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9-2:王宮の図書室と、古文書の声
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王宮の奥にある図書室は、静謐という言葉がこれ以上なく似合う場所だった。
高い天井には優美なアーチが巡り、淡い光がステンドグラスから差し込んでいる。壁一面には、時代ごとに分類された古書や巻物が、まるで時を超えて息づくように整然と並んでいた。空気は紙と革と少しのインクの匂いに包まれ、どこか懐かしく、それでいて神聖な空気が漂っている。
中央には、精緻な彫刻が施された重厚な閲覧机が数台置かれ、その上にはすでに何冊かの古文書が開かれたままにされていた。
「ここは、王国の歴史と知識が眠る場所です。言葉にすれば、それだけのことですが……中に詰まった重みは、言葉以上のものです」
案内してくれたのは、王宮付きの書記官だった。知的で落ち着いた口調のその人物は、私の名前を耳にすると、ふと目を細めて微笑んだ。
「クラリス・ヴァルデン嬢。貴女のレファレンス技術と知識には、王子殿下もたいへん感服されておられますよ」
「……そんな、大層なものではありません。ただ、私は本を読むのが好きなだけで」
私がそう答えると、書記官は穏やかに首を振りながら、私を閲覧机のひとつへと導いた。
そこに開かれていたのは、古びた羊皮紙に書かれた、一見しても非常に傷みの激しい文書だった。王国建国以前のものであり、古語で綴られた外交記録であるという。
私はそっと椅子に腰を下ろし、文書の文字へ視線を落とす。すると、すぐに――いや、いつも以上に鮮明に、“言葉が訴えてくる”感覚に包まれた。
紙の繊維を通して、言葉の裏にある意図や、文脈の変化、書き手のわずかな迷いまでが伝わってくるような――まるで古書が「話して」いるようだった。
(これは……王家の婚姻政策に関する記録? でも、この言い回し……表の意味と裏の目的が乖離している)
私は読み進めるうちに気づいた。
これは単なる歴史的婚姻の記録などではない。もっと根深い、王家とある古の魔法大国との間に結ばれた、“見えない契約”――外交と魔術、そして血筋の継承にまつわる密約が、この文書には含まれていた。
「……リュカ様に、お伝えすべきかもしれない」
考えを巡らせていると、静かに扉が開いた。
振り向けば、そこにはリュカがいた。
彼は私の様子を見て、少し笑みを浮かべた。
「どうやら、貴女は王宮の図書室でも変わらず輝いているようですね」
「そんな……でも、少し気になる記述がありました」
私は、できるだけ簡潔に、文書の内容とその裏にある可能性について説明した。リュカは私の言葉を遮ることなく最後まで聞き、やがて深く頷いた。
「ありがとう、クラリス。君の目はやはり確かだ。これは今夜の評議の場で、大きな意味を持つかもしれません」
「……お役に立てたのなら、嬉しいです」
胸の奥で、静かな安堵が広がった。
“古書の囁き”――この力は、剣のような力ではないし、人を傷つけるものでもない。けれどこうして誰かの助けになれるのなら、私は迷わずこの力を受け入れたいと思った。
それは、クラリスという私自身を肯定する、一つの答えでもあった。
王宮の静かな図書室の中で、私は再び、“本”という言葉を通して世界と繋がっていた。
高い天井には優美なアーチが巡り、淡い光がステンドグラスから差し込んでいる。壁一面には、時代ごとに分類された古書や巻物が、まるで時を超えて息づくように整然と並んでいた。空気は紙と革と少しのインクの匂いに包まれ、どこか懐かしく、それでいて神聖な空気が漂っている。
中央には、精緻な彫刻が施された重厚な閲覧机が数台置かれ、その上にはすでに何冊かの古文書が開かれたままにされていた。
「ここは、王国の歴史と知識が眠る場所です。言葉にすれば、それだけのことですが……中に詰まった重みは、言葉以上のものです」
案内してくれたのは、王宮付きの書記官だった。知的で落ち着いた口調のその人物は、私の名前を耳にすると、ふと目を細めて微笑んだ。
「クラリス・ヴァルデン嬢。貴女のレファレンス技術と知識には、王子殿下もたいへん感服されておられますよ」
「……そんな、大層なものではありません。ただ、私は本を読むのが好きなだけで」
私がそう答えると、書記官は穏やかに首を振りながら、私を閲覧机のひとつへと導いた。
そこに開かれていたのは、古びた羊皮紙に書かれた、一見しても非常に傷みの激しい文書だった。王国建国以前のものであり、古語で綴られた外交記録であるという。
私はそっと椅子に腰を下ろし、文書の文字へ視線を落とす。すると、すぐに――いや、いつも以上に鮮明に、“言葉が訴えてくる”感覚に包まれた。
紙の繊維を通して、言葉の裏にある意図や、文脈の変化、書き手のわずかな迷いまでが伝わってくるような――まるで古書が「話して」いるようだった。
(これは……王家の婚姻政策に関する記録? でも、この言い回し……表の意味と裏の目的が乖離している)
私は読み進めるうちに気づいた。
これは単なる歴史的婚姻の記録などではない。もっと根深い、王家とある古の魔法大国との間に結ばれた、“見えない契約”――外交と魔術、そして血筋の継承にまつわる密約が、この文書には含まれていた。
「……リュカ様に、お伝えすべきかもしれない」
考えを巡らせていると、静かに扉が開いた。
振り向けば、そこにはリュカがいた。
彼は私の様子を見て、少し笑みを浮かべた。
「どうやら、貴女は王宮の図書室でも変わらず輝いているようですね」
「そんな……でも、少し気になる記述がありました」
私は、できるだけ簡潔に、文書の内容とその裏にある可能性について説明した。リュカは私の言葉を遮ることなく最後まで聞き、やがて深く頷いた。
「ありがとう、クラリス。君の目はやはり確かだ。これは今夜の評議の場で、大きな意味を持つかもしれません」
「……お役に立てたのなら、嬉しいです」
胸の奥で、静かな安堵が広がった。
“古書の囁き”――この力は、剣のような力ではないし、人を傷つけるものでもない。けれどこうして誰かの助けになれるのなら、私は迷わずこの力を受け入れたいと思った。
それは、クラリスという私自身を肯定する、一つの答えでもあった。
王宮の静かな図書室の中で、私は再び、“本”という言葉を通して世界と繋がっていた。
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