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第34話 選ばれる世界、選ぶ勇者
しおりを挟む“選ぶ資格は、あなたにある”
クロノミナの言葉は、静かに神殿の空気に溶け込んでいった。
だが、ルークの心はまだ揺れていた。
それは、彼が誰よりもこの世界を大切にしていた証だった。
彼は、ゆっくりと振り返る。
自分の背中を守ってくれた仲間たち――
心を通わせ、共に戦ってきた魔女たち――
彼らの顔を一人ひとり見つめながら、ルークは口を開いた。
「……みんな。俺は、ここで――この世界の行く末を決めなきゃいけないらしい」
「……この世界を、終わらせるか。続けるか。俺の手に委ねられてる」
「だから、教えてくれ。お前たちは……どうしたい?」
◆
最初に口を開いたのは、ジークだった。
「なにそれ。そんなん、お前に任せるに決まってるだろ」
あっけらかんと笑って、いつも通りの調子で言う。
「俺はお前の相棒だ。世界がどうなろうと、最後まで一緒にいくよ」
続いて、フィオナが両手を胸に重ねて言った。
「ルーク様の選ぶ道が……世界を照らすものだと、私は信じています」
そして、ミレイアが目を伏せ、低い声で呟いた。
「あなたに救われた私が言えるのは、一つだけ。
どんな選択をしようと、あなたを否定する資格なんて誰にもない」
クラリスは、ふっと苦笑した。
「私たちは、あんたの“旅の物語”の登場人物だったかもしれない。
でも、私は本気で怒って、笑って、泣いて、あんたを好きになった。
それが嘘だなんて思わないし……あんたが決めるって言うなら、それでいいよ」
グレイアは穏やかな表情で言った。
「私たちは、“魔女”としてこの世界の柱だった。
でも今は、“あなた”が私の軸になってる。
あなたが選んだ未来に、私は微笑んでいたいわ」
リィナは、ジークの腕にしがみつきながら不安そうに言った。
「……難しいことはよくわかんないけど……
でも、ルークが笑える未来がいい。ちゃんと笑ってくれなきゃやだもん」
そして、最後にセフィナが口を開く。
「あなたは、選ばされたのではなく、自ら選べる存在になった。
私たちは、それを信じてここまで来たの。
だから……最後も、あなたに任せるわ」
◆
沈黙が流れる。
けれどそれは、もう迷いの沈黙ではなかった。
皆の言葉が、ルークの胸に静かに、強く灯をともしていた。
(……ありがとう)
(こんなにも俺を信じてくれる存在がいる)
(だから――)
ルークは、再びクロノミナの方へ向き直った。
その瞳には、もう一切の迷いはなかった。
ルークは静かに歩を進める。
その手には、聖剣アルシエルがある。
鞘から抜かれたその刃は、光も影も映さない。
ただ、まっすぐに――“今この瞬間”だけを切り裂くためにある。
クロノミナは、動かなかった。
逃げもせず、防御の構えも取らず――ただ、微笑みながら待っていた。
「最後の質問に、答えてくれ」
ルークの声は澄んでいた。
「お前を倒した先にあるのが“破滅”でも、“解放”でも……
お前は、それを受け入れる覚悟があるのか?」
クロノミナは、ゆっくりと瞬きし、静かに頷く。
「ええ。私は“あなたが選んだ世界の終点”として、ここにいる。
たとえこの世界が終わるとしても、それは――あなたが歩んできた答え。
私は、それを否定しないわ」
ルークは、目を閉じた。
仲間たちの声が、心に浮かぶ。
ミレイアの忠誠。クラリスの笑顔。グレイアのぬくもり。セフィナの誇り。リィナの無邪気な瞳。
ジークの背中。フィオナの祈り。
――そして、今この世界にある全ての温もりが、剣に宿る。
「ありがとう」
それは、世界そのものへの感謝。
そして――
「――これが、俺の答えだ」
ルークが一歩踏み込み、剣を振り上げる。
クロノミナは目を閉じ、微笑みをたたえたまま――ただ、そこにいた。
そして、
――一閃。
光も音もない。
ただ、世界が一瞬で“無”に包まれる。
何も見えず、何も聞こえない。
全ての色が褪せていく。
時間も、空間も、重力も、何もかもが――
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