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8-4:祝宴の予兆と、重なる視線
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王都に来て三日目。祝宴の当日が迫る中、私は小さな緊張を胸に抱えていた。
リュカが手配してくれた仕立屋から、淡い藤色のドレスが届いた。
高価なレースと繊細な刺繍が施されたその衣装は、私にとって、あまりにも華やかで――まるで別の誰かのために用意されたようだった。
ドレスの裾を指先でそっとなぞりながら、私は鏡の前に立つ。
「これが……私?」
小さな呟きが、静かな部屋に溶けていく。そこに映る姿は、ほんの数ヶ月前の自分とは違って見えた。髪を整え、背筋を伸ばした自分を、どこか他人事のように眺めながら、心の奥で波紋のような動揺が広がる。
けれど、胸元に飾られたシンプルなペンダントに触れた瞬間、かすかに温もりが蘇る。
それは、アシュベリーの図書館を旅立つ日、リリアがこっそり持たせてくれた、手作りの石のペンダントだった。丸い小石に、手彫りで小さな星の模様が刻まれている。
「“いつものクラリスさん”を忘れないように、ってね」
そう言って笑っていた彼女の声が、今も耳の奥に残っていた。
祝宴前日の王宮は、まるで波の前触れのようなざわめきに包まれていた。廊下を歩くだけでも、侍女や宦官、貴族たちがせわしなく行き交い、空気の隙間に緊張が溶け込んでいるようだった。
「……あれが、第二王子のお気に入り? あまり冴えないわね」
「噂じゃ、地方の図書館に勤めてる平民らしいわよ?」
庭園の回廊を歩くと、そんな声がちらほらと聞こえてくる。
冷たい視線。侮蔑の囁き。けれど、それらを真正面から受け止めるほど、私はもう無防備ではなかった。
私は本を読むように、人の言葉の奥を見ようとする癖がある。
その視線の奥にあるのは、私を測ろうとする不安、王族と結ばれる女性という存在への嫉妬、そして――自身の立場が揺らぐことへの焦り。
それを読み解いてしまうからこそ、私は惑わされずにいられた。
「クラリスさん」
そのとき、背後から穏やかな声がかけられた。
振り返れば、そこに立っていたのはリュカだった。彼の姿は、どんな人ごみの中でもすぐに見つけられる。落ち着いた気配と、静かな強さを纏っているから。
「大丈夫ですか?」
「……ええ。少し、目立ってしまっただけです」
私の答えに、彼はふっと微笑んで言った。
「あなたがいるだけで、空気が穏やかになる。そんな人は、ここにはなかなかいません」
その言葉に、胸の奥に小さな光が灯るのを感じた。
それは、私がここにいてもいいのだと――そう言われた気がして。
明日、祝宴が開かれる。
そして私は――リュカとともに、その場所へ向かう。
ただ彼の隣に立つだけでなく、私という存在を、私自身が受け入れたうえで。
それは、かつての私が夢にも見なかった場所。そして今は、目を背けずに見つめられる未来の一歩だった。
リュカが手配してくれた仕立屋から、淡い藤色のドレスが届いた。
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「これが……私?」
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「……あれが、第二王子のお気に入り? あまり冴えないわね」
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庭園の回廊を歩くと、そんな声がちらほらと聞こえてくる。
冷たい視線。侮蔑の囁き。けれど、それらを真正面から受け止めるほど、私はもう無防備ではなかった。
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その視線の奥にあるのは、私を測ろうとする不安、王族と結ばれる女性という存在への嫉妬、そして――自身の立場が揺らぐことへの焦り。
それを読み解いてしまうからこそ、私は惑わされずにいられた。
「クラリスさん」
そのとき、背後から穏やかな声がかけられた。
振り返れば、そこに立っていたのはリュカだった。彼の姿は、どんな人ごみの中でもすぐに見つけられる。落ち着いた気配と、静かな強さを纏っているから。
「大丈夫ですか?」
「……ええ。少し、目立ってしまっただけです」
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「あなたがいるだけで、空気が穏やかになる。そんな人は、ここにはなかなかいません」
その言葉に、胸の奥に小さな光が灯るのを感じた。
それは、私がここにいてもいいのだと――そう言われた気がして。
明日、祝宴が開かれる。
そして私は――リュカとともに、その場所へ向かう。
ただ彼の隣に立つだけでなく、私という存在を、私自身が受け入れたうえで。
それは、かつての私が夢にも見なかった場所。そして今は、目を背けずに見つめられる未来の一歩だった。
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