この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

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106. 「レオン、孤独を守る壁(誰にも触れさせないくせに)」(レオン視点)

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「……ルカ、おまえさ。
ほんと、バカだよな」

レオンはぽつりと呟いた。
誰もいない夜の講堂、ひとり腰掛けた椅子の上。

視線の先には、ルカが昼に落としていったハンカチ。
未来種子の刺繍入り。金色の糸が、月の光を受けてわずかに光っていた。

誰も気づかないくらいささいな落とし物。
だけどレオンは、ずっとそれを拾わず、ただ見つめていた。

「何も見えてないふりして、全部わかってんだろ?」

「オレたちが、どんな気持ちで“選ばれない”ことを受け入れてるかなんて、
おまえがいちばんわかってるくせに……」

それでも、あいつはあんなふうに笑って、
全員に優しい言葉をかける。

誰にも選ばれない。
誰も選ばない。

──その正しさが、いちばん人を殺すことに。

(……それでも、オレは)

「……どうして、こんなに悔しいんだよ」

***

翌日。

「レオンくん、おはよう」

その声がした瞬間、心臓がひくりと跳ねた。

「……ああ」

「昨日、ありがとうね。ハンカチ見つけてくれてたんだって、ノアくんに聞いたよ」

「ああ、あれか。……落ちてただけだ」

「……うん。でも、うれしかった」

ルカはそう言って、にこっと笑う。

あぁ、その顔。
オレが、誰にも見せたくない顔。

「なあ、ルカ」

「うん?」

「おまえ、誰にでもそんな顔で笑ってるけどさ」

「オレだけには、もうちょっと違う顔、見せてくれたりしねぇの?」

その言葉に、ルカは目を丸くする。

「……レオンくん?」

「べつに、特別扱いしてほしいとかじゃない」

「けど……なんでだろな。
おまえの優しさって、オレには時々、すげぇ冷たく感じんだよ」

「え……」

ルカはしばらく黙っていた。

レオンの瞳は、どこか寂しげで、
それでいて“決して踏み込ませない壁”を感じさせた。

「……ごめんね、レオンくん」

「でも、ボクも、ちゃんと“こわい”んだよ。誰かを特別にしたら、他の誰かが、ボクを嫌いになっちゃう気がして……」

「……だから、ボクね、みんなに同じ顔で接するようにしてるの。
本当は、違う感情があっても、それを見せたら、誰かが泣く気がして……」

その声が、ふるえていた。

レオンは驚いたように、ほんの少しだけ目を見開いた。

「……バカだな。そんなに全部、背負わなくてもいいのに」

「……でも、背負っちゃうんだよ。ボク、そういうふうに作られちゃったみたいでさ」

ルカの笑顔は、泣きそうなくらい優しかった。

レオンはふっと視線を逸らす。

「……だったらオレは、誰よりも“その重さ”を知ってるって顔をして、おまえの横にいればいいだけか」

「……レオンくん」

「誰のものにもならないって言うなら、それでいい。
けど、おまえが壊れそうなとき、抱きしめるくらいは許されるよな?」

「うん……ありがとう」

ルカの声が震えていた。

レオンはそれを聞いて、ようやく手を伸ばした。

そっと、ルカの頭に触れる。

「……触れるだけ。オレは、それで十分だ」

(誰にも踏み込ませたくない。
でも、唯一おまえだけは、いつでもオレの壁を越えてくる)

(そのくせ、オレにすら心の奥を見せねぇ)

(ほんと、どうしようもねぇくらい、好きだよ。ルカ)
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