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第28話 光の都で、魔女が問う正義
しおりを挟む青白い転移の光に包まれてから、ほんの数秒――
重力を取り戻した感覚とともに、ルークたちは足元の感触が“石”に変わったことに気づいた。
「っ……ここが、ルミナシア大陸……?」
フィオナが目を開けて、周囲を見渡す。
そこは、やはり石造りの厳かな部屋だった。
滑らかに磨かれた白い石の床と柱、天井には淡く魔力が灯り、装飾らしきものはほとんどない。
しかしその“整いすぎた無機質さ”こそが、逆に“神聖さ”を感じさせた。
「……牢屋じゃないよな、ここ?」
ジークが壁を叩いてみる。音は硬く、響く。
「ううん、違う。なんとなく“上”の気配がする」
リィナが風の感覚を頼りに、壁にぴたっとくっついて言う。
「出口、あるのかしら……」
ミレイアがそう呟いたとき、グレイアが扉らしき前に近づいた。
その瞬間。
ゴウン……という低い音と共に、石の壁が滑るように横へ開いた。
「……開いたわ」
クラリスが少し目を丸くする。
「まさか、ただ“前に立つだけ”で……?」
ルークが唖然として言うと、ジークが苦笑いしながら肩をすくめた。
「……こんな便利な装置、最初から知ってたら、俺たちの旅もっと楽だったんじゃねぇ?」
その言葉に、一斉に魔女たちの視線がジークを刺す。
「え? 何か言った俺?」
次の瞬間――
「……ひっく……ひどいよジーク……」
ぽろぽろと涙をためたリィナが、しゃがみ込んで泣き出した。
「リィナ、もう、そんなこと言う人とは結婚しないもん……」
「あっ!? いや、ごめん、そういう意味じゃなくてっ!」
「ジークってば、ひどいよね~」
クラリスが煽る。
「女の子を泣かせるなんて最低」
ミレイアが厳しい目で追い打ちをかけ、
「謝るなら、お菓子も添えてね?」
グレイアが紅茶を差し出しながら微笑む。
「お、おいおい……俺が悪かったよ! ごめんってば、リィナ……ほら、おぶってやるから」
「うう~……ほんと? おぶったまま移動なら許す……」
という条件つき仲直りで、ジークの背中にリィナがぴょこんと乗る。
そんなやり取りに苦笑しながら、ルークは開いた扉の向こうへと歩を進めた。
◆
部屋の外は、まるで神殿のような長い回廊だった。
天井のステンドグラスから差し込む光は黄金色に輝き、石壁には祈りの文言らしきものが刻まれている。
無人のようでいて、気配はあった。
そして、やはりというべきか――
「そこの者たち、止まりなさい!」
鋭い声が響き、全身を銀色の鎧で包んだ衛兵たちが、回廊の奥から現れた。
「武器を捨て、両手を上げなさい!」
「話を聞いてほしい。我々は――」
ルークが応じようとするが、話す間もなく、包囲される。
「このままでは騒ぎになる。仕方ない、従うしかないか」
ミレイアが冷静に言い、クラリスも渋々頷く。
数分後――
一行は、衛兵に囲まれたまま、広い玉座の間へと通されていた。
壁や柱、天井までもが純白と金で彩られ、まるで天上の光に包まれたような神聖な空間。
そして、その玉座に静かに座っていたのは――
光の魔女、エルセリア。
長い金髪を美しく結い、額には聖なる宝石が光を宿す。
白銀の衣をまとい、姿勢は完璧に正しく、表情は冷たくもなく、だがまるで“彫刻のように整いすぎている”。
その瞳が、ゆっくりとルークたちを見据えた。
「……汝らが、異界の侵入者か。あるいは……“勇者”か」
その声は、神託のように、絶対的だった。
◆
光の玉座に座す存在――
それが、“光の魔女”エルセリアだと知った瞬間、空気が張りつめた。
天蓋付きの王座。聖典のように並ぶ装飾品と、跪くように控える高位神官たち。
そして、玉座に座るその人こそが――この国の“王”。
「……この国の、国王が……魔女なの……?」
クラリスが息を呑むように呟く。
「冗談じゃない……魔女が、王として君臨してるってこと……?」
ミレイアが険しい声を出し、フィオナも不安そうに後ろを見やる。
セフィナすら、眉をひそめていた。
「表に立つのを嫌う魔女は多いはずなのに……自ら玉座に就くとは、変わった女ね」
そんな空気の中、ルークが一歩前に出る。
「……俺たちは、“魔女を倒して世界を平和にする”ために旅をしている。
魔核を断ち、その力を封じ、人の世界を取り戻してきた」
言葉に迷いはなかった。
これまでの旅路が、すべてを証明しているからだ。
だが――
エルセリアの目が、ルークを静かに射抜いた。
「……その言葉に、一つ問う」
その声は冷たくない。だが、慈悲もなかった。
「汝らは、自らの正義が、絶対であると信じているのか?」
「え……?」
「平和のため? 世界のため?
その“世界”とやらが、すべて汝らの望むようにあるべきと、誰が決めた?」
重く、静かに。
「正義の反対は、“悪”ではない。別の正義である」
その言葉に、誰もが黙った。
「力を持ち、使命を与えられ、正しきと信じた道を歩む者よ」
エルセリアの視線が、まっすぐにルークの目を貫く。
「……ならば問う。正義とは何か?」
瞬間、玉座の間はしんと静まり返った。
ジークも、クラリスも、ミレイアも、誰もが言葉を失う。
ルークだけが、わずかに言葉を探すように唇を震わせた。
しかし――答えは、まだ出なかった。
エルセリアはゆるやかに立ち上がり、階段を一段だけ降りてこう言い放つ。
「それに、答えられない者など、“勇者”とは呼べない」
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