要です」

 館長に教えられながら操作してみると、装置が静かに唸り、小さな文字盤が浮かび上がるように開いた。ほんのわずかな操作でも、書庫の空気が変化していくのが感じ取れる。

 私は、自分がこの図書館という“仕組み”の一部になっていく感覚を覚えていた。それは不思議な喜びとともに、ささやかな誇りを芽生えさせてくれた。

 昼下がり、数人の子どもたちが図書館を訪れた。

「おねーさん、これ読んで!」

「また来ていい?」

 元気いっぱいの声に、私は一瞬戸惑ったが、すぐに笑みを浮かべて応える。

「もちろん、いつでもどうぞ」

 ひとりの少女が、色あせた絵本を指差した。

「この前、借りた本……お母さんと読んだの。楽しかった!」

「それは……よかったです」

 ふと、胸があたたかくなった。

 本を通じて何かが届いた、その実感が、静かに胸を満たしていく。

 声が、想いが、ページを通じて誰かに届いている――その確かな証が、今ここにあった。

 夕方、私はカウンターに座りながら、貸出帳をまとめていた。

 窓の外では、紅葉が風に揺れている。木の葉がさらさらと音を立てるたび、季節の移ろいが音もなく肌に染み入ってくる。

 ふと、児童コーナーの一角に、開かれたままの絵本が目に入った。

 ページの間には、子どもが折ったと思われる紙の栞――へたくそなハートの形。

 少し歪んだその形が、なぜかとても愛おしかった。

 私はそっとページを閉じ、栞をやさしく挟み直す。

 この町で、私は誰かの“日常の一部”になれたのだろうか――そんな思いが、胸に浮かんだ。

 まだ答えは出ないけれど。

 けれどきっと、あの魔導具の灯りのように、少しずつでも、私の存在が誰かの心を照らせるなら。

 それは、とても――幸せなことだと思うのだ。
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