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第6話 嫁弁当バトル!愛と胃袋をかけて
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アルヴェイン家の朝は、基本的に穏やかである。
使用人たちが手際よく朝食を整え、当主のカイルが「寝起きのコーヒー」を片手に新聞を読み、ルミナが制服姿で爆裂杖を抱えて登校準備にいそしむ──そんな、日常の風景だ。
だが、今日の朝は違っていた。
「ミレイアの弁当? いいえ、ルーク様に食べていただくのは、私の情熱弁当よ!」
「は? あなたの“情熱”なんて、どうせ激辛爆撃味でしょ!?」
「ちょっと!? それ、実際に一回爆発させたあなたが言います?」
「私は“愛の味”よ。ほんのり優しくて、あと引くの。まさに正妻の味!」
「じゃあ私は“刺激の味”で勝負するわ。男ってのはギリギリの味に弱いのよ?」
──戦場は、キッチンだった。
ミレイアとクラリスの火花が、包丁と鍋の合間で散っている。
ことの発端は、「ルーク様のお弁当、今日は私が作るわ」とミレイアが言い出したこと。
当然クラリスが黙っているわけもなく、「じゃあ“どっちが美味いか勝負”ね!」と提案したことで、もう引くに引けない“正妻バトル”が開幕してしまったのだった。
* * *
屋敷の裏手の森では──
「……なあ、なんで俺、山菜採りに来てんだろうな?」
草むらにしゃがみ込みながら、ジークがため息をつく。
「だってあなた、ヒマそうだったでしょ?」
「いやまあ……確かに仕事なくなってヒマだけど……でも山菜って!!」
「静かに。そこ、いい感じのキノコが生えてる」
クラリスがしゃがみ込み、鮮やかな赤いキノコを摘みながらにやりと笑う。
「これ、刺激強そうでしょ? “嫁の意地”ってやつよ」
「……あんた、絶対毒キノコと混ぜるタイプだよな……」
一方のミレイアは、野草と薬草の識別に余念がない。
「これは滋養強壮、これは抗疲労……ふふ、愛情って、健康にも配慮するものなのよ?」
「いや、嫁ってどんだけ本気なんだよ……」
ジークは頭を抱えた。魔女ふたりに引き連れられての“食材探し”が、まさかこれほど命がけだとは思ってもみなかった。
* * *
そして、屋敷のキッチンでは──
「フィオナ、にんじんの皮剥いてくれる?」
「は、はいっ! 任せてくださいっ!」
エプロン姿のフィオナが、緊張でぷるぷる震えながらピーラーを持っていた。
あまりに丁寧すぎて、にんじんが半分の細さになっている。
「ちょ、フィオナ! それは“剥きすぎ”よ!? あと包丁の持ち方、逆逆っ!!」
「す、すみません……お役に立ちたくて……」
ミレイアは苦笑しながらも、慣れない手つきで卵焼きを巻いていた。
魔女としては失った力──けれど、いまは“手を動かす”ことで誰かに尽くせるという、小さな幸せを感じていた。
「料理……案外、嫌いじゃないわね」
* * *
そして、昼。
屋敷の庭の一角。木陰に敷かれた布の上に、ふたつのお弁当箱が並べられた。
「さあ! 選んで、ルーク!」
「食べるのは両方だけど……」
「そういう問題じゃないの! “どっちが美味しかったか”ちゃんと答えてもらうわよ」
「正直にね。愛情の味がわかる男かどうか、見せてもらうわ」
ルークは、目の前の弁当に目を落とした。
ミレイアの弁当は、見た目が整っていて、優しい香りが漂う。卵焼きにはハート型の焼き印まで入っていた。
クラリスの弁当は、彩りは派手だがどれも香辛料が強く、炒め物の角からは火花が飛びそうな勢いだった。
「……まずはこっちから」
ルークはミレイアの卵焼きを一口。
「……うまい」
素直な声が漏れた。ふわふわとした食感と、どこか懐かしい甘さ。
次に、クラリスの辛味炒めをひと口──
「がはっ!? かっら……けど、うまっ……!」
「でしょでしょ! 刺激と快感のギリギリを攻めたの! 嫁の本気、味わって!」
ふたりが前のめりに迫る中、ルークは目を閉じた。
「どっちも……違うけど、どっちも“誰かのために”って気持ちが伝わってくる」
静かに、彼はそう言った。
「だから、どっちも──すごく、美味しいよ」
そのひと言に、ふたりの魔女が黙った。
「……ふん。言葉だけじゃ、勝負は終わらないわよ」
「同感。今日のところは引き分け。でも明日は勝つわ」
彼女たちは、視線だけで再戦を誓っていた。
* * *
こうして、“愛と胃袋”をかけた正妻戦争は、静かに幕を下ろした──
……が、その戦いは、まだ序章にすぎなかったのである。
使用人たちが手際よく朝食を整え、当主のカイルが「寝起きのコーヒー」を片手に新聞を読み、ルミナが制服姿で爆裂杖を抱えて登校準備にいそしむ──そんな、日常の風景だ。
だが、今日の朝は違っていた。
「ミレイアの弁当? いいえ、ルーク様に食べていただくのは、私の情熱弁当よ!」
「は? あなたの“情熱”なんて、どうせ激辛爆撃味でしょ!?」
「ちょっと!? それ、実際に一回爆発させたあなたが言います?」
「私は“愛の味”よ。ほんのり優しくて、あと引くの。まさに正妻の味!」
「じゃあ私は“刺激の味”で勝負するわ。男ってのはギリギリの味に弱いのよ?」
──戦場は、キッチンだった。
ミレイアとクラリスの火花が、包丁と鍋の合間で散っている。
ことの発端は、「ルーク様のお弁当、今日は私が作るわ」とミレイアが言い出したこと。
当然クラリスが黙っているわけもなく、「じゃあ“どっちが美味いか勝負”ね!」と提案したことで、もう引くに引けない“正妻バトル”が開幕してしまったのだった。
* * *
屋敷の裏手の森では──
「……なあ、なんで俺、山菜採りに来てんだろうな?」
草むらにしゃがみ込みながら、ジークがため息をつく。
「だってあなた、ヒマそうだったでしょ?」
「いやまあ……確かに仕事なくなってヒマだけど……でも山菜って!!」
「静かに。そこ、いい感じのキノコが生えてる」
クラリスがしゃがみ込み、鮮やかな赤いキノコを摘みながらにやりと笑う。
「これ、刺激強そうでしょ? “嫁の意地”ってやつよ」
「……あんた、絶対毒キノコと混ぜるタイプだよな……」
一方のミレイアは、野草と薬草の識別に余念がない。
「これは滋養強壮、これは抗疲労……ふふ、愛情って、健康にも配慮するものなのよ?」
「いや、嫁ってどんだけ本気なんだよ……」
ジークは頭を抱えた。魔女ふたりに引き連れられての“食材探し”が、まさかこれほど命がけだとは思ってもみなかった。
* * *
そして、屋敷のキッチンでは──
「フィオナ、にんじんの皮剥いてくれる?」
「は、はいっ! 任せてくださいっ!」
エプロン姿のフィオナが、緊張でぷるぷる震えながらピーラーを持っていた。
あまりに丁寧すぎて、にんじんが半分の細さになっている。
「ちょ、フィオナ! それは“剥きすぎ”よ!? あと包丁の持ち方、逆逆っ!!」
「す、すみません……お役に立ちたくて……」
ミレイアは苦笑しながらも、慣れない手つきで卵焼きを巻いていた。
魔女としては失った力──けれど、いまは“手を動かす”ことで誰かに尽くせるという、小さな幸せを感じていた。
「料理……案外、嫌いじゃないわね」
* * *
そして、昼。
屋敷の庭の一角。木陰に敷かれた布の上に、ふたつのお弁当箱が並べられた。
「さあ! 選んで、ルーク!」
「食べるのは両方だけど……」
「そういう問題じゃないの! “どっちが美味しかったか”ちゃんと答えてもらうわよ」
「正直にね。愛情の味がわかる男かどうか、見せてもらうわ」
ルークは、目の前の弁当に目を落とした。
ミレイアの弁当は、見た目が整っていて、優しい香りが漂う。卵焼きにはハート型の焼き印まで入っていた。
クラリスの弁当は、彩りは派手だがどれも香辛料が強く、炒め物の角からは火花が飛びそうな勢いだった。
「……まずはこっちから」
ルークはミレイアの卵焼きを一口。
「……うまい」
素直な声が漏れた。ふわふわとした食感と、どこか懐かしい甘さ。
次に、クラリスの辛味炒めをひと口──
「がはっ!? かっら……けど、うまっ……!」
「でしょでしょ! 刺激と快感のギリギリを攻めたの! 嫁の本気、味わって!」
ふたりが前のめりに迫る中、ルークは目を閉じた。
「どっちも……違うけど、どっちも“誰かのために”って気持ちが伝わってくる」
静かに、彼はそう言った。
「だから、どっちも──すごく、美味しいよ」
そのひと言に、ふたりの魔女が黙った。
「……ふん。言葉だけじゃ、勝負は終わらないわよ」
「同感。今日のところは引き分け。でも明日は勝つわ」
彼女たちは、視線だけで再戦を誓っていた。
* * *
こうして、“愛と胃袋”をかけた正妻戦争は、静かに幕を下ろした──
……が、その戦いは、まだ序章にすぎなかったのである。
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