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7-1:再訪者、侯爵家の影
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ある晴れた昼下がり、図書館の玄関でベルが鳴った。
その音を聞いた瞬間、私は何かが胸に引っかかるのを感じた。理由のない不安――でも、勘は外れなかった。
「ごきげんよう、クラリス。……いや、ヴァルデン令嬢と呼んだ方がいいのかな?」
その声を聞いた瞬間、私は本能的に体をこわばらせた。
振り向いた先に立っていたのは、かつての婚約者――カイル・ラント侯爵令息だった。
かつてと変わらぬ金髪碧眼、きらびやかな衣服、傲慢な笑み。
いや、よく見ればその笑みは、どこか焦りや焦燥を滲ませていた。
「……どうして、ここに?」
言葉を選びながら問い返す私に、カイルは軽く肩を竦めてみせる。
「君の噂を聞いてね。まさかこんな田舎で“司書見習い”なんてしてるとは驚いたよ。けれど……君らしいとも言えるかな」
その皮肉交じりの口ぶりに、心の奥が冷える。
「僕は今、少し心を整理していてね。いろいろと反省もした。……だから、改めて君と向き合いたいと思ったんだ」
どこか芝居じみた語り口。その裏にある意図は明らかだった。
新しい婚約者との関係が破綻し、私という「過去」に手を伸ばしてきたのだ。
「……あなたが、私に言いたいことはそれだけですか?」
「いや、できれば少し話を――」
「申し訳ありません。図書館は、静かな学びの場です。個人的な面会は受け付けておりません」
きっぱりとした私の声に、カイルは目を見開いた。
その瞬間、私の背後に気配が近づく。
「その通りですね」
静かで、しかし威厳に満ちた声が、私の横から発せられた。
リュカだった。
彼は穏やかな微笑みを浮かべたまま、カイルに一礼する。
「初めまして、リュカ・アーデンと申します。クラリス嬢の同僚であり、読書室の常連でもあります」
「……貴様は?」
カイルの眉がぴくりと動いた。リュカの気配に、何か感じ取ったのだろう。
「どうか、お引き取りください。クラリス嬢が、明確にお断りされたはずです」
その穏やかさの奥にある“何か”を感じたのか、カイルはしばし無言になった。
そして、吐き捨てるように言った。
「……また来るよ。きっと、君も考え直すだろうから」
その背が扉の向こうに消えていくまで、私は一歩も動かなかった。
再び訪れた“過去”は、決して甘くない。
でも私は、もう――昔の私じゃない。
その音を聞いた瞬間、私は何かが胸に引っかかるのを感じた。理由のない不安――でも、勘は外れなかった。
「ごきげんよう、クラリス。……いや、ヴァルデン令嬢と呼んだ方がいいのかな?」
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振り向いた先に立っていたのは、かつての婚約者――カイル・ラント侯爵令息だった。
かつてと変わらぬ金髪碧眼、きらびやかな衣服、傲慢な笑み。
いや、よく見ればその笑みは、どこか焦りや焦燥を滲ませていた。
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「申し訳ありません。図書館は、静かな学びの場です。個人的な面会は受け付けておりません」
きっぱりとした私の声に、カイルは目を見開いた。
その瞬間、私の背後に気配が近づく。
「その通りですね」
静かで、しかし威厳に満ちた声が、私の横から発せられた。
リュカだった。
彼は穏やかな微笑みを浮かべたまま、カイルに一礼する。
「初めまして、リュカ・アーデンと申します。クラリス嬢の同僚であり、読書室の常連でもあります」
「……貴様は?」
カイルの眉がぴくりと動いた。リュカの気配に、何か感じ取ったのだろう。
「どうか、お引き取りください。クラリス嬢が、明確にお断りされたはずです」
その穏やかさの奥にある“何か”を感じたのか、カイルはしばし無言になった。
そして、吐き捨てるように言った。
「……また来るよ。きっと、君も考え直すだろうから」
その背が扉の向こうに消えていくまで、私は一歩も動かなかった。
再び訪れた“過去”は、決して甘くない。
でも私は、もう――昔の私じゃない。
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