テンプレ最強勇者に転生したら魔女が妻になった

紡識かなめ

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第33話 出会いの時、閉じた世界の始まり

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 列柱が終わり、石段を登り切った先に、静寂に包まれた空間が広がっていた。


 その中心、ピラミッド型の神殿の内部最奥――


 ひときわ広く、荘厳なホール。光も風も動かぬその空間に、ただ一人の存在がいた。





 「……あなたが、“時の魔女クロノミナ”か?」


 ルークの問いに、その人物はゆるやかに振り向く。


 青銀の髪をゆったりと結い、瞳はまるで深い湖のように透き通っていた。

 装束は時の流れを象徴するかのような帯と光糸のドレス。まばゆく、それでいてどこか懐かしい。


 「……っ!?」


 ルークの目が、驚きと共に見開かれる。


 クラリスが気づいて問いかける。


 「どうしたの、ルーク? その顔……まるで、知ってるみたいな……」


 ミレイアも、グレイアも、セフィナも顔をしかめた。

 リィナだけがポカンとしたままジークにしがみついている。


 クロノミナは、まっすぐにルークを見つめたまま――静かに、言った。


 「……この世界、楽しんでいる?」


 その問いは、まるで朝の挨拶のように、さらりと、穏やかだった。


 「……どういう意味だ?」


 ルークの声には、困惑と警戒が混じっていた。


 クロノミナは微笑む。


 「ねぇ、ルーク。あなたは気づいていないのね。

 この世界は、“あなたの希望”で作られた世界よ」


 その一言に、空気が凍りつく。


 「……希望……? 俺が?」


 ルークは無意識に一歩下がった。


 魔女たちも、思わず息を呑む。


 「ルーク、あなた……彼女と何か関係が?」

 セフィナが警戒を強める。


 クロノミナは、かすかに首を傾ける。


 「……転生の前。あなたが最後に見た“白い空間”で、私は“こう問うた”の。

 ――“どんな世界で、もう一度、生きたい?”って」


 ルークの中で、記憶がざわめいた。


 遠い、夢のような、白く滲んだ景色。

 自分が死にかけたその刹那、確かに……誰かに、問いかけられた。


 “またやり直せるとしたら、どんな世界がいい?”


 (……それが……お前、だったのか……)


 「私はただ、あなたの願いを“時間の彼方”から汲み取っただけ。

 この世界は、あなたが無意識に求めたもの。

 “剣と魔法”、“明確な敵”、“やり直しの人生”……」


 「ふざけるな……!」


 ルークの声が震えていた。

 目の前のクロノミナの言葉が、頭の奥でこだましている。


 「俺は……世界を救おうと……この旅を……!」


 だが、クロノミナは首を横に振った。

 その微笑みは、どこか哀しみをたたえていた。


 「……違うわ、ルーク。

 あなたが歩んできたこの物語は、“あなたの望み”の延長線なの」


 「望み……?」


 「そう。あの瞬間……あなたの“魂”が、現世の終わりに直面したとき。

 あなたは、無意識に願ったの。“こんなふうに生きてみたかった”と」


 魔女たちは押し黙ったまま、ルークを見つめている。

 ルークの目は、遥かな記憶の底へと沈んでいった。





 前世。


 人込みに紛れるようにして生きていた自分。


 誰かに抜きん出た能力があったわけでもない。

 仕事では目立たず、褒められず、名前を憶えられることも稀だった。


 クラスでは“その他大勢”。

 恋人もおらず、好かれた記憶も、誰かに真剣に想われたこともない。


 ただ、電車に揺られ、会議で叱られ、休日に誰とも話さずに日が暮れた。


 「特別になりたかった」

 「誰かに選ばれたかった」

 「世界を救うヒーローになってみたかった」


 そんな子どもじみた願いが、胸の底にずっと残っていた。





 「――その想いを、私はただ“拾った”だけ」


 クロノミナの声が、現実へと引き戻す。


 「私は、“時”を司る者。因果の軌跡をつなぎ、魂の形を記憶として残す存在。

 あなたの願いの残滓を、この世界に編み込むように手伝った」


 「だから私は創造主じゃない。

 あなたが“望んだ世界”の手助けをしただけよ」


 「……」


 ルークの拳が、わずかに震えていた。


 自分が立っていたこの世界。

 救うべきだと思っていたこの旅路。

 出会った魔女たち、仲間たち――


 それらすべてが、自分の“心の奥”から滲み出たものだとしたら――


 「だったら……この世界が、崩れかけているのも、俺のせいなのか……?」


 ルークの問いに、クロノミナは小さく首を振った。


 「いいえ。望みとは、変わっていいもの。

 あなたは、この世界で“新しい答え”を探し始めている」


 「だから、私から託せる。あなたに、この世界の“最後の選択”を」





 ルークは、目を閉じて――この世界に来てからの全てを、静かに思い返していた。


 剣と魔法に満ちた異世界。

 勇者の血を継ぎ、生まれながらに強く、才能に恵まれた存在としての自分。


 立ちはだかる“魔女”たちは確かに強大だったが、すべての戦いは意味があり、結果として“誰かと心を通わせる”旅になっていた。


 ミレイアの孤高と忠誠。

 クラリスの情熱と照れ笑い。

 グレイアの優しさと包容力。

 リィナの無邪気さと依存。

 セフィナの知性と品格。


 ――そして、何よりも、常に背中を預けられる仲間たちの存在。


 ジーク。フィオナ。

 家族のように笑い、命を預け合える関係。


 ……思い返せば、すべてが“理想的”だった。


 (こんな人生を、俺は――本当に、望んでいたんだろうな)





 ルークは目を開け、クロノミナをまっすぐに見据えた。


 「……確かに、この世界は楽しかった。仲間もいた。

 魔女たちとも、ちゃんと向き合えた。強くなれた。誇れる旅だった」


 クロノミナは、無言で微笑んでいた。


 ルークは、一歩前に出る。


 「……だからこそ、聞きたい」


 「もし、俺が――お前を“倒したら”」


 「この世界は、どうなる?」


 その問いに、空気がふっと揺れた。


 沈黙が落ちる。


 クロノミナのまなざしは静かで、どこまでも透明だった。


 「――わからない」


 「……え?」


 「私は、“時”を見てきた存在だけれど……未来そのものを確定する力はないの。

 この世界を管理しているように見えるかもしれないけれど――私自身もまた、“誰かの思い”で作られた存在なのかもしれない」


 その言葉は、どこまでも曖昧で、どこまでも真実だった。


 「この世界が続くか、終わるか。

 あなたが私を斬ることで、世界が崩壊するのか、それとも“完成”するのか――誰にもわからないのよ」


 「じゃあ……俺は、何を基準に決めれば……」


 ルークの声が少し揺れる。


 クロノミナは、まるで優しく背中を押すように言った。


 「“あなた自身”が決めればいいの。

 この世界をどうするかを、他人の意思に委ねる必要なんて、どこにもない」


 「あなたはもう、“他人の思い”で動く存在じゃない。

 自分の足でここまで来た。自分の目でこの世界を見て、自分の心で愛した」


 「ならば、選ぶ資格は――あなたにある」


 神殿に風が吹いたような錯覚が起きる。

 魔女たち、仲間たちは皆、ルークの背中を見つめていた。


 選ぶ時が、来ていた。
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