婚約破棄された令嬢は“図書館勤務”を満喫中

かしおり

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9-4:舞踏会の誓い

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 王宮の舞踏会は、まるで異世界だった。

 煌びやかな衣装、高く掲げられたシャンデリアの光。優雅に流れる音楽と、床を滑るように踊る人々のステップ。そのすべてが絵画のようで、まるで夢の中に迷い込んだような心地がした。

 私は、エルネスト館長とリリアが選んでくれた深い藍色のドレスを身にまとっていた。派手すぎず、けれど気品を感じさせるデザイン。そして胸元には、アシュベリー図書館のシンボルを模した小さなブローチが輝いている。

 それは、私自身がどこから来たのか――今もなお、どこに帰属しているのかを、静かに思い出させてくれる印だった。

「君は、この夜にこそ、最もふさわしい」

 リュカが私の手を取る。その手はいつもと同じように温かく、迷いがなかった。彼に導かれ、私は舞踏会の中央へと進んでいく。

 周囲の空気が変わるのを感じた。

 ざわめき、視線、囁き。驚きと戸惑い、そして――羨望や嫉妬が、ひそやかに空間を満たしていく。

 けれど私は、怯まなかった。

 音楽が切り替わり、新たな舞曲が始まる。

 リュカの手が、私の背にそっと添えられる。舞う足の運びは自然と調和し、彼のリードに身を委ねると、不思議と不安が和らいでいった。

「心配はいらない。君は、堂々としていればいい」

 その言葉に、私はかすかに唇を引き結ぶ。

「でも、皆が見ています。私なんかが、この場にいていいのかと……」

「“なんか”ではありません。“君だから”いいのです」

 その優しい声に、胸がふっとあたたかくなる。私は静かに息を整え、まっすぐ前を見据えた。

 舞曲の終わりと同時に、リュカは私の手を取り、中央へと一歩踏み出した。

「皆様」

 そのひと声で、ざわめきが静まる。

 王子としての風格を纏ったまま、リュカはゆっくりと言葉を紡ぐ。

「本日、私はこの場を借りて、王家の名において宣言いたします」

 会場の空気が凍る。耳を澄ませたような沈黙が広がった。

「クラリス・ヴァルデン嬢は、私リュカ・アーデンの唯一の婚約者であり、将来、王妃として王家に迎えるべき相手です」

 その言葉は、まるで真空を破るように広間を満たした。

 一瞬の静寂ののち、遠くから一つ、誰とも知れぬ拍手が響いた。

 それは少しずつ波紋のように広がり、数人の貴族が立ち上がって静かに頭を下げる。その姿を見た他の者たちも、次第に従い始めた。

 変わろうとしている。確かに、世界が――。

「……ええ」

 私はそっとリュカを見上げ、心からの笑みを浮かべた。

「私も、あなたを選びます」

 この夜、王宮は静かに変化した。

 たくさんの言葉や装飾よりも強く、ただ一組の男女が――お互いを選び、誓い合ったという事実が、そのすべてに勝っていた。
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