あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

文字の大きさ
123 / 574
幕間3

クローディア大公のお見舞い

しおりを挟む
クローディア公は、病室にはいったときにちょっと顔をしかめた。
まだ、傷が回復していないはずの妻が、枕元の花瓶を上げ下げして筋トレをしていたからだ。

「アレは、出かけたかな。」
クローディアを見もせずに、アウデリアは、花瓶を上下させている。
掴んでいるわけではない。
指でふちを摘んでいるだけだ。
ずっしりとした白磁の花瓶は・・・大の男でも持ち上げる際には両手を使うだろう。
それを、親指と小指でつかんでは、上げ下げを繰り返している。

「うむ。まだ、傷は癒えてはいないだろうに、嬉々として出かけていった。しかし、あのわけのわからん仮面と妙な格好にセンスの悪いネーミングはいったいなんだ。」

ふう。
と、筋トレに満足したのか、アウデリアは、花瓶を机に戻して大きく息を吐いた。
顔に汗がうかんでいる。いわゆる「いい汗」というやつだ。

「小さい頃に芝居に連れて行ってやったことがある。」
アウデリアは、懐かしそうに言った。
「変身ヒロインモノというやつだな。
ずいぶんハマったと見えてそれからしばらくは、悪の大幹部の役をよくやらされた。」

「ふつうの母娘らしいこともしていたのか?」
からかうようなクローディアの口調にアウデリアは不満そうに頬を膨らませた。

「普通は母親に、悪の大幹部の役はやらせんだろう?」

クローディアは笑って、持参の水筒からコップに透明な液体を注いだ。

「ふむ。白酒か。まさか果汁などで割ってはいないだろうな。」
「我が妻の好みは心得ている。」

アウデリアは喉をならして、強い酒を楽しんだ。

「あまり飲むと傷の治りが悪くなるぞ。」

心配したクローディアを獰猛な笑みで応えてアウデリアは言う。
「傷はあまり早く治しすぎても身体によくない。戦っている最中ならいざしらず。
そこらへんをわきまえているから、まだこうしてわたしは入院しているのだ。
あのじゃじゃ馬娘と違ってな。」

いったい誰に似たのだか。

「ほぼほぼ、新王体制への移行は完了したと思う。」
水筒のキャップを使って自分でもいっぱいやりながら、クローディアは言った。
「魔道列車を、クローディア公国まで『直通』させる計画は、今日あたりバルゴール財務卿の耳にはいるようにしておいた。
利に聡い彼なら、それがなにを意味するかは、十分にわかるはずだ。」

「なにがなんでもグランダを経由させるように、働きかけてくるはずね。
受けるの?」

「条件によっては?」

「条件?」

「全区間の工事費用の負担。」

「ずいぶんと優しい条件だな。フィオリナとルトの毒気にだいぶ当てられたかと思ったが、やはり我が君はお優しい。」

「優しくはない。将来はグランダの併合も視野に入れている。ただ、いまのグランダは食べようにも汁気ひとつない干からびた果実だ。いったんは水をやり、成長させねばな。」

「我がクローディア公国はどうなるのだ、我が君。」
アウデリアはにやにやと笑った。
「北の各国を統合し、境界山脈のむこうの魔族も仲間に引き入れて西域に侵攻でもしてみるか。」

「そうなったら今度は、『踊る道化師』が我々の討伐に来るだろうな。どうだ、もう一度、フィオリナとやりあってみるか?」

「やめてくれ。」
アウデリアは本気で顔をしかめた。
「あのアキルとかいう異世界人があまりに気になったので、ルトの誘いにのってはみたが、もうゴメンだ。」

「おまえにも苦労をかけるな。」
クローディアは笑って、グラスに酒を継ぎ足した。
さらに懐から、木ノ実や乾燥肉を取り出す。
病室は個室であるのをいいことに宴会場と化していった。

「冒険者ギルドのグランドマスターはどうする?
グランダ一国ではなく、北の諸国もふくめた統合組織のグランドマスターになるのだろう?
かなり重要なポジションになる。
間違っても、かつての八極会のような目先の利にのみ聡い小物どもにはまかしてはおけんぞ。」

何杯かおかわりをしているが、水筒の酒はいっこうに切れなかった。あるいはそういう能力のあるマジックアイテムなのかもしれない。

「財務卿の推薦どおり、ミュラが適任だ。まだ若いし、伸びしろもある。
ミュラの両親の後ろ盾も期待できる。」

「問題はフィオリナが、ミュラを『不死鳥の冠』の後継者として育ててしまったことだ。正直、『不死鳥の冠』こそ、ゾアやヨウィス、ザレあたりを中心に合議制でまわしてもいい。
とっとと、ミュラをグランドマスターに推挙しろ。
フィオリナの不埒は、ミュラを中途半端な地位で遊ばせていたからだぞ。」

「それについては同感だ。」

「ルトは・・・ダメなのか。まだ。」

「先のお前の話と一緒だ。傷も無理に早く治していいことはない。成長もいっしょだ。」

「・・・まったく魔力の過多というのはやっかいだ。フィオリナにはそれほど強く出てはいないというのに。」

二人はしばし沈黙して、酒を酌み交わした。
あまりにも強い力をもって産まれてしまった子供たちを憂う気持ちもあったのだろう。

病室のドアが開いて、胸の大きな少女がひょっこりと顔を出した。
治癒師助手の制服を着ていて・・・

手には酒瓶と、串焼きの盛り合わせのはいったバスケット。
夏ノ目秋流でもいれば、いや看護師のおまえがダメだろうと、突っ込んでくれたと思われる。

「ダメじゃないですかあ、お父上、お母上。」

にや、っと笑ってリアはバスケットに酒瓶をテーブルに並べる。グラスは? もちろん3つ。

「わたしは正式にはクローディア家の人間ではないので、猶子のおまえに母上と呼ばれるのは間違っているのだが。」

「あら、まあまあ。」
リアは、コロコロと笑った。
「お父さまはまだ、あのことをお話してないんですか?」

なんだ?

と難しい顔をして、アウデリアはクローディアを睨んだ。

「いや、これはおまえに負担のかかる話なので、もう少し酒がすすんでからだな・・・」
「悪巧みがあるのなら、わたしの傷の治りきっていない今のうちのほうがいいと思うぞ?」

「ふむ・・・そうかもしれぬ。

話というのはほかでもない。式をあげて正式に夫婦にならんか、アウデリア。」

クローディアはアウデリアとの付き合いは当然、長い。
だが、これほどまでに彼女が驚いたのを見たのははじめてだった。

パキ。

と、音がしてアウデリアの手の中のグラスが割れて、酒がしたたりおちた。

「・・・どういうこと?」

「別にグランダやクローディア公国にずっといる必要はないさ。奥向きも表向きのことも別になにもする必要はない。
好きなときに冒険に出て、好きなときに帰ってくればいい。
今までとなにもかわらん。」

「だったら。」
あえぐようにアウデリアは言った。
「だったらなぜ?」

「まあ、クローディア領も独立をはたしたことだし」
照れくさそうにクローディア大公閣下は言った。
「他の国のやつらに、妃を自慢したくなったのさ。どうだ?」

「受けてやってもいい。」
アウデリアは、歯をむき出して噛みつきそうな泣き出しそうな顔で笑った。
「ただし、傷が治ったら一発なぐらせろ。」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...