婚約破棄された令嬢は“図書館勤務”を満喫中

かしおり

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6-4:焼きたてパンと小さな約束

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 読書会が終わった後の図書館は、心地よい疲労感に包まれていた。

 子供たちが帰り、夕暮れの静けさが戻ってきた頃、リリアが紙袋を抱えて事務室に戻ってきた。

「クラリスさん、お疲れさま。はい、これ。今日のお礼と元気出してもらいたくて」

 差し出されたのは、彼女の店『森の香り』で焼かれたパンの詰め合わせ。

 ほんのり温かく、香ばしい香りが鼻をくすぐる。

「ありがとう……でも、そんな気を遣わなくても」

「気を遣ったわけじゃないですよっ。私が焼きたかっただけです」

 ぷいっとそっぽを向いたリリアの頬が少し赤くて、私は思わず笑ってしまった。

 リリアはすぐに笑い返し、包みをそっとリュカの方にも差し出す。

「リュカさんにも。クラリスさんのこと、守ってくれてありがとうって気持ちです」

「恐縮です。では、ありがたく頂戴いたします」

 リュカが丁寧に頭を下げる様子に、リリアは「えへへ」と満足そうに笑う。

 ベンチに並んで座り、三人でパンを分け合った。

 私のお気に入りは、チーズとハーブが練り込まれた柔らかいパン。

 リュカはレーズン入りのものを手に取って、静かに味わっていた。

「……こういう時間って、すごく贅沢だと思いませんか?」

 私のつぶやきに、リュカはうなずいた。

「ええ、とても。穏やかで、温かくて……守りたくなるものです」

 その言葉の余韻に、胸がじんわりと満たされていく。

 食後、リリアがパンくずを手で払いつつ立ち上がる。

「そろそろ閉館の時間ですね。じゃあ私は、今日はこれで失礼しますね。……あ、クラリスさん」

「なあに?」

「また何かあったら、遠慮なく言ってくださいね。私、パンを焼くだけじゃないですから」

 そう言って笑うリリアの姿は、まるで小さな戦士のようだった。

 私はその背にそっと「ありがとう」と呟いた。

 リリアが去った後、図書館の扉を閉めながら、私はリュカに訊いた。

「……これからも、私、頑張れると思います」

 リュカはわずかに微笑む。

「では、一つだけ約束していただけますか?」

「……なんでしょう?」

「無理をしないこと。あなたがあなたらしくあることを、何より大切にしてください」

 静かな夕暮れの中、その約束が心に温かく沁みていく。

 図書館の窓辺には、夜の帳が静かに降り始めていた。
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