テンプレ最強勇者に転生したら魔女が妻になった

紡識かなめ

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第23話 水の大地へ──揺れる船と賑やかな旅路

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 七大陸のひとつ、アクルシス大陸――

 その地は、陸よりも水が支配する“湖と河川の迷宮”であり、冷静沈着な水の魔女セフィナが支配するとされる場所だった。


 風の大陸・ゼフィロールを解放したルークたちは、次なる使命に向けて、南方の大港から大型船に乗り込んだ。


 空を駆けた旅のあとは、今度は海を渡る三週間の航海。


 しかし、かつての静かな旅とは打って変わって――


「お菓子! お菓子まだ~? お腹空いた~!」


「待って、リィナ! 落ちる落ちる、マジで!」


 ドタバタと甲板を走り回るのは、新しく仲間に加わった風の魔女・リィナ。

 おんぶや抱っこを卒業したものの、ジークの服を掴んで回る癖は変わらない。


「ふふっ、にぎやかになりましたね」


 そう微笑むのは、癒し系の僧侶フィオナ。

 清楚な笑顔で、グレイアお手製のクッキーを運んでいる。


 船の中には、魔女三人――

 闇の魔女ミレイア、

 炎の魔女クラリス、

 そして大地の魔女グレイアの姿もある。


「リィナちゃん、こっちに来たらクッキーあげるわよ~」

「本当!? グレイアだいすき~!」


 まるで幼稚園の昼下がり。


 ――その中で、ひとりだけ。


 ルークは甲板の隅で、黙々と剣の素振りを続けていた。


 「よく飽きねぇな、あいつ……」


 短くぼやくのは、盗賊にしてA級冒険者、そして現在“リィナの夫予定者”でもあるジークである。


 彼はというと、釣竿を持って甲板の隅に腰を下ろしていた。


「まぁ、せっかくの船旅だし、海の幸でも釣ってやるか……。あ、あたり来たか?」


 ピクリと糸が震えた。


 ジークが引き上げた釣り竿の先には、想像を遥かに超えた“獲物”がぶら下がっていた。


 鱗は青黒く濁り、四本の尾を持ち、まるで魚と蛇を掛け合わせたような異形。


「な、なにこれ……ぜったい食べちゃいけない系……!」


 「魔魚だわ!」


 ミレイアが目を細め、


 「こいつ……魔力の密度が高い。ということは……」


 ルークも聖剣の柄を握りながら、海面を見つめる。


「――アクルシス大陸の魔力圏に入ったな」


 水の大地。魔女が支配する場所に、ついに“足を踏み入れた”ということだ。


 ジークはびしょ濡れのまま、へたりこんで呟いた。


「もう……釣りなんかしない……」


 それでも、周囲の空気はどこか引き締まり、仲間たちの表情も改まっていた。





 それから数時間――


 船はゆっくりと巨大な河口に滑り込み、深い霧の帳に包まれていった。


 川幅は果てしなく、左右に見える陸地も、もはや水面に浮かぶ幻のよう。


 そして、白濁の霧の向こうから、うっすらと建物の影が浮かび上がる。


「……港?」


 そう口にしたのはフィオナだった。


 やがて、魔導灯の明かりがぼんやりと見えはじめ――

 一行を乗せた船は、静かにアクルシス大陸の玄関口《エリュシオン港》へと到着した。


 「視界が悪いな……気をつけて進めよ」


 操舵士の声が響き、甲板にいた者たちは皆、呼吸を整え直す。


 足場に降り立った瞬間、霧の中から水音と鈴の音がかすかに聞こえた。


 「……神秘的、というか……どこか冷たいですね」


 フィオナがそうつぶやくのと同時に、リィナがジークの背中に飛びついて「抱っこー」と言い出し、いつもの空気も戻ってくる。


 だが、ルークの視線は真っ直ぐに霧の奥を見据えていた。


「まずは情報を集めよう。水の魔女セフィナが、どこにいるのかを」


 「賛成ね。ここは簡単には見つからなさそう……」


 ミレイアが頷き、クラリスが言う。


「魔女ってのは、あんたの声が届くとこに隠れてるもんなのよ」


 冷たい霧に包まれた水の大地。その奥に潜む、次なる魔女――


 セフィナとの出会いは、もうすぐそこまで迫っていた。
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