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第19話 風の都と、力なき王
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空の深奥へと舞い上がる銀の竜、その背にルークたちは乗っていた。
風の魔女が支配する七大陸のひとつ――ゼフィロール大陸。
だが、近づくにつれて状況は一変した。
「風が……すごい……!」
フィオナが空を押し返すように身を縮める。強風は竜の飛行を大きく揺らし、気流は乱れて暴風域と化していた。
「無理です、ここから先は危険……!」
グレイアの声に、ドラゴンが一つ嘶くと、向きを変え、大陸の外縁部――切り立つ崖の岩場に滑り込むように着地した。
風は止まない。だが地表の風は上空よりは幾分穏やかで、ようやく一息つくことができた。
「……王都は、このさらに奥にあるはずだ」
ルークが地図を広げ、風に揺れる髪を押さえながら言った。
「歩いて向かうしかないな。王と話ができれば、何か手がかりになるかもしれない」
◆ ◆ ◆
王都へ向かう途中、一行は異様な光景に出くわす。
道を行く人々、屋台の店主、農夫、子どもたちまでもが、同じ装束を身に着けていたのだ。
白地に金の刺繍。胸には風を象った紋章。そして皆、無言でうつむいている。
「な、なによこれ……怖いくらい一体感あるんだけど」
クラリスが眉をしかめて言えば、ミレイアも無言で周囲を警戒する。
「巫女団の制服……? まさか、強制されてるのかしら」
グレイアは表情を曇らせ、ぽつりと呟いた。
「……こんなの、私が知っている“風の魔女”の統治じゃない」
ルークが問いかけるように横を向くと、ミレイアが少し迷ってから答えた。
「リィナ……風の魔女リィナは、無邪気で、ちょっとおバカで……でも悪い子じゃない。こんなふうに、支配するような性格じゃないのよ」
クラリスも腕を組み、頷く。
「たしか“空飛ぶ綿あめ”とか呼ばれてたわよね……会ったことはないけど、巫女に祭り上げられてるなんて、意外ね」
風は、どこまでも冷たい。
◆ ◆ ◆
ようやく王都-アエリシア-へたどり着いた頃には、空は鈍色にくすみ、住民たちの表情も暗く閉ざされていた。
王宮の門を叩くと、意外にもすんなり通された。
「まさか……ここは、ちゃんと“王”がいるんだな」
ジークがぼそりと呟く。そして謁見の間に通された彼らは、玉座に座る若き王と対面する。
――セイラス三世。気弱そうな目元と、病的なほど痩せた身体が印象的だった。
「……ようこそ、勇者殿。遠い地より……お越しいただき……感謝を……」
礼儀正しい言葉の端々から、すでに“王権”というものが形骸化していることが透けて見えた。
「ひとつ、訊きたい。風の魔女、リィナは今どこに?」
ルークの問いに、セイラスは視線を伏せたまま答えた。
「……数十年前、この国の大臣だった男が、風の魔女を“女神”として祀り上げました。
以後、“巫女団”と呼ばれる宗教団体が実権を握り……今に至ります」
「では、そのリィナに会わせてほしい」とルークが言うと、王は苦しげに首を横に振った。
「……彼女の神殿は、王都の上空に浮かぶ《神域ノア》と呼ばれる聖域にあります。
しかし、その入口も管理も、すべて巫女団の手中にあり……王である私ですら、会うことは叶わぬのです」
「なっ……!」
ミレイアが低く息を呑み、クラリスが苛立ちを込めて拳を握る。
「まさか、魔女を神に祭り上げて、その上で実権を握るなんて……ただの傀儡じゃないのよ」
フィオナも不安げに言葉を重ねる。
「リィナ様自身が望んだのでは……ない、のでしょうか……」
王は、ただうなずく。
「……まずは、あの“巫女団”をどうにかしなければならない。
さもなくば、風の魔女の真意にも届かぬまま、我が国は……風のままに流され続けるでしょう」
ルークは、風の音が途切れる瞬間を捉えるように、ゆっくりと目を閉じた。
――魔女リィナ。
お前は、本当に神になりたかったのか?
それとも――ただの、風まかせの少女だったのか。
問いの答えはまだ遠い。
だが、いずれ彼女に会わねばならない。その先にあるものを、知るために。
ルークの瞳が、ふたたび空を見上げた。
風の魔女が支配する七大陸のひとつ――ゼフィロール大陸。
だが、近づくにつれて状況は一変した。
「風が……すごい……!」
フィオナが空を押し返すように身を縮める。強風は竜の飛行を大きく揺らし、気流は乱れて暴風域と化していた。
「無理です、ここから先は危険……!」
グレイアの声に、ドラゴンが一つ嘶くと、向きを変え、大陸の外縁部――切り立つ崖の岩場に滑り込むように着地した。
風は止まない。だが地表の風は上空よりは幾分穏やかで、ようやく一息つくことができた。
「……王都は、このさらに奥にあるはずだ」
ルークが地図を広げ、風に揺れる髪を押さえながら言った。
「歩いて向かうしかないな。王と話ができれば、何か手がかりになるかもしれない」
◆ ◆ ◆
王都へ向かう途中、一行は異様な光景に出くわす。
道を行く人々、屋台の店主、農夫、子どもたちまでもが、同じ装束を身に着けていたのだ。
白地に金の刺繍。胸には風を象った紋章。そして皆、無言でうつむいている。
「な、なによこれ……怖いくらい一体感あるんだけど」
クラリスが眉をしかめて言えば、ミレイアも無言で周囲を警戒する。
「巫女団の制服……? まさか、強制されてるのかしら」
グレイアは表情を曇らせ、ぽつりと呟いた。
「……こんなの、私が知っている“風の魔女”の統治じゃない」
ルークが問いかけるように横を向くと、ミレイアが少し迷ってから答えた。
「リィナ……風の魔女リィナは、無邪気で、ちょっとおバカで……でも悪い子じゃない。こんなふうに、支配するような性格じゃないのよ」
クラリスも腕を組み、頷く。
「たしか“空飛ぶ綿あめ”とか呼ばれてたわよね……会ったことはないけど、巫女に祭り上げられてるなんて、意外ね」
風は、どこまでも冷たい。
◆ ◆ ◆
ようやく王都-アエリシア-へたどり着いた頃には、空は鈍色にくすみ、住民たちの表情も暗く閉ざされていた。
王宮の門を叩くと、意外にもすんなり通された。
「まさか……ここは、ちゃんと“王”がいるんだな」
ジークがぼそりと呟く。そして謁見の間に通された彼らは、玉座に座る若き王と対面する。
――セイラス三世。気弱そうな目元と、病的なほど痩せた身体が印象的だった。
「……ようこそ、勇者殿。遠い地より……お越しいただき……感謝を……」
礼儀正しい言葉の端々から、すでに“王権”というものが形骸化していることが透けて見えた。
「ひとつ、訊きたい。風の魔女、リィナは今どこに?」
ルークの問いに、セイラスは視線を伏せたまま答えた。
「……数十年前、この国の大臣だった男が、風の魔女を“女神”として祀り上げました。
以後、“巫女団”と呼ばれる宗教団体が実権を握り……今に至ります」
「では、そのリィナに会わせてほしい」とルークが言うと、王は苦しげに首を横に振った。
「……彼女の神殿は、王都の上空に浮かぶ《神域ノア》と呼ばれる聖域にあります。
しかし、その入口も管理も、すべて巫女団の手中にあり……王である私ですら、会うことは叶わぬのです」
「なっ……!」
ミレイアが低く息を呑み、クラリスが苛立ちを込めて拳を握る。
「まさか、魔女を神に祭り上げて、その上で実権を握るなんて……ただの傀儡じゃないのよ」
フィオナも不安げに言葉を重ねる。
「リィナ様自身が望んだのでは……ない、のでしょうか……」
王は、ただうなずく。
「……まずは、あの“巫女団”をどうにかしなければならない。
さもなくば、風の魔女の真意にも届かぬまま、我が国は……風のままに流され続けるでしょう」
ルークは、風の音が途切れる瞬間を捉えるように、ゆっくりと目を閉じた。
――魔女リィナ。
お前は、本当に神になりたかったのか?
それとも――ただの、風まかせの少女だったのか。
問いの答えはまだ遠い。
だが、いずれ彼女に会わねばならない。その先にあるものを、知るために。
ルークの瞳が、ふたたび空を見上げた。
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