テンプレ最強勇者に転生したら魔女が妻になった

紡識かなめ

文字の大きさ
30 / 35

第30話 戦わぬ誓い、最後の旅路へ

しおりを挟む


 夜が明け、ルミナシアの空に光が差し込むころ――

 ルークは、ゆっくりと装備を外し、宿の部屋で荷物を整理していた。


 机の上には、聖剣アルシエルが無造作に置かれている。


 「……よし」


 それだけを呟くと、彼は鞘を腰に差すことなく、旅衣のまま、そっと扉を開けた。





「え、ルーク? 一人で?」


 朝食の支度をしていたクラリスが驚いた声を上げる。


 ミレイアが眉をひそめる。「剣も持たずに王宮へ行くつもり……?」


 「わたし、スースーで察したけど……これ、大丈夫な流れ?」

 リィナがぱたぱたとついてこようとする。


 だが、ルークは静かに微笑んで首を振った。


 「これは……俺だけで話すべきことだ」


 「……そういう顔してるわね」

 セフィナが目を伏せる。


 「……わかったわ。信じてるから」

 ミレイアが小さく呟いた。


 そのやり取りに、ルークは「行ってきます」とだけ言い残して、静かに歩き出した。





 ルミナシア王宮・正門前。


 白金の門を守る衛兵は、ルークの姿を見た瞬間、敬意を込めて軽く頭を下げた。


 「あなたが来られたら通すように言われています。どうぞ、お通りください」


 導かれるように、ルークは玉座の間へと進む。





 光の大理石に囲まれた謁見の間――

 昨日と変わらぬ冷たく荘厳な空気。


 だが、今日は少しだけ、光が柔らかく差し込んでいた。


 玉座に座るのは変わらず、光の魔女エルセリア。

 その眼差しも変わらず静かで、強く、正しい。


 「勇者ルーク。……一人できたか」


 ルークはゆっくりと歩を進め、彼女の前に立つと、静かに頭を下げた。


 「……俺には、立派な正義なんてなかった。

 ただ、“魔女は悪だ”と思い込んで、剣を振るっていただけだ」


 その言葉に、玉座の空気がぴたりと止まる。


 「……だが、この大陸を見た。街を、民を、あなたの統治を見た。

 あなたは、この地には必要な人だ。だから――俺は、戦わない」


 ルークは手を広げ、何も持っていないことを示す。


 「聖剣は、今ここにはない。俺はそれを持たずにここに来た」


 しばしの沈黙ののち、エルセリアは目を細めて呟いた。


 「……ならば、お前は“勇者”ではなくなったのか?」


 「分からない。だが、“倒すこと”だけが勇者の使命なら、それは間違ってたと、今なら言える」


 エルセリアは静かに目を伏せた。


 「……ふたりの魔女が残っている。

 一人はここ、そしてもう一人――“時の魔女クロノミナ”」


 「予言者めいた奴に、“魔女を全て倒さねば世界が崩れる”とも言われた」

 ルークは苦笑するように言う。


 「でも――そんなの、知らん。」


 彼の声に、曇りはなかった。


 「俺たちは、“正しい”から戦ってきたわけじゃない。

 ただ、目の前の人を救いたかっただけだ。……その道が、間違っていたなら、直すだけのこと」


 「だから、俺は次へ進む。――“時の魔女クロノミナ”のところへ」


 ルークの決意に、光の玉座に座る魔女――エルセリアは長く、静かに目を伏せていた。


 だがその唇から洩れた言葉は、彼の希望を打ち砕くには十分すぎる重みを持っていた。


 「……“魔女をすべて倒さねば、世界の均衡が崩れる”――それは事実だ」


 ルークの目がわずかに揺れる。


 「あなたが破壊してきた五つの魔核。それは、各大陸の“原初魔力の柱”そのもの。

 その均衡が崩れれば、地殻は乱れ、空気は荒れ、大陸は干上がる」


 「……だったら、なぜ……なぜ最初から教えてくれなかった?」


 ルークの声は、わずかに怒りを含んでいた。

 彼が今までに斬ってきたもの、それを振り返れば悔いがないとは言い切れなかった。


 だが、エルセリアはただ――静かに笑った。


 「それは、私の“正義”ではなかったから」


 そして、彼女は自らの胸元に手を差し入れる。


 「……残る魔女が、私とクロノミナのみだというなら……世界の均衡はすでに失われている」


 「待て、なにを――!」


 ルークが一歩前に出ようとしたその瞬間。


 ギン――という硬質な音。


 彼女の手の中で、ひときわ強く青白く輝いた“魔核”が砕けた。


 砕ける音は、水面に落ちた涙のように淡く、冷たく、そして――確かだった。


 「……っ!」


 玉座に力なく座り込んだエルセリアの周囲から、魔力の残滓が花びらのように散っていく。


 だが彼女は、なおもまっすぐにルークを見たままだった。


 「あなたが……この世界に生まれたこと。勇者として選ばれたこと。

 それもまた、誰かの“正義”によって引き起こされた奇跡なのでしょう」


 ルークの胸に、鋭く突き刺さる言葉。


 「けれど私は――その“見えない正義”の連鎖を、ここで断ち切る。

 この世界の“未来”が、あなたの手に委ねられるのなら……それもまた、救いのひとつ」


 そう言い残し、エルセリアは目を閉じた。


 神聖国家ルミナシアの“光”は、静かに――ひとつ、消えた。


 残るはただひとり。


 最後の魔女、“時”を司るクロノミナのみ。


 ルークは、改めて拳を握った。


 「……誰の正義でもない、“俺たち”の未来をつくるために――」


 そして、最後の旅が始まる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

斑目 ごたく
ファンタジー
 異世界でドッペルゲンガーとして転生した、しがないサラリーマン古木海(ふるき かい)は、意外な事に魔王軍の中で順調に出世していた。  しかし順調であった筈の彼の生活は、あっさりと崩壊してしまう。  中央の魔王軍から辺境のど田舎へと追放されてしまった彼は、しかしそこで自らの天職とも言える立場を手に入れる。  ダンジョンマスターとしてダンジョンを運営し、こっそりと冒険者を強化することで人類を滅びの危機から救いたい彼は、恐ろしい部下達の目を盗みながら彼らの味方をしていく。  しかしそれらの行動は何故かいつも思いも寄らぬ方向へと転がっていき、その度に彼らは周りからの評価を高めていってしまう。  これは戦闘能力が皆無の主人公が、強大な力を秘める部下と恐ろしい上司の板ばさみに苦しめられながら、影から人類を救済していく物語。  毎週水・土 20:10更新です。  この作品は「小説家になろう」様にも投降されています。

嫁に来た転生悪役令嬢「破滅します!」 俺「大丈夫だ、問題ない(ドラゴン殴りながら)」~ゲームの常識が通用しない辺境領主の無自覚成り上がり~

ちくでん
ファンタジー
「なぜあなたは、私のゲーム知識をことごとく上回ってしまうのですか!?」 魔物だらけの辺境で暮らす主人公ギリアムのもとに、公爵家令嬢ミューゼアが嫁として追放されてきた。実はこのお嫁さん、ゲーム世界に転生してきた転生悪役令嬢だったのです。 本来のゲームでは外道の悪役貴族だったはずのギリアム。ミューゼアは外道貴族に蹂躙される破滅エンドだったはずなのに、なぜかこの世界線では彼ギリアムは想定外に頑張り屋の好青年。彼はミューゼアのゲーム知識をことごとく超えて彼女を仰天させるイレギュラー、『ゲーム世界のルールブレイカー』でした。 ギリアムとミューゼアは、破滅回避のために力を合わせて領地開拓をしていきます。 スローライフ+悪役転生+領地開拓。これは、ゆったりと生活しながらもだんだんと世の中に(意図せず)影響力を発揮していってしまう二人の物語です。

転生したら鎧だった〜リビングアーマーになったけど弱すぎるので、ダンジョンをさまよってパーツを集め最強を目指します

三門鉄狼
ファンタジー
目覚めると、リビングアーマーだった。 身体は鎧、中身はなし。しかもレベルは1で超弱い。 そんな状態でダンジョンに迷い込んでしまったから、なんとか生き残らないと! これは、いつか英雄になるかもしれない、さまよう鎧の冒険譚。 ※小説家になろう、カクヨム、待ラノ、ノベルアップ+、NOVEL DAYS、ラノベストリート、アルファポリス、ノベリズムで掲載しています。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...