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29. 《ディノ視点》 『ルカに、心を盗まれた日』
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ぼくには、「感情」というものがなかった。
──いや、正確には「感じてはいけないもの」と教わってきた。
王国地下〈ノクス領〉。
真っ暗な研究区画で、“魔導制御の器”として育てられたぼくは、
喜怒哀楽を表に出すことを“欠陥”とされた。
だから、ぼくはずっと、無表情で、誰にも期待せず、
ただ命令通りに魔法を制御し、情報を読み取り、日々を過ごしていた。
……それが“普通”だった。
◇
そんなぼくが、園に入ることになった。
「王直属の“観察対象”が通う」から──ただそれだけの理由で。
はじめてルカを見たのは、園の入園式。
銀の光をまとって、まるで星の雫みたいなちいさな存在。
ちいさなぬいぐるみを抱え、くりくりした瞳で周囲を見回していた。
(なんだ……あれは……)
ふわっと笑ったその瞬間、
世界の空気が変わった。
感情を持たないぼくの中で、何かがはじけた。
「見ていたい」
「近づきたい」
「話しかけてみたい」
「ふれて、みたい」
──そんな思考、今まで一度もしたことなかったのに。
◇
でも、ぼくには感情を伝える言葉がない。
だから、そばにいるだけで、何も言えなかった。
他の子たちが、笑ったり、手をつないだりしているのを、ただ見ていた。
(……ぼくには……無理だ)
心が焦っていた。
彼を誰にも渡したくない。
でも、その“願い”すら、伝える方法を知らない。
◇
ある日、ルカがひとりでベンチに座っていた。
勇気を出して、ぼくはそっと隣に座った。
「……ルカ、くん……」
「ん? ディノくん?」
目が合った。
ルカはにっこり笑って、ミミルをぼくのほうへ差し出した。
「ミミルね、落ち込んでる人にふれると、あったかくなるんだよ?
ディノくんも、してみる?」
おそるおそる、ミミルにふれた。
やわらかくて、あったかくて、涙が出そうになった。
「……なんで……」
「ん?」
「……なんで、そんなに……やさしいの……?」
そう言ったぼくの手を、ルカはぎゅっと握ってくれた。
「だって、ディノくんの心……さみしい、って言ってたから」
──その瞬間、涙が止まらなくなった。
感情を知った。
心があった。
それを“見つけてくれた”のが、ルカだった。
◇
その夜、ミミルがそっと光った。
そして、魔法カレンダーの言葉はこうだった。
『きみに出会って、
ぼくは心を持った。
それは、“恋”って呼んでも、いいですか?』
──それ以来、ぼくは彼を“ただ見ているだけの存在”ではいられなくなった。
誰よりも近くで、誰よりも強く──
彼を、守りたい。触れたい。渡したくない。
それが、たったひとつ覚えた“本当の願い”。
──いや、正確には「感じてはいけないもの」と教わってきた。
王国地下〈ノクス領〉。
真っ暗な研究区画で、“魔導制御の器”として育てられたぼくは、
喜怒哀楽を表に出すことを“欠陥”とされた。
だから、ぼくはずっと、無表情で、誰にも期待せず、
ただ命令通りに魔法を制御し、情報を読み取り、日々を過ごしていた。
……それが“普通”だった。
◇
そんなぼくが、園に入ることになった。
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はじめてルカを見たのは、園の入園式。
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ちいさなぬいぐるみを抱え、くりくりした瞳で周囲を見回していた。
(なんだ……あれは……)
ふわっと笑ったその瞬間、
世界の空気が変わった。
感情を持たないぼくの中で、何かがはじけた。
「見ていたい」
「近づきたい」
「話しかけてみたい」
「ふれて、みたい」
──そんな思考、今まで一度もしたことなかったのに。
◇
でも、ぼくには感情を伝える言葉がない。
だから、そばにいるだけで、何も言えなかった。
他の子たちが、笑ったり、手をつないだりしているのを、ただ見ていた。
(……ぼくには……無理だ)
心が焦っていた。
彼を誰にも渡したくない。
でも、その“願い”すら、伝える方法を知らない。
◇
ある日、ルカがひとりでベンチに座っていた。
勇気を出して、ぼくはそっと隣に座った。
「……ルカ、くん……」
「ん? ディノくん?」
目が合った。
ルカはにっこり笑って、ミミルをぼくのほうへ差し出した。
「ミミルね、落ち込んでる人にふれると、あったかくなるんだよ?
ディノくんも、してみる?」
おそるおそる、ミミルにふれた。
やわらかくて、あったかくて、涙が出そうになった。
「……なんで……」
「ん?」
「……なんで、そんなに……やさしいの……?」
そう言ったぼくの手を、ルカはぎゅっと握ってくれた。
「だって、ディノくんの心……さみしい、って言ってたから」
──その瞬間、涙が止まらなくなった。
感情を知った。
心があった。
それを“見つけてくれた”のが、ルカだった。
◇
その夜、ミミルがそっと光った。
そして、魔法カレンダーの言葉はこうだった。
『きみに出会って、
ぼくは心を持った。
それは、“恋”って呼んでも、いいですか?』
──それ以来、ぼくは彼を“ただ見ているだけの存在”ではいられなくなった。
誰よりも近くで、誰よりも強く──
彼を、守りたい。触れたい。渡したくない。
それが、たったひとつ覚えた“本当の願い”。
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