テンプレ最強勇者に転生したら魔女が妻になった

紡識かなめ

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第32話 時の檻、歪む世界

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 白光の渦の中で視界がねじれ、感覚がふっと浮き上がるように消えて――

 次の瞬間、ルークたちは、また石造りの部屋の中央に立っていた。


「……あれ? これ……戻った?」

 ジークがあたりを見回して首を傾げる。


 見覚えのある白い石、転移の紋章。まるで、ルミナシア王宮の地下と同じような作り。


 「でも……違うわ」

 ミレイアが目を細める。「空気が静かすぎる。ここは――別の大陸よ」


 「ふんわりしてるけど、ぜったい違う……スースーが止まってる感じ」

 リィナが言いながら、壁に手を当てる。


「……じゃあ、ここが“カイロス大陸”……?」

 フィオナが不安げに呟いた。


 「行こう。まずは外を確認しよう」


 ルークが部屋の扉を押し開くと――


 そこは、一面の大地だった。





 外に出た一行を包んだのは、昼とも夜ともつかない、不思議な空気。


 空は暗いのに、光はある。雲はほとんど動かず、風もない。

 まるで、“時間が止まりかけた世界”。


 「変ね……昼でも夜でもないのに、まぶしくも暗くもない……」


 クラリスが周囲を警戒しながら言う。


 「魔物の気配も、まったくないですね……」


 フィオナが耳を澄ませるが、虫の声すら聞こえない。


 「……とりあえず、気配を感じる方に進もうか」

 ルークが判断を下すと、全員が頷いた。





 歩き始めて、どれほど経っただろうか。


 砂利の道を抜け、枯れ草の原を横切り、丘を越える。


 だが――何も起こらなかった。


 誰も空腹を覚えず、汗もかかず、太陽も動かない。


 「……ちょっと待て。これ、もしかして……」


 ジークが眉をひそめて振り返る。


 「俺たち……まったく“時間が進んでない”んじゃないか?」


 その言葉に、一行が足を止めた。


 ルークもまた、手を握り、開く。


 体温は感じる。呼吸もある。だが、鼓動は――妙に安定しすぎている。


 「……昼夜もない。生理的な変化もない。

 この世界そのものが、“時間の流れから外れてる”ように思えるわ」

 セフィナが冷静に告げる。


 ミレイアが天を見上げる。


 「風もない。雲も動かない。空の色すら……変わらない」


 「これって……もしかして、“時の檻”……?」


 クラリスの呟きに、ルークは小さく頷いた。


 「ここは、“時が閉じられた世界”――」


 「……時の魔女クロノミナが作り出した、“静止した空間”なんだ」


 止まった空。動かぬ雲。静まり返った風景。

 まるで世界そのものが、“呼吸を止めた”ようだった。


 魔力の気配すら感じられない。

 だがそれは、魔力が存在しないのではなく――“流れていない”ように思えた。


 「……完全に、時間そのものが凍ってるのかも」

 クラリスが指を伸ばし、草の先端に触れる。


 それはしなだれもせず、空中に浮いたように固まっていた。


 「自然の循環も、生き物の命も、流れが止まれば……すべてが“ただの状態”になるのね」


 セフィナが淡々と分析する。


 「こんな場所、あたしまで固まりそう……スースーも動かない……」

 リィナが不安げにジークの腕にくっつく。


 「……でも、俺たちは動いてる。ってことは、どこかに“流れ”があるってことだ」


 ルークは、剣こそ抜かずとも、常に周囲の空気を観察していた。


 「たしかに……一つだけ、違和感がある」

 ミレイアが地面に膝をつく。「……あっちの地面、“踏み跡”がある」


 全員が注目した。


 乾いた大地の上に、ぽつん、ぽつんと、微かにくぼんだ足跡が残っている。


 「……これは?」


 「数日前……いや、もしかしたら“数年前”か“数秒前”かもわからない。でも、誰かが通った痕跡だわ」


 グレイアが地面に手を当て、ほんのり温度があることを確かめる。


 「熱がある……この世界にしては、異常ね」


 「……時間が止まったこの大陸で、“動いてる”ものがいる」


 ルークは、強く言い切った。


 「それが、時の魔女クロノミナだ」


 空気が、ピンと張りつめる。


 「だったら、足跡を追ってみよう」

 ジークが率先して先へ進もうとする。


 だがその瞬間――


 空気が震えた。


 風もないはずの空間に、一筋の音が走る。


――カラン……


 どこからともなく響いた、金属のような乾いた音。


 その瞬間だった。


 「……っ」


 ルークの背に帯びた聖剣が、カチリと音を立てて揺れた。


 「……反応してる? 何もしてないのに……」


 クラリスが目を見開く。


 「いや、聖剣が“何かを感知した”……この空間にあるはずの、何かを」


 ルークは、ゆっくりと聖剣アルシエルを鞘から抜いた。


 刃は静かに光をたたえながら、その先に向かってわずかに“引かれる”ように動く。


 「……見えないけど、そこにあるってことか?」


 ジークが呟く。


 「だったら……切るだけだ」


 ルークは、構えを取った。


 そして、“何もない空間”に向かって剣を振るう――


 バシュッ!


 風が逆巻くような衝撃音。


 何もないはずの空間が、まるで布を裂いたように“開かれて”いく。


 刃が通った軌跡が、裂け目のようにきらめき、光が漏れ出す。


 次の瞬間――


 その裂け目の奥から、壮大な構造物が姿を現した。


 「……神殿……!」


 ミレイアが思わず声を漏らす。


 目の前に現れたのは、幾本もの白い列柱が静かに並ぶ荘厳な回廊。


 柱はまるで意志を持っているかのように、ルークたちを“奥へと導くように”配置されていた。


 その先――


 ゆるやかな階段と、逆光にそびえるピラミッド状の巨大建造物。


 「……あれが、“時の魔女クロノミナ”の神殿……!」


 風は吹かないはずなのに、なぜか衣が揺れた気がした。


 世界が止まっていても――その奥には、ただひとつ、時を動かす意志が存在している。


 ルークは、ゆっくりと聖剣を鞘に戻し、前を向いた。


 「行こう。最後の扉を、開けに」
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