テンプレ最強勇者に転生したら魔女が妻になった

紡識かなめ

文字の大きさ
12 / 35

第12話 静かな大地~テラスマール大陸~

しおりを挟む


 ──静かだった。


 テラスマール大陸の港町に到着した瞬間、ルークたちはその“異様さ”に気づいた。


「……なんか、変じゃない?」


 クラリスが呟いた言葉は、誰の耳にも“的を射ている”と感じられた。


 港町は、たしかに綺麗だった。

 清掃された石畳、整列された倉庫、笑顔で挨拶する人々。

 けれど──


「うすら寒い、って感じ……」


 ミレイアの声は低く、眉がわずかに寄っていた。


 町全体がまるで“ぬるま湯”に浸かっているかのように、生気が薄く、活気がなかった。

 誰も怒らず、誰も競わず、皆、穏やかに笑っている。


「ようこそ、ロアリスへ。お疲れでしょう。お茶でもどうぞ」


 港の職員が差し出してきたハーブティーすら、無機質に感じる。


 その笑顔に悪意も敵意もない──だからこそ、余計に怖かった。


* * *


 数日後。王都。


 港から馬車で移動する道中、魔物は一体も現れなかった。


 森は静かで、鳥も飛ばない。

 虫の羽音ひとつ聞こえず、ただ風の音と車輪の軋む音だけが耳に残った。


「……逆に、居心地が悪いな」


 ルークが馬車の窓から外を見ながら呟く。


「まるで、何もかもが“停止”してるみたい」


 フィオナも首をかしげながら、静かに頷く。


 そして王都に入っても、その印象は変わらなかった。


 広場の人々は皆、同じような速度で歩き、同じような距離感で話し、同じような表情で笑っていた。


「生きてるはずなのに……命の鼓動が感じられない。そんな感じね」


 ミレイアの声が鋭さを帯びる。


 クラリスが拳を握りしめた。


「気持ち悪いわね、これ」


* * *


 そして王宮──


 石造りの広大なホールで、王と対面したルークたちは、最初に出迎えた国王の顔に、やはり“笑顔”を見た。


「遠路よりようこそ。勇者ルーク殿、ならびにご一行。

 貴殿が来られたと聞き、心より感謝しております」


 しかしその声音も、表情も、まるで機械のように感情を抑えられていた。


 その直後──王の袖から姿を現したのは、護衛団の兵士数名、そして一人の老いた学者風の男だった。


「──その異常さにお気づきいただけたなら、話が早い」


 ホールの静寂を破ったのは、杖を突いた老賢者の低く落ち着いた声だった。


「この“異様な穏やかさ”──それは、【大地の魔女グレイア】による魔力支配の影響です」


 賢者はルークの方へ一歩進み、聖剣を帯びた腰元へと一瞥を送ると、ゆっくり語り始めた。


「いつから始まったのか、はっきりとは分かっておりません。記録の上では“数百年前から”とされていますが……実際に、誰も“始まり”を覚えていないのです」


 彼の声には、歴史家としての冷静さと、どこか諦めにも似た哀しみが混じっていた。


「我が国の人々は今──最低限の労働だけをこなし、それ以上を望まず、争わず、競わず、ただ穏やかに笑って暮らしています。

 向上心、野心、夢、努力──そういった“前へ進もうとする意志”そのものが、失われているのです」


「……全員が、心地よく“眠っている”みたいだな」


 ルークがそう呟くと、老賢者はゆっくり頷いた。


「ええ。それは平和のようでいて、実は停滞……いや、“死”に近いもの。

 貴族も王族も例外ではありません。むしろ、誰よりも深く、魔女の“優しさ”に囚われている」


「じゃあ、どうしてあなたは……?」


 問いかけたのはミレイアだった。


 老賢者は、やや自嘲気味に笑うと、胸元から魔力石を取り出した。


「我々の中にも、極めて魔力の高い者だけは、この“沈静”の影響を受けないのです。

 いまこの国を動かしているのは、そうしたごく少数の者たち──言わば、グレイアの魔力を“耐えられる者”だけなのです」


「だから……あたしたちも平気ってこと?」


 クラリスが腕を組んで問うと、老賢者は明確に頷いた。


「その通り。勇者であるあなた方はもちろん、魔女の眷属であったお二人、

 高い魔力を持つ僧侶、鍛え上げられた精神を持つ戦士──皆、影響を受けていない」


 彼の目がルークに向く。


「あなた方だけが、グレイアの包容の中に踏み込める“意志を持つ者”なのです。

 どうか……この国に“目覚め”を、もたらしてくださいますように」


* * *


 老賢者の言葉がホールに静かに響いたまま、誰も口を開かなかった。


 王も、兵たちも、ただ笑顔を貼りつけたまま、無表情のような無感情のような、判別のつかない目をしていた。


 そんな中で、ルークは視線を落としたまま、ゆっくりと一歩前へ出た。


「……わかりました」


 短く、それでいて芯のある声だった。


「世界が止まったままでは、生きる意味がありません。

 生きているからこそ、苦しみも、悔しさもある。だから、前に進めるんだ」


 その言葉に、ミレイアがそっと目を細め、クラリスが小さく頷いた。


 ルークは振り返り、仲間たちを見る。


「みんな……ついてきてくれるか?」


「もちろん。どんな女でも、あなたの嫁になれると思ったら、倒さずにいられないもの」


 ミレイアが微笑む。


「強い女って、負けた後の顔がいちばんエロいのよ。任せなさい」


 クラリスがニヤッと笑う。


「……私は、みんなが無事に戻ってこられるように、全力で回復しますっ!」


 フィオナが両手を胸元で握る。


「うしっ。じゃあ俺は……女湯の探索係ってことで!」


「ねぇ誰かこいつを魔女にくれてやっていい?」


「ちょっと待って、みんな冷たい!」


 ジークの騒ぎが、どこか空気を和ませた。


 ルークはふたたび正面を向き、王へ一礼した。


「魔女グレイアを止め、この国に再び“意思”を取り戻します」


 王は相変わらず薄く微笑んだまま、ただ静かに頷いた。


 意思がこもっていたかどうかは、誰にもわからなかった。


* * *


 その夜、ルークたちは王都近郊の宿に逗留し、作戦会議を行った。


 老賢者から得た情報によれば、グレイアは《大地の胎》と呼ばれる地下迷宮の最奥にいるらしい。


 その迷宮はかつて採掘都市だったが、現在は封鎖されており、魔女の魔力によって“物理的な道”すら変化するという。


「トラップ系ってことね。やっと俺の出番か……」


 ジークが腕をぐるぐる回しながらやる気を見せる。


「迷宮の内部では、“感情”そのものが封じられるらしい。警戒して」


 ミレイアが真剣な表情で言う。


「回復魔法が通るかも不明です……祈りの届かない場所……それって、かなり危険かも」


 フィオナも不安げな面持ち。


「ふふ、ルークに抱かれる資格があるかどうか、試してみましょ」


 クラリスが余裕たっぷりに笑ってみせた。


 ルークは剣の鍔に手を添えながら、静かに呟いた。


「明日、《大地の胎》に向かう。

 魔女がどんな“優しさ”で世界を縛っているのか、確かめに行こう」


──大地の魔女・グレイア編、始動。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

斑目 ごたく
ファンタジー
 異世界でドッペルゲンガーとして転生した、しがないサラリーマン古木海(ふるき かい)は、意外な事に魔王軍の中で順調に出世していた。  しかし順調であった筈の彼の生活は、あっさりと崩壊してしまう。  中央の魔王軍から辺境のど田舎へと追放されてしまった彼は、しかしそこで自らの天職とも言える立場を手に入れる。  ダンジョンマスターとしてダンジョンを運営し、こっそりと冒険者を強化することで人類を滅びの危機から救いたい彼は、恐ろしい部下達の目を盗みながら彼らの味方をしていく。  しかしそれらの行動は何故かいつも思いも寄らぬ方向へと転がっていき、その度に彼らは周りからの評価を高めていってしまう。  これは戦闘能力が皆無の主人公が、強大な力を秘める部下と恐ろしい上司の板ばさみに苦しめられながら、影から人類を救済していく物語。  毎週水・土 20:10更新です。  この作品は「小説家になろう」様にも投降されています。

嫁に来た転生悪役令嬢「破滅します!」 俺「大丈夫だ、問題ない(ドラゴン殴りながら)」~ゲームの常識が通用しない辺境領主の無自覚成り上がり~

ちくでん
ファンタジー
「なぜあなたは、私のゲーム知識をことごとく上回ってしまうのですか!?」 魔物だらけの辺境で暮らす主人公ギリアムのもとに、公爵家令嬢ミューゼアが嫁として追放されてきた。実はこのお嫁さん、ゲーム世界に転生してきた転生悪役令嬢だったのです。 本来のゲームでは外道の悪役貴族だったはずのギリアム。ミューゼアは外道貴族に蹂躙される破滅エンドだったはずなのに、なぜかこの世界線では彼ギリアムは想定外に頑張り屋の好青年。彼はミューゼアのゲーム知識をことごとく超えて彼女を仰天させるイレギュラー、『ゲーム世界のルールブレイカー』でした。 ギリアムとミューゼアは、破滅回避のために力を合わせて領地開拓をしていきます。 スローライフ+悪役転生+領地開拓。これは、ゆったりと生活しながらもだんだんと世の中に(意図せず)影響力を発揮していってしまう二人の物語です。

転生したら鎧だった〜リビングアーマーになったけど弱すぎるので、ダンジョンをさまよってパーツを集め最強を目指します

三門鉄狼
ファンタジー
目覚めると、リビングアーマーだった。 身体は鎧、中身はなし。しかもレベルは1で超弱い。 そんな状態でダンジョンに迷い込んでしまったから、なんとか生き残らないと! これは、いつか英雄になるかもしれない、さまよう鎧の冒険譚。 ※小説家になろう、カクヨム、待ラノ、ノベルアップ+、NOVEL DAYS、ラノベストリート、アルファポリス、ノベリズムで掲載しています。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...