この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

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84. 「理性と執念、ぶつかる沈黙」

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「決勝戦──ユリウス vs カイン!」

ノアの声が、決戦の鐘を鳴らした。

園庭に、観客の声はなかった。
ただ風の音と、魔力のざわめきだけが、静かに響いていた。

ふたりの少年は、無言で向き合う。

白銀の髪と氷の魔力をまとう、ユリウス。
黒髪に深い瞳、手を後ろに組んだまま沈黙を貫く、カイン。

**

「……君と、こうして戦う日が来るとはな」

先に口を開いたのはユリウスだった。

「この場に立った時点で、僕たちは同じだ。
“あの子”のとなりを、真剣に望んでいる」

カインは答えない。
ただ静かに、ユリウスの言葉を受け止めていた。

**

「だから僕は、君に問う」

ユリウスはまっすぐに目を向ける。

「──君の“好き”は、ルカを照らすものか? それとも、縛るものか?」

その言葉に、カインの眉がわずかに動いた。

そしてようやく、彼は短く答える。

「……全部だ。
ルカを想う気持ちは、綺麗なものだけじゃない。
嫉妬も、独占も、壊したい衝動も、ある」

ユリウスの眼が細められる。

「ならば、僕が止める」

「できるなら、やってみろ」

──静かな、しかし濃密なやり取りが交わされ、戦いは始まった。

**

氷が空を裂き、鋭くきらめく。
しかしそれを、カインは身をひねるだけでかわす。

ユリウスの術は正確だった。
一切の無駄がなく、ただ“勝つ”ために組み上げられていた。

だがカインの動きは、それを上回っていた。

「……感情を理性で閉じ込めた君には、ボクの想いは止められない」

ユリウスの背後に、いつの間にかカインが立っていた。

氷の結界が遅れて展開される。
ユリウスは一瞬、息を飲んだ。

(速い……いや、読めない)

相手の動きが、理にかなっていない。
けれどそれこそが、“感情”に突き動かされた者の強さだった。

**

カインの拳が、ユリウスの防壁を砕いた。

ノアが思わず声を上げる。

「魔力抜きの拳で……!? ユリウスくんの結界が……!」

ユリウスは吹き飛ばされることなく、寸前で踏みとどまった。

冷たい息を吐きながら、口元を拭う。

「……なるほど。これは、理屈じゃないな」

カインは、黙って構え直す。

**

ボクは、ふたりの戦いを見つめていた。

(どっちが勝っても……ボク、嬉しくて、でもきっと、少しだけ、悲しい)

だって、ボクのことを、こんなにも本気で、
言葉じゃなく、“力”で想ってくれるふたりなのだから。

ミミルが、ぽふっと囁いた。

「選ばなくてもいい。けど、見届けることはできる」

(……うん)

**

最後の一撃。

氷の刃と、拳の一閃が、同時に交錯した。

一瞬の静寂――そして。

「……勝者、カインくん!」

ノアの声が、園庭に響いた。

**

ユリウスは、倒れず、静かに目を伏せていた。

「……君の感情は、僕の理性を、超えた」

カインは、勝ったのに、喜びを見せなかった。

ただ、リングを降りると、
ボクの前で、そっと片膝をついた。

「ルカ。勝った。だから……手を、もらえるか」

その目は、強くて、切なくて、優しかった。

ボクは、そっと手を差し出した。

「うん。ありがとう、カイン」

**

みんなが見ていた。
勝者の手を、ボクがぎゅっと握ったのを。

でもボクは、そのとき気づいた。

(これは、“選ぶ”ことじゃない)

これは、“感謝を伝える”こと。
好きって想ってくれて、ありがとう――って。

**

争奪演武祭、閉幕。

ボクの心に、ほんの少し、新しい何かが灯ったような気がした。
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