テンプレ最強勇者に転生したら魔女が妻になった

紡識かなめ

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最終話 夢の続き、そして──

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 ガタン、ゴトン──

 揺れる電車のリズムと、時折混じるアナウンス。


 目を覚ましたルークは、ぼんやりと車窓を眺めていた。


 (……なんだ……?)


 頭が少し重い。目の奥が光を拒んでいる。

 (今のは……夢だったのか?)

 だが、そうにしては──あまりにも“リアルすぎた”。

 剣の重み。仲間との旅路。魔女たちの温もりと、言葉。

 ミレイアのまっすぐな眼差し。クラリスの照れ隠し。グレイアの抱擁。リィナの小さな手。セフィナの知的な微笑み。

 それらすべてが、夢のはずなのに、確かに「生きてきた」と思えるほどに鮮明だった。



 職場に着いたルークは、自動ドアをくぐり抜け、ビルのロビーに入った。

 スーツ姿の社員たちが忙しなく行き交う中、エレベーターに乗って自分のフロアへ向かう。

 そして、目に入ったのは――

 受付に立つ、どこかで見たような顔立ちの女性。

 「……セフィナ?」

 思わず口に出したが、彼女は何も言わず、ただ笑顔で頭を下げた。

 「おはようございます、課長」

 「……え?」

 ルークは立ち止まった。

 俺は……課長……?


 記憶の中では、何年も平社員として地味な日々を送っていたはずだ。

 それなのに今、周囲の誰もが「それが当然」という顔をしている――

 ここは、現実か? それとも、夢の続きか?


 思考が追いつかないまま、自分のフロアに上がる。





 オフィスのドアを開けると、にぎやかな声が飛び交う。


 「課長、おはようございます!」

 「昨日の資料、確認していただけますか?」

 「会議は11時からですよ~!」


 そのどれもが、どこかで聞いたような声だった。


 自分の“席”と思しき場所に腰を下ろそうとした瞬間、


 「課長、そこ俺の席ですよ!」


 声の主は――ジーク。


 ラフなジャケットに、軽口混じりの笑顔。

 けれど、どこまでも頼れる雰囲気はあの頃と変わっていなかった。


 「どうしたんです? 寝ぼけてます?」


 「……いや、なんでもない」


 隣では、コピー機に悪戦苦闘している小柄な女性がいた。


 「紙がでないよ~! なんで止まっちゃうの~!」

 口を尖らせながら機械と格闘しているのは、まさしく――風の魔女リィナだった。


 あの無邪気さはそのままに、今はオフィスの一員として、可愛らしく日常に溶け込んでいる。





 なんとなく“課長席”らしき椅子に腰を下ろすと、ふたりの女性が近づいてくる。


 「課長、昨日はごちそうさまでした」

 「……その、3人で行ったお店のこと、内緒にしてくださいね?」


 顔を赤らめながら小声で話すのは、闇の魔女ミレイアと炎の魔女クラリス。


 ミレイアは髪を束ねたキャリアウーマン風、クラリスは派手なピアスが印象的なイマドキ女子。


 ふたりの目がちらりと交差し、言葉には出さないが、どこか“火花”が散っていた。


 (……なんなんだ、これは)


 わからない。けれど、心地いい。

 懐かしくて、ほんの少し、くすぐったい。





 そして会議では、プロジェクターの前に立つ女性がいた。


 「以上が、今季の営業戦略の概要となります」


 フィオナ。


 プレゼン資料を丁寧に読み上げる声は、優しく、落ち着いていた。


 目が合うと、フィオナは少しだけ微笑んだ。


 (……ここは、どこだ)


 夢のようで、夢じゃない。


 いや、もしかしたら――“夢の続き”なのかもしれない。


 昼になり、社員食堂へ足を運ぶ。


 厨房の奥から、優しげな声が響いた。


 「課長、今日のランチはチキンの香草焼きと、豆のスープですよ」


 大地の魔女グレイアだった。


 白衣姿で髪を後ろでまとめ、テキパキと配膳する彼女は、まさに社食の“お母さん”。


 「温かいうちに食べてくださいね。今日も、がんばって」


 彼女の手から受け取るランチトレイは、どこか懐かしい温もりに満ちていた。





 午後のスケジュールには、「法務との打ち合わせ」と記されていた。


 会議室に入ると、すでに座っていた女性が、静かに立ち上がる。


 「お時間、ありがとうございます。では、今後の契約更新について──」


 淡い金髪に、整えられたスーツ。

 涼しげな視線と、どこか貫禄を漂わせる姿。


 それは、光の魔女エルセリアだった。


 顧問弁護士という肩書が、妙にしっくりくるほどの品と威厳。


 「……あなただけは、夢の中でも“王の品格”を保ってるんだな」


 思わず呟いた言葉に、エルセリアはかすかに眉をひそめた。


 「何か?」


 「……いや、こっちの話だ」


 “あの時”、彼女は自らの魔核を砕き、ルークに世界の未来を託した。


 あの決断の先にあるものを、今、ようやく知り始めている気がした。





 夕刻、ビジネスチャットで社長から呼び出される


 不思議な既視感。

 なぜだか、それが“最後の答え”になる気がして、ルークは迷わず社長室へと向かう。





 扉を開けると、そこには彼女がいた。


 時の魔女クロノミナ。


 淡く微笑みながら、革張りのソファに腰掛けていた。


 あの時と同じ瞳。

 時間を超え、すべてを見通しているような、優しい眼差し。


 「……やあ、課長。いえ、“ルーク”」


 「……これは、またお前の仕業か?」


 ルークの問いに、クロノミナは肩をすくめて答えた。


 「私は、選んだだけ。あなたが選び取った結末を“織りなおした”だけよ。

 今度の人生も、楽しめそうでしょ?」


 ルークは黙ったまま、窓の外を見る。


 夕焼けが、街を金色に染めていた。


 「……悪くない」


 「でしょ?」


 クロノミナが微笑む。


 時が止まりかけた世界。選ばれた者たち。夢のような日々。

 それらすべてを越えて、たどり着いた“もうひとつの現実”。


 夢は終わった。


 だけどその続きを、また――この世界で生きていける。


 彼女たちと共に。
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