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55. 《ユリウス視点》 『ほどけそうで、ほどけない──ルカ様と僕の距離感』
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「……また、笑ってる」
中庭の花のあいだで、ルカ様がふわっと笑った。
ぬいぐるみのミミルを抱いたまま、
魔法庭園から降りてきた小さな背中が、陽に照らされてきらきらと揺れる。
「アス……くんって言ったっけ。昨日の子、すごく嬉しそうだったな……」
口ではそう呟きながら、胸の奥がチクッと痛んだのはなぜだろう。
ルカ様は誰にでも優しい。
誰にでも微笑んで、誰にでも手を差し伸べる。
──だからこそ、僕だけの“特別”には、なれない。
そんなこと、分かってる。
分かってるのに……。
◇
「ユリウス、ちょっと話せるかしら?」
声をかけてきたのは、園の保育長、ナディア先生だった。
「最近、ルカ様との関係……少し距離をとってるように見えるけど、何かあったの?」
「……僕が、ルカ様に……勝手に、期待してただけです」
「期待?」
「ルカ様が“僕にだけ笑ってくれる”って、思ってたんです。でも違った。
誰にでも、あんなふうに……優しくて。眩しくて」
ナディア先生は静かに微笑んだ。
「ねえユリウス、それって“期待”じゃなくて“願い”じゃない?
“誰かにだけ優しい人”じゃなく、“誰にでも優しくできる人”を、
あなたは……好きになったのよ」
(──ああ、そうか)
それが、ルカ様の“本質”なんだ。
僕が惹かれたのは、その輝きそのもの。
自分だけを見てくれなくてもいい。
でも、願わくば──
一歩だけでも、近づいていたいと思ってしまう。
◇
その日の夕暮れ。
園の帰り道、ふとした瞬間に、ルカ様がこちらを振り向いた。
「ユリウス……なんだか今日は、少し遠かったね」
「えっ……」
「でも、大丈夫だよ。僕、ちゃんと見てるから」
にこっと笑って、ミミルごと僕に“片手”を差し出してくれた。
──ああ、やっぱり、届かない。
でも、手を伸ばしたくなるんだ。
僕はその小さな手を、そっと握った。
いつか、もう少し近くに行けたら。
それだけで、きっと幸せなんだ。
◇
その夜の魔法カレンダーには、こんな言葉が記された。
『好きになるって、特別をもらうことじゃない。
“そばにいたい”って思える気持ちを、大切にすることだよ』
──ほどけそうで、ほどけない。
でも、いつか、結び直せる気がする。
それが、僕とルカ様の“距離感”。
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口ではそう呟きながら、胸の奥がチクッと痛んだのはなぜだろう。
ルカ様は誰にでも優しい。
誰にでも微笑んで、誰にでも手を差し伸べる。
──だからこそ、僕だけの“特別”には、なれない。
そんなこと、分かってる。
分かってるのに……。
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「期待?」
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誰にでも、あんなふうに……優しくて。眩しくて」
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「ねえユリウス、それって“期待”じゃなくて“願い”じゃない?
“誰かにだけ優しい人”じゃなく、“誰にでも優しくできる人”を、
あなたは……好きになったのよ」
(──ああ、そうか)
それが、ルカ様の“本質”なんだ。
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でも、願わくば──
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