異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京

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第二章 神殿勤め

1.宰相様の手弁当

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 神殿での勤めは、半日ほどでおわる。
 午前から神殿へ赴き、途中、昼食の休憩を挟む。
 昼食は、天気が良ければ神殿の奥庭、それでなければ、控え室として用意して貰っている豪華な一室で食べる。
 今日は、奥庭に、テーブルを出して貰った。
 宰相の用意してくれた袋には、水筒に入った紅茶、それと、フランスパンに近いハードパンを開いて、そこにハムやチーズを挟んだものだった。
 日本とは違って、水漏れに対策された容器というのは、あまりないのだろう。なので、大抵、こうした食事になる。
「頂きまーす」
 昔からのクセで、手を合わせてから、パンを手に取る。
 長いパンだったが、食べやすいように半分にしてから、油紙に包んであった。
 祈りを捧げると、存外、体力も使うし腹も減る。思い切りかぶりつくと、パンは香ばしくて、サクッとした水分が少なめの食感だった。そこに、惜しげもなくバターを塗って、ミルク感がたっぷりしたチーズと、塩気の強めの厚切りハムが入っている。小さなキュウリのような野菜を酢漬けにしたピクルスに、タマネギのスライスも入っていて、かなりボリュームがある。
「あっ……美味しい、いつも美味しい料理でありがたいなあ」
 宰相は、パンも作ってくれているという。
 忙しい方だと思うのに、申し訳ないとは、毎食思う。しかし、こうして用意して貰う食事は、とても美味しくて、幸せな気分になる。
 口いっぱいにパンを頬張って、食べ進めると、あっという間にフランスパン一本分のサンドウィッチを食べきってしまった。
「おお、美味しかった……」
 食後の為に、紅茶まで用意して貰っている。
 水筒は、金属で出来ている。魔法瓶のように、保温することは出来ないが、食事と一緒に、飲み物の心配までして貰っているというのが、本当にありがたいことだった。
(ここでは、ジュースとか、お茶とかを日常的に飲むって言う風習がないみたいだし……)
 飲み物を用意するようになったのは、宰相と食事をしていたとき、水分の少ない食べ物を、ルイが食べにくそうにしていたのを見てのことだった。
 元いた所では、食事には大抵、汁物か飲み物を一緒に付けていたので、というと、紅茶を煎れてくれたのだった。
 宰相は、くつろぐ時には、紅茶か蒸留酒をお供にするらしい。
 その宰相自ら淹れてくれた紅茶は、日本で飲んでいたものよりも香りが良くて、とても美味しかった。その、紅茶を、大抵、お弁当のお供に淹れて持たせてくれるのだ。
「いつも、何から何までお世話になっていて、心苦しいなあ……」
 せめて、宰相の手料理以外にも、食べることが出来るものが増えれば良いのに。少しずつ、試してみるが、今の所は見つからない。
「自分で作ったら、もしかしたら、なんとかなるかなあ……」
 自分で作ったことはない。日本では、多少の自炊はしていたが、こちらでは、勝手が違いそうで、少々の怖さがある。それに、宰相邸の料理人を差し置いて、ルイが厨房に立つわけには行かないだろう。
 お弁当は、満足だった。いつも、美味しいものを食べて、幸せになるが。同時に、申し訳なさを感じる。
(……いつまでも、宰相様のお世話になることが出来ないとも思うし……)
 なんとか、方法はないだろうか? 
 思案するが、今の所、良い方法は思いつかなかった。
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