あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

文字の大きさ
61 / 574
幕間2

間者の憂鬱

しおりを挟む
さて、リンクスの話を少ししておこう。


彼の立場は、 ミトラの聖光教会本部から派遣されたギルド「神竜の息吹」の監督官であり、それ以上でもそれ以下でもない。


『団長以下、ロクな人材の集まらない「神竜の息吹」を、聖光教のランゴバルドにおける拠点として運営し、ある種の非合法な活動を支援する。』

ものであり、間違っても薬や酒に一服もって、ダメな幹部たちをいよいよだめな方向に導くことは、その任務には含まれていない。

リンクスは自分が悪党であることを、自覚していた。

魔法もそれを使いこなす戦闘センスもある。
だか、彼の家は代々「魔法封じ」を生業としてきた。
それ以外の「魔法」はあくまで付属的なものとみなされ、しかも彼の姉スズカゼは、百年に一度の、天才と目されている。

いくつかの戦いで功績は挙げた、と思う。
「雷弓」のリンクスとの異名もついた。

だが、その功績として与えられたのが、ランゴバルドの冒険者ギルドの監督官だった。
しかも公明なものではない。一冒険者として、組織に入離、裏から組織をコントロールせよ、というのが、教会からの指示であり、彼は疎まれながらその職務を果たしてきた。

それが綺麗さっぱり消えてなくなった。

「神竜の息吹の現幹部は、あまりにも素行がひどく、まともに任務が遂行できない状態にあったため、幹部全てを入れ替えた。」

というものが、彼が教会に送った報告書である。
当然、詳しい説明を求める諮問書、あるいは諮問官が派遣されるだろうと、リンクスは考えていたが、5日経っても10日経ってもなんの音沙汰もなかった。
実はこのとき、聖光教会及び帝国上層部は、黒竜ラウレス大暴れからのグランダとの条約締結に向けて、大騒ぎであったので、比較的優先順位の低いランゴバルドの冒険者学校の件などは後回しも後回し。

実際、忘れられた状態にあったのである。

これが、「神竜の息吹」や学校内の組織である「神竜騎士団」が壊滅していたら、あるいは、監督官であるリンクスが殺害、拘束されたりしていれば、対応は違ったのだろう。
だが、幹部を更迭した程度のことは、現地の裁量でできることであり、リンクスがそれを実行した。ただそれだけのこと、と教会本部は判断したのだった。

かくして、リンクスは日々を無為に過ごしている。





と、思っているのは実は、彼一人であって、周りは全くそうは思っていなかった。

「支配人。次の休息日のスペシャルメニューを考えたんですが。」

「支配人、人手が足りておりません。日暮れから閉店まで、洗い場1人、ホールはせめて2人の増員を検討ください。」

「支配人、西の公設市場で仕入れた野菜が傷んでしまっております。いかがしたものか・・・」

「支配人、今日の帳簿です。確認をお願いします。」

「支配人・・・・」

リンクスはなぜか「神竜の息吹」のメンバーたちからそう呼ばれている。

そう。なぜか、ギルドマスターのメイリュウは、「看板娘」というポジションにおさまってしまった。
一応、ギルマスギルマスとお客からは、持ち上げられるが、露出の多い胸当てが目当ての客も多い。

せっかく味と価格で勝負しているのだから、そっち方面のサービスは控えて、ホールに徹してほしいのである。
正直、メイリュウ目当ての客は注文も少なく、いっぱいの酒でできるだけ粘っては、メイリュウの胸チラやへそチラを心待ちにしているものばかりで、回転が悪い。


というような話ができるような友人がやっと最近できた。

ルトが連れてきたラウレスという焼き物係である。炎系の魔術の微細なコントロールは、リンクスから見ても素晴らしいもので、串を焼かせてもステーキを焼かせても、完璧、こんな見事な腕の料理人が、よくぞ世に埋もれていたものだと、感服したものだ。
賄いを食べながら、ぽつりぽつりと話したところ、もともとは料理人ではなく、軍人だったようだ。

大きな失敗をしでかして、軍を追われ、冒険者の道にも躓いて、途方に暮れていたところを、ルトに救われた・・・という。

似たような境遇もあるものだなあ・・・・

と、リンクスは思うところがあって、何度か酒を酌み交わす仲になった。

やたらと女に目がないところがあるが、気のいいやつで、昔馴染みからは「変態」扱いされていると知って、リンクスは偉く同情した。
女好きはある種の欠点には違いないが、人間が人間の女を好きになって「変態」はないだろう。

むろん、リンクスは、目の前のまだ幼さの残る青年の正体が、竜だとは思いもしない。

もし、体調数十メトルの爬虫類が、人間のメスに性的対象として目がないと知ったらのならば、もちろん感想はかわってきただろう。





しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...