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第5部 ギウリーク動乱篇~ミトラへの道
第106話 異世界勇者夏ノ目秋流はモテてモテて困っちゃう
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まずは騙されたと思って我が門を叩いてほしい。
そう言った禿頭の大男は、逞しい自分の胸を叩いた。名をドズレ、という。
骨で、出来たアクセサリーをあちこちに身に付けている他は、異様なところはなく、衣のようなゆったりとした衣装で、集まったものたちの中では、まずまず、人格的にも安定した強さを感じさせた。
「何がしかの武具にか頼ったち戦いは必ず、ボロが出ます。ギリギリの時こそ、最後に信じられるのは、己の肉体!
恐れながら、アキルさまにおかれましては、我が流派にて、何人も寄せ付けぬ正当なる拳の技を磨いてくださいますよう。」
「ファ! お主の拳法のどこが正当じゃ! 結局はその骨を組み合わせて作り出す三本目の手足に頼った邪拳よ!
武術ならば、このレオノーラの真邪魔拳を習得くだされ!」
年を経た老婆が、口から泡を飛ばして力説する。
もうそれだけであんまり学びたくないなあ・・・・
「ふっ・・・もう流派の名前に“邪拳”と入ってしまっているではないか、レオノーラ。
先達の顔を立てるのはやぶさかでないが、まずアキルさまが習得されるべきは、変装術!
もともと戦いの技など生来お持ちのもので十分のはず。
ここは、ぜひ『千の仮面』バチスタの変装術で面白おかしく世を渡る術を伝授いたしましょう。」
うーーーーーーーん。
逃げたい。
邪神ヴァルゴールこと異世界勇者アキルは切に願った。
神さまの力・・・彼女の場合それは「契約」と「隷属」なのだが、その力はほぼほぼ定命の相手には無敵に近い。ただ、その力を使っても相手にはわからないわけで・・・
例えるならボードゲームのチャンピオンを殴り倒して、勝った勝ったと主張するやばい人感が見え見えなので、なんとかちゃんと「戦って」勝ったことを証明するための「戦う術」を伝授してくれないか、と相談を持ちかけたところ、彼女の部屋は、面会の客で溢れかえることになったのだ。
もともとフィオリナとの二人部屋である。
フィオリナの立場(大公国の姫君!)を考慮した広い居間付きの寝室別の豪華な寮部屋なのだが、さすがに、12使徒の半分が押し寄せるとなると結構手狭だった。
フィオリナはこうなることを予見してかとっとと逃げ去った。
それに・・・・
「いや、魔力と拳を融合した我が殺神真豪拳こそ、ぜひぜひ、異世界勇者にふさわしい。」
ジウル・ボルテック。
ルトの彼女候補を寝とった感があって、あんまり好きではないこのおちゃらけ拳法家までちゃっかり同席していた。
「一応、わたし勇者なので・・・」
とアキルは言ってみた。
「勇者ならやっぱり剣じゃないかなあ。こう、なんか必殺技っぽいのを叫びながら・・・」
「失礼ながら、御身が本気で振るうことに耐える武具が、この世に幾つあるとお思いですか?」
邪神の祭司アゲートは、冷静にそう指摘した。
「現実問題として、武器を持つのは結構ですが、相手が強敵になればなるほど、込められた力に武器の方が耐えられなくなります。
最終的には、拳の勝負にならざるをえないと思います。」
「うーん」
あんまり華麗ではないね。
アキルの前で熱便利をふるうのは、12使徒のひとり「殺戮者」ペンダリオンだった。
「であるからして、是非ともわが君には、暗殺術こそを学んでいただきたいのです!
一緒に都市伝説になりましょうっ!」
相手の首と生殖器を切り取る残念な手口から半ば妖怪扱いされている少女は、ガッとアキルの手を握った。
アキルの目が虚になった。
こいつらは使徒だろ?
わたしの隷属下にあるはずだよな。なんで誰一人わたしの思うことを実行してくれない?
「まあ・・・最終的には殴り合いになるのは納得した。」
アキルは渋々と言った。
「そこに至るまでのあれやこれ、話術、詐術は冒険者学校の授業で勉強する。
みんなの提案は・・・その・・・なんていうか・・・」
アキルはそっとみんなのキラキラした視線から、目を逸らした。
「高度すぎるかもしれない。」
決まりましたら、ぜひわたしを!
変装術もお忘れなく!演技指導もついてますよ!
一緒にP———を切り取りましょおっ!
みんなの声援を受けながらも、それでも1番頼りになりそうなアゲートを振り返った。
「剣術で、いちばん、カッコよくてウケがいいのってなに?」
いや、その質問自体ダメでしょ、という顔をしながらアゲートは答えた。
「一千年前に魔王を打倒した初代『勇者』を祖にするミトラ流ですね。
今は三つの流派に分かれてはいますが、どれも聖帝国ギウリークをはじめ、聖域諸国では貴族の家に生まれたら一度は必ず学ぶ剣と言われいます。」
「ふうん・・・・で、ルトくん。」
「はい」
ルトはいやいや手をあげた。このあと、ドロシーと会う約束をしてるので果てしなく気が重かった。
「ミトラ流の剣士に知り合いは?」
いないならいないとルトははっきり答えたかった。
だが、実際には、知り合いはいた。友人、とまではいかないが、ザザリの迷宮では一緒に肩を並べて戦ったこともある。
「聖光教会の認定した当代の勇者クロノだったら知ってる。」
「おっけーおっけー、わたしも勇者だからきっと気が合うね!」
「ミトラは聖光教の総本山のある都市です。」
アゲートは非常識な自らの神に説明を試みた。
幾たびも神託を受けたことのあるアゲートも、目の前に神がいて、直接誤りを正すことができるというのは、稀有な体験であった。これから「これ」に慣れなければならないと思うと、果たして信仰とは何か、神とは、人生とは。山籠りでもして自分に問い詰めたい気分だった。
「聖光教はことのほか、他の神々へのは排他主義を貫いています。
特に、邪神と呼ばれる御身には、専用の討伐組織があるほどです。
ミトラに行くのも勇者クロノにコンタクトを取るのもおすすめできません。」
「別にヴァルゴールでございますが、このたびランゴバルドに引っ越ししてまいりましたので、一つよしなに、と挨拶するつもりはないよ。
あくまでわたしは、夏ノ目秋流って異世界人。
ミトラ流の剣を習いに来ました、で通らないかな。
それにね」
浮かべた笑みは、確かにこの少女が、邪神ヴァルゴールなのだとそこにいるものたちにあらためて実感させた。
「そんな聖光教のお膝元にも、ちゃんとわたしの神殿があって、供物を捧げるものがいる。
恐怖と隷属は、人間社会にはいつだって、ついて回るみたいだね。
いや、これはわたしがいようがいまいが、だけど、ね。」
そう言った禿頭の大男は、逞しい自分の胸を叩いた。名をドズレ、という。
骨で、出来たアクセサリーをあちこちに身に付けている他は、異様なところはなく、衣のようなゆったりとした衣装で、集まったものたちの中では、まずまず、人格的にも安定した強さを感じさせた。
「何がしかの武具にか頼ったち戦いは必ず、ボロが出ます。ギリギリの時こそ、最後に信じられるのは、己の肉体!
恐れながら、アキルさまにおかれましては、我が流派にて、何人も寄せ付けぬ正当なる拳の技を磨いてくださいますよう。」
「ファ! お主の拳法のどこが正当じゃ! 結局はその骨を組み合わせて作り出す三本目の手足に頼った邪拳よ!
武術ならば、このレオノーラの真邪魔拳を習得くだされ!」
年を経た老婆が、口から泡を飛ばして力説する。
もうそれだけであんまり学びたくないなあ・・・・
「ふっ・・・もう流派の名前に“邪拳”と入ってしまっているではないか、レオノーラ。
先達の顔を立てるのはやぶさかでないが、まずアキルさまが習得されるべきは、変装術!
もともと戦いの技など生来お持ちのもので十分のはず。
ここは、ぜひ『千の仮面』バチスタの変装術で面白おかしく世を渡る術を伝授いたしましょう。」
うーーーーーーーん。
逃げたい。
邪神ヴァルゴールこと異世界勇者アキルは切に願った。
神さまの力・・・彼女の場合それは「契約」と「隷属」なのだが、その力はほぼほぼ定命の相手には無敵に近い。ただ、その力を使っても相手にはわからないわけで・・・
例えるならボードゲームのチャンピオンを殴り倒して、勝った勝ったと主張するやばい人感が見え見えなので、なんとかちゃんと「戦って」勝ったことを証明するための「戦う術」を伝授してくれないか、と相談を持ちかけたところ、彼女の部屋は、面会の客で溢れかえることになったのだ。
もともとフィオリナとの二人部屋である。
フィオリナの立場(大公国の姫君!)を考慮した広い居間付きの寝室別の豪華な寮部屋なのだが、さすがに、12使徒の半分が押し寄せるとなると結構手狭だった。
フィオリナはこうなることを予見してかとっとと逃げ去った。
それに・・・・
「いや、魔力と拳を融合した我が殺神真豪拳こそ、ぜひぜひ、異世界勇者にふさわしい。」
ジウル・ボルテック。
ルトの彼女候補を寝とった感があって、あんまり好きではないこのおちゃらけ拳法家までちゃっかり同席していた。
「一応、わたし勇者なので・・・」
とアキルは言ってみた。
「勇者ならやっぱり剣じゃないかなあ。こう、なんか必殺技っぽいのを叫びながら・・・」
「失礼ながら、御身が本気で振るうことに耐える武具が、この世に幾つあるとお思いですか?」
邪神の祭司アゲートは、冷静にそう指摘した。
「現実問題として、武器を持つのは結構ですが、相手が強敵になればなるほど、込められた力に武器の方が耐えられなくなります。
最終的には、拳の勝負にならざるをえないと思います。」
「うーん」
あんまり華麗ではないね。
アキルの前で熱便利をふるうのは、12使徒のひとり「殺戮者」ペンダリオンだった。
「であるからして、是非ともわが君には、暗殺術こそを学んでいただきたいのです!
一緒に都市伝説になりましょうっ!」
相手の首と生殖器を切り取る残念な手口から半ば妖怪扱いされている少女は、ガッとアキルの手を握った。
アキルの目が虚になった。
こいつらは使徒だろ?
わたしの隷属下にあるはずだよな。なんで誰一人わたしの思うことを実行してくれない?
「まあ・・・最終的には殴り合いになるのは納得した。」
アキルは渋々と言った。
「そこに至るまでのあれやこれ、話術、詐術は冒険者学校の授業で勉強する。
みんなの提案は・・・その・・・なんていうか・・・」
アキルはそっとみんなのキラキラした視線から、目を逸らした。
「高度すぎるかもしれない。」
決まりましたら、ぜひわたしを!
変装術もお忘れなく!演技指導もついてますよ!
一緒にP———を切り取りましょおっ!
みんなの声援を受けながらも、それでも1番頼りになりそうなアゲートを振り返った。
「剣術で、いちばん、カッコよくてウケがいいのってなに?」
いや、その質問自体ダメでしょ、という顔をしながらアゲートは答えた。
「一千年前に魔王を打倒した初代『勇者』を祖にするミトラ流ですね。
今は三つの流派に分かれてはいますが、どれも聖帝国ギウリークをはじめ、聖域諸国では貴族の家に生まれたら一度は必ず学ぶ剣と言われいます。」
「ふうん・・・・で、ルトくん。」
「はい」
ルトはいやいや手をあげた。このあと、ドロシーと会う約束をしてるので果てしなく気が重かった。
「ミトラ流の剣士に知り合いは?」
いないならいないとルトははっきり答えたかった。
だが、実際には、知り合いはいた。友人、とまではいかないが、ザザリの迷宮では一緒に肩を並べて戦ったこともある。
「聖光教会の認定した当代の勇者クロノだったら知ってる。」
「おっけーおっけー、わたしも勇者だからきっと気が合うね!」
「ミトラは聖光教の総本山のある都市です。」
アゲートは非常識な自らの神に説明を試みた。
幾たびも神託を受けたことのあるアゲートも、目の前に神がいて、直接誤りを正すことができるというのは、稀有な体験であった。これから「これ」に慣れなければならないと思うと、果たして信仰とは何か、神とは、人生とは。山籠りでもして自分に問い詰めたい気分だった。
「聖光教はことのほか、他の神々へのは排他主義を貫いています。
特に、邪神と呼ばれる御身には、専用の討伐組織があるほどです。
ミトラに行くのも勇者クロノにコンタクトを取るのもおすすめできません。」
「別にヴァルゴールでございますが、このたびランゴバルドに引っ越ししてまいりましたので、一つよしなに、と挨拶するつもりはないよ。
あくまでわたしは、夏ノ目秋流って異世界人。
ミトラ流の剣を習いに来ました、で通らないかな。
それにね」
浮かべた笑みは、確かにこの少女が、邪神ヴァルゴールなのだとそこにいるものたちにあらためて実感させた。
「そんな聖光教のお膝元にも、ちゃんとわたしの神殿があって、供物を捧げるものがいる。
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