あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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幕間3

黒蜥蜴繁盛記 ラウレス弟子をとる(後)

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ガトルは混乱していた。
と言うより、空腹のあまり自分がどうにかなったのかと思った。
聖竜師団の顧問を解任になったあとのラウレスのことは、よく知らない。
冒険者となってランゴバルドに流れ、そこで冒険者学校の試験官をしていたときに、受験生に負けて逃げ出した。そんな噂はきいたがいくらなんでもそれは嘘だろうと、ガトルは断じた。

確かにいろいろ欠点はあったにせよ、古竜である。
それともなにか。
受験生が勇者か魔王だったとでもいうのか。

「ここで、何をやって」
聞きたい質問を先に言われてしまった。

「聖竜師団は解体されました。」
あんたのせいで。
とは言わない。
言わなくてもラウレスの頬に冷や汗が浮かんでいる。

ラウレスの鉄筆が滑らかに動いて、ボードに注文を並べていく。

特上!串盛りセット(ラウレス付で!)

「コネがあるものは、身分を下げられた上で新たに創設された『 真竜師団』に採用されましたが、わたしはもともと冒険者出身なのでなんのコネもなく」

大盛り焼き飯、スープセット(ラウレス付で!!)

「罰則金のつもりでしょうな、貯金まで没収されて着の身着のままで追い出されました。」

季節のおすすめ 発砲酒三種飲み比べ(ラウレス付で!!!)

「ミトラにはわたしを雇ってくれるギルドはひとつも無く、なけなしの小銭を集めて、ランゴバルド行きの列車に乗ったのです。
まさか、ここでも働き口が、ないとは思わずに。」

「おーい、ラウレス、注文はこちらでとるから、そろそろ焼き物の準備にかかってくれ。予約のお客さまが入っている。」
立派なジャケットの若者が、背後からラウレスの肩を叩いた。
「なんだ、これ・・・おまえ、このひとの注文をぜんぶおまえに付けていいのか? いったい・・・」

ジャケットの若者は、ガトルの顔を覗き込んで絶句した。

「ガトル隊長!・・・・・いったんなんでこんなところに!」

「リンクスか。」
安心なのか、おちぶれたところを見られた悲しみなのかわからない。涙が滂沱と頬を濡らした。
「ここなら元聖竜師団でも雇ってくれるかもと言われて、訪れたんだ。
しかし、ラウレスさまといい・・・いったいこのギルドはどうなってるんだ!」

「ああ、聖竜騎士団は再編成されたんだったな・・・雇ってほしいということは・・・」

リンクスは忙しく、目を四方八方にやった。
まるで、剣の達人のようだな。とガトルは思った。

店が開くのを待っていたように、客がぞくぞくと入ってくる。
あまり上流階級とも思われぬが、そこそこ稼ぎのいい、羽振りのよい身なりの客ばかりだ。
店員たちは、皆忙しく席の案内やオーダー取りに駆け回っている。

「わかった。『神竜の息吹』で採用しようじゃないか、ガトル隊長。
とりあえず、今日は酒は我慢してくれ。食うものを食ったら皿洗いに回ってくれ。」

「ありがたい。」
ガトルは深々とリンクスとラウレスに頭をさげた。

「支配人」
「なんだ? ラウレス。」
「ガトルは火炎系の魔法と造形が得意だ。わたしの焼き物と・・・菓子作りを手伝ってもらいたい。」
「かまわんが・・・いきなり大丈夫なのか?」
「なに、大丈夫に決まっている。」
ラウレスは、愉快そうに笑った。
「この変態蜥蜴でも、勤まっているのだからな。」

そのときどやどやと十名近い人数がはいってきた。

「予約したランゴバルド冒険者学校のルールスだ。」
「ありがとうございます。学校対抗戦慰労会のご予約のルールスさま。
本日は、鉄板焼きのコースでよろしかったでしょうか?」
「うむ。食べ盛りをつれてきている。未成年もおるから、濃い酒はなしで頼むぞ。」

ああ・・・
ガトルの口からうめき声がもれた。

グランダのカフェでの悪夢がよみがえった。
殴っても蹶っても。

打撃はひとつも当たらず。
返す拳はすべて一撃で、部下たちを葬った。

あの美しい悪魔が。こんなところに。

「怯えるのも無理はない。」
ラウレスが、ポンポンと慰めるように肩を叩いた。
「あの小柄な少女に、わたしは口から電撃をくらってのたうち回った。あの野性味のある美形の坊やにワンパンチで失神させられた。あっちの水着みたいなのをきた美女には、ブレスを横からかき消された。あと、あのちょっとおっとりした顔の坊やには口喧嘩で、負けた・・・・」

「な、何連敗してるんですかっ!?」

「まあ・・・あまり数えたくもないな。だが、この前は魔王宮の古竜ラスティに勝ったぞ。」

「なんで! 魔王宮の竜と戦うはめになったんですかっ!」

「だからほら・・・」とラウレスは、ルールスたちの一行を指さした。「学校対抗戦で。」

「どこの世界の学校対抗戦で、古竜同士が戦うんですかっ!」

「それはしかたない。」
ラウレスはため息をついた。
「グランダ魔道院の学院長は、“賢者”ウィルニアだからな。」

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