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9-3:陰りの中の決意
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王宮での日々は、思いのほか静かだった。
華やかな晩餐、重厚な装飾、規律正しい騎士たちの立ち振る舞い。外見はどこまでも完璧で、絵画のように整っている。けれど、その煌びやかさの裏には、常に張りつめた緊張の糸が走っていた。
とくに――リュカの周囲には。
「第二王子殿下。ご婚約に関しては、やはり王族として相応しい方を……」
ある晩、会議室から漏れ聞こえた声。貴族の一人が、慎重な口調で切り出した。
私は扉の外に立っていた。正式な出席者ではなかったが、リュカの指示で、補佐として資料の整理と一部の文書確認を任されていた。
中で交わされる声の温度が、次第に低く、鋭くなっていくのが感じ取れた。
「“相応しい”とは、具体的に何を指しているのですか?」
リュカの声は、あくまで冷静だった。けれどその奥には、明確な意思が宿っていた。
「血筋、家柄、育ち、社交性、政治的影響力……それに、やはり民衆からの見られ方も重要かと」
「なるほど。では、クラリス嬢にはそれらが欠けていると?」
「い、いえ……その、決して否定するつもりでは……」
声がしぼむ。部屋の中に重い沈黙が降りた。
私は扉の前で静かに立ち尽くしていた。胸の内に、冷たい水が流れ込むような感覚。足元がすこし揺れる気がした。
私は、リュカの隣に立つことを選んだ。でも、それは誰かにとって「納得しがたい選択」でもあるのだと――あらためて思い知らされる。
けれど。
(……それでも。)
私は立ち止まらなかった。
その夜、図書室の一隅で、私は静かに手紙を綴った。思いを言葉にしなければ伝わらないことがある――アシュベリーの図書館で、私はそれを学んだから。
《私は、王宮の煌めきより、図書館の埃と紙の匂いに安心を感じます。》
《それでも、あなたの隣にいると決めたのは、自分自身の意志です。》
《たとえ、どんな言葉を向けられても、私は逃げません。あなたと共に歩むと、心に決めたから。》
翌朝。リュカは何も言わず、ただその手紙を丁寧にたたみ、胸元の内ポケットへとしまった。
そして、そっと私の手を取った。
言葉はなかった。でも、その温もりにすべてが込められていた。
「君がいることで、私は“王であれる”」
ぽつりと、彼がそう呟いた。
その一言は、鎧のように私の心を包み込み、過去の不安や恐れを一つ一つ静かに溶かしてくれた。
この愛を守ることは、決して容易ではない。
それでも私は――逃げないと決めた。
彼の隣で、真っすぐに生きると決めたのだ。
華やかな晩餐、重厚な装飾、規律正しい騎士たちの立ち振る舞い。外見はどこまでも完璧で、絵画のように整っている。けれど、その煌びやかさの裏には、常に張りつめた緊張の糸が走っていた。
とくに――リュカの周囲には。
「第二王子殿下。ご婚約に関しては、やはり王族として相応しい方を……」
ある晩、会議室から漏れ聞こえた声。貴族の一人が、慎重な口調で切り出した。
私は扉の外に立っていた。正式な出席者ではなかったが、リュカの指示で、補佐として資料の整理と一部の文書確認を任されていた。
中で交わされる声の温度が、次第に低く、鋭くなっていくのが感じ取れた。
「“相応しい”とは、具体的に何を指しているのですか?」
リュカの声は、あくまで冷静だった。けれどその奥には、明確な意思が宿っていた。
「血筋、家柄、育ち、社交性、政治的影響力……それに、やはり民衆からの見られ方も重要かと」
「なるほど。では、クラリス嬢にはそれらが欠けていると?」
「い、いえ……その、決して否定するつもりでは……」
声がしぼむ。部屋の中に重い沈黙が降りた。
私は扉の前で静かに立ち尽くしていた。胸の内に、冷たい水が流れ込むような感覚。足元がすこし揺れる気がした。
私は、リュカの隣に立つことを選んだ。でも、それは誰かにとって「納得しがたい選択」でもあるのだと――あらためて思い知らされる。
けれど。
(……それでも。)
私は立ち止まらなかった。
その夜、図書室の一隅で、私は静かに手紙を綴った。思いを言葉にしなければ伝わらないことがある――アシュベリーの図書館で、私はそれを学んだから。
《私は、王宮の煌めきより、図書館の埃と紙の匂いに安心を感じます。》
《それでも、あなたの隣にいると決めたのは、自分自身の意志です。》
《たとえ、どんな言葉を向けられても、私は逃げません。あなたと共に歩むと、心に決めたから。》
翌朝。リュカは何も言わず、ただその手紙を丁寧にたたみ、胸元の内ポケットへとしまった。
そして、そっと私の手を取った。
言葉はなかった。でも、その温もりにすべてが込められていた。
「君がいることで、私は“王であれる”」
ぽつりと、彼がそう呟いた。
その一言は、鎧のように私の心を包み込み、過去の不安や恐れを一つ一つ静かに溶かしてくれた。
この愛を守ることは、決して容易ではない。
それでも私は――逃げないと決めた。
彼の隣で、真っすぐに生きると決めたのだ。
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