あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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第4部 グランダ魔道学院対抗戦

第98話 殺戮の荒野に

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フィオリナはうつむいていた。
そのまま・・・ぽつり。と言った。

「おか、あ、さ、ま・・・」

やばい!
アウデリアはとっさに足元に刺した斧の柄をつかんだ。防御は、間に合った。
かろうじて、だが。

斧の横殴りの一撃が、フィオリナの蹴りを払った。
どうなんだろうか。
確かに、アウデリアの腕に思いしびれを残して、フィオリナの蹴りはあらぬ方向にそれた。
赤いものが飛び散る。フィオリナの血だ。

しかし、どうなのだろう。
あの角度で。
あのタイミングで切り込んだのなら、脛から先は、ばっさり切断されるはずなのだが。

我が娘ながら、まったく化け物じみている。
母親を蹴り飛ばしながら、あのヴァルゴールの匂いのする異世界人、アキルの襟首をつかんで、木の上に放り投げている。
アキルは、太い枝につかまって、かろうじて落下をふせいでから、なにやら喚いた。悲鳴だったのかもしれない。

「よく、かわした、アウデリア。」
フィオリナは、世にも恐ろしい笑みを浮かべた。

「いや、なに。その昔、お母さまと呼ばせるくらいなら殺してやる、と言われたのを思い出した。
いくら、ろくに家にもよりつかないような母親でも、そこは『お母さまと呼ぶくらいなら死んでやる』だろう。」

アウデリアは、笑った。
白い歯が覗く。猛獣が牙をむいたようだった。

「で、目的はそのヴァルゴールの『何か』を救うことか?」

「いや・・・アウデリア。あなたを対抗戦に出さないことだ。」

突きと蹴りは、神速。アウデリアは諦めた。蹴りだけは捌く。重いパンチに顔が左右に揺れた。そのまま突き入れた膝をうけて、フィオリナの細い体がくの字になって吹っ飛んだ。

“自分で飛んだ、か。”
威力が逃された。
“これで最も得意なのが、剣なのだからな。”

振りかぶった斧を振り下ろす。
衝撃波は、フィオリナの手から飛んだ光の剣とぶつかって相殺された。

爆発にまぎれて接近する。
そして。

“やはり、娘、だなあ。”

フィオリナも同じことを考えていた。
同時に二人がダッシュして接近した結果。気が付いたときには、もうそこは武器の距離ではない。
アウデリアのあごがフィオリナのパンチで突き上げられた。
意識が抜けていくのを、口の中を食いちぎって耐えた。
組みつかれながら、腹へ受けたのパンチの威力は、腹筋を突き抜けた。
魔力の循環で強化しているアウデリアの腹筋を、だ。

へどを吐きながら、背中にひじを落とす。膝をつきあげる。跳ね上げた脚が、軌道をかえてフィオリナの側頭部を叩く。ぐらっとよろめいて、フィオリナが後退する。

よし、距離がとれた・・・

いや、違う!

距離を取らされたのだ。

フィオリナは、剣の次くらいには、魔法が得意だ。
無詠唱、同時発動の光の剣は7本。

“古竜以外では見たことがないな”

アウデリアは苦笑した。たしかに本気のフィオリナは、古竜でも相手にしていると思うのが妥当かもしれない。

アウデリアは斧を振り上げる。
その背後で、巨大な影もまた斧を振り上げた。

射出された光の剣の連撃は、影の巨人が放つ斧が薙ぎ払う。そのまま、フィオリナに対して圧倒的な質量の一撃を叩きつける。

アウデリアはうめいた。
彼女が生み出した影の巨人が、受けた傷は本人にも跳ね返るのだ。

しかし。
素手のフィオリナがどうやって斬撃を?

フィオリナの手には「光の剣」が握られていた。

「それは、投射ようの魔法だぞ。」
アウデリアは苦笑いした。
「実体化させて手に握るな。」

手の斧を足元の地面に叩き込んだ。
地面が割れて、ひび割れがおきる。
フィオリナはとっさにかわしたが、アキルが避難していた背後の木がひび割れに巻き込まれた。

悲鳴をあげて落ちてくるアキルを、フィオリナがキャッチした。

「面白い!」

相手が強ければ強いほど、戦いは楽しい。
アウデリアは自分が、笑っているのが分かる。
呼び寄せた炎のヴェールから、フィオリナが逃げているのは、抱き上げたアキルを守るため。

アウデリアの前後左右に、同時に光の剣が現れた。
体を捻って急所だけは避けた。

脇腹、太腿から、おびただしい出血。
アキルを地面に下ろしたフィオリナの、頭上に石造りの門が現れた。
開いた門の中から、現れた黒く禍々しい剣を、フィオリナがつかむ。
じう。

肉が焼ける嫌な音がして、闇色の剣を握ったフィオリナの手から、血が滴りおちた。

右手に光の剣。左手に常闇の剣。

相反する力を携えて、フィオリナが笑った。

“見事じゃないか。我が娘。”
アウデリアも笑う。
“化け物め。なんのためにおまえは生まれてきた?
ルトと番になるためだろう。
一人一人では、あまりに孤独で暴走しがちなその力を制御しあうためだろう?
断じて、一時の快楽に溺れるためではない。
いやさ、溺れてもいいのだ。

だが、必ず、戻ってこい。ルトのもとへ。
世界がおまえたちを待っている。”

それを口に出して言ってやれないわたしが、母親失格なのかもしれん、な。

光の剣、常闇の剣、さらに雷雲からは、稲妻が襲いくる。
薙ぎ払って、アウデリアは歩んだ。




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