この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

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76. 「王の使者、膝を折る」

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その人が現れたのは、昼下がりの園庭だった。

静かな空気を裂くように、ひずんだ魔力の風。
そして、きらびやかな馬車が園の門の前に止まった。

「な、なんだあれ……?!」

レオンが口を開け、ノアがぴたりと動きを止める。

馬車の扉がゆっくりと開き、降りてきたのは――
黄金の装束をまとった、堂々たる佇まいの男だった。

背は高く、年は中年ほど。
目は鋭く、魔法使いの証である“黒曜石の紋章”が胸元に輝いていた。

「王の使者……!」

ユリウスが息をのむように言った。

それは、王都直属の“魔導参事会”の高位魔術師――
王族に匹敵する魔法的権限を持つ者の証だった。

**

園長先生が慌てて出迎える。

「な、なにゆえ、このような……!」

だが使者は、静かにひとつだけ言った。

「この園に、“神子”がいると聞いた。謁見を求める」

教室の空気が凍る。

「……ルカくんのこと……?」

ノアが、小さな声でつぶやいた。

**

使者の目が、ボクをとらえた。

その瞬間――世界が静止したようだった。

彼の瞳に映るのは、ただの園児。
けれどその奥には、“世界樹を咲かせた者”という神話が根づいていた。

「……おまえが、“ルカ”か」

ゆっくりと近づいてくる、その一歩ごとに、空気が重くなる。

「見定める。……その存在が、王の手に届くものか否か」

ボクは、ミミルをそっと抱きしめた。

「えっと……こんにちは。あなたの声、ちょっとだけ疲れてるね」

「……は?」

「大丈夫? 緊張してると、呼吸が詰まりやすいから……」

ボクは、微笑みながら“灯(ともしび)”の魔法を使った。

風がふわりと吹き、彼の肩から魔力の緊張がするりと抜けていく。

使者の瞳が、見開かれた。

そして――

次の瞬間、彼は、地面に片膝をついた。

「……これは、神の祝福……」

「え?」

「この子は……もはや“人”ではない。
“癒し”“慈しみ”“神の光”――そのすべてが宿っている……」

ボクは小さく首をかしげた。

「えっと、ただ“だいじょうぶだよ”って気持ちを、魔法にのせただけなんだけど……」

使者は震えながら、頭を垂れた。

「……この者に、謁見する資格など……我らにはない」

**

王都に伝えられた報告は、のちにこう記録される。

“神子は、ただの子どもではなかった。
彼は、神話の再臨である。
その微笑みは、人の膝を折り、魂を鎮める。”

**

帰り際、使者はひとつだけボクに問いかけた。

「……おまえは、なにを望む?」

ボクは少し考えて、答えた。

「みんなが、やさしくなれたらいいな。それだけ」

使者は静かにうなずいて、馬車に乗りこんだ。

そして、誰もいなくなった門の前で、ノアがぽつり。

「……ルカくん、もう国とか超えちゃったね」

うん、ボクもそう思う。

でも――

ボクは明日も、園でみんなとお絵描きしてるつもりなんだけどな。
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