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第5部 ギウリーク動乱篇~ミトラへの道
第107話 邪神の道連れ
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さて。
ぼくは正直困っていた。
冒険者学校の学生というのは、実はのんびり旅行するには立場が弱い。
ランゴバルドという国の法的な庇護は、公費で生活している学生には冷たいことが多いのだ。
国境の検問や、ランゴバルド以外の街中の番所で折に触れ提示しなければならない手形は、冒険者学校の学生には発行すらしてもらえない。
この世界で後ろ盾のないアキルは、そもそも一人ではミトラに行くこともできないのだ。
「いや、待ってよ。わたしの信徒ってこういうときになんにも役に立たないわけ?」
「御身が肉体を持って、現世に降臨されていることは一般の信徒には、知られない方がいいでしょう。」
祭司であるアザールがそう言うのはもっともで、神の血をひく者ならいざ知らず、神そのものが体をもって地上を歩いているのは、神話の時代の話である。
どんな混乱がおきるか、想像もつかなかった。
使えない
と、ぶつくさ言うのは十代の小生意気な女の子ならアリなんだろうけど、邪神が言うとあまりにも怖すぎないか?
「身分の保証のあるものに同行してもらえば解決するかと存じますが、いかがでしょう?」
「それ名案! アザール、キミはどうよ?」
「わたくしは、もともと俗世間からは離れておりましたので。」
「なら、みんなはどう?」
出席していた12使徒は一堂に首をひねった。
「もともと、ミトラはアスタロトの贄場と決まっておりました。
それ以外のものが、ミトラに入れば、当然、聖光教の討伐隊の動くところとなります。」
「じゃあ、ルト!
ルトくんなら大丈夫だよね?」
「ぼくも今んところは、ただの生徒。グランダの冒険者証があるから、手形がわりにはなると思うけど。」
「踊る道化師からどなたが同行頂けますか?
それなりの力のある方が望ましいのです。」
アザールが言った言った
「魔王と神竜は面倒を見なければならない自分の部下がいるので、離れたがらないと思います。そうすると、神獣か吸血鬼ですが・・・」
「ミトラは、西域でも亜人に対する差別が強い土地です。うまくいくとは思えない。」
アザールは考え込んだ。
とにかく、真面目で常識ある邪神の祭司である。
「わたし自身といえばこれから十日間『一般常識』の特別講習があり、校外に出ることもできません。」
え? 君もなの?
「どなたか、適当な人物を探していただけませんでしょうか。
ミトラに堂々と訪問できる社会的な地位があり、アキルさまがなんらかの暴走を行なっても止めることのできる方。」
ううむ。
それだと少なくとも古竜なみの実力者ってことか。
「こちらに対する好意や信用はゼロでも構いません。」
「それは・・・どう言う・・・」
「アキルさまに『隷属』で縛って貰えば、なんの問題もありません。」
縛られる方は大いに問題があるなあ。
また新しい仕事をおおせつかった気分で、ドロシーとの約束の場所に移動した。
「何かまた厄介ごと?」
気がついてくれるのは、なんだかうれいい。
ランゴバルド冒険者学校の制服は、清楚で細いドロシーにはよく似合う。
飲み物は二人分、取ってくれてあったが、冷め具合から結構待たしてしまったみたいだ。
「アキルが、ミトラで剣を習いたいって言い出してね。」
「それだったら、フィオリナ姫に紹介状を書いてもらったら。」
うん。彼女は、清楚で素直で常識的で頭の回るいい子なんだ。
「あれ、いくら頭が沸いてても姫だから。」
その毒舌が、なんとなくボルテックを思い出させて、胸が痛いような気がする。
そのまま、ボルテックの修行について、あれこれ話をする。
もともとがグランダ魔道院の妖怪と言われた人物だ。魔導師志望だったドロシーには、ふさわしい教師だったろう。
「拳法のほうはほとんど基礎トレーニング。体作りかな。」
ドロシーはジャケットをめくって白いお腹をみせた。腹筋がきれいに割れている。
「魔力を身体に通すには、全身の筋肉を意識できるようにするのが大事だっていわれて。毎日毎日、基礎体力と型の練習。
思うんだけど、ジウル・・・あのひとってまだ、ちゃんと拳法を教えたことがないんじゃないかな。」
「ジウル」と「あのひと」の言い換えではなんの意味もないぞ、ドロシー。
「いろんな技とか蹴りとかも、ひとつひとつはすごいけど、コンビネーションになってないのよね。
だから、ジウルもわたしを教えるのにひとつひとつ手探り。覚えるわたしも手探り。お互いに手探りで、ひとつのものをつくってる感じ
ジウルの拳法っていうか流派をふたりで作り上げてる。。
戦ってるわけじゃないけど、毎日が真剣勝負。」
確かにボルテックもボルテックで、手足に氷や炎をまとい、関節技と魔法を組みわせるドロシーの戦い方にには興味があるだろう。
ドロシーをボルテックに預けたのは正解だったのだ。
それを慰めにするしかない。
「ぼくの身体は魔力過多のため成長がゆっくりだ。」
まともにそのことを話すのははじめてだった。
「たぶん、ぼくの身体も心もまだ幼児のそれでしかない。」
何を言っている。そんな顔でぼくを見る。
「でも・・・」
「これは無理やり身体を成長させている。これ以上成長させたら心と身体のバランスがくずれてなにかの弊害がでる。」
ドロシーの目は、丸く見開かれた。
なにかに合点したように。
「なんて・・・・こと。」
「魔力を過剰に宿した人間の寿命が長くなるのは、わりと知られている。いまのきみのパートナーであるジウル・ボルテックのように。あるいは、ルールス先生もそうだ。
だが、悪い方に出る場合もある。
ぼくの場合は極端にでた。ぼくは、意識して成長をするまで、何年たっても赤子のままだったよ。」
お茶が苦い。
「フィオリナは幼児のころから、ずっと一緒にいた。ぼくは彼女が成長するのに合わせて自分の身体を成長させてきた。
だが、それも限界があった。ぼくは、男女の営みについては知識もある。興味もある。だが、ぼくの心も身体もその準備ができていない。」
「・・・そのことを知ってるのは?」
「話しているのは、フィオリナとその父上だけだ。
まあ、リウやロウはわかってると思う。
アモンはもともと人間の色恋なんかに関心がない。ギムリウスにいたってはそもそも生殖行動自体に関心がない。
まあ、ジウル・ボルテックなんかはだいたい気がついてるんじゃんないか。」
「その・・・フィオリナ、さんがミュラさんとそのいい仲になっちゃったのも。」
「それは本人の意志。」
ぼくはバッサリ言った。
「ドロシーがジウル・ボルテックといい仲になったのも。」
「そのことなんだけど、あの」
ドロシーは、おずおずとテーブルの下から見覚えのある袋を取り出した。
まえにルールス先生からもらった例の袋だった。昨日、酔っ払ってたときにまだまだストックがあるとか言っていたが、だれとどこで使うのかは詮索しないのがいいんだろう。
「使ってないから返す。」
「・・・・」
「わたしとジウルは、そこまでしてないから。」
ドロシーは急いで言った。
「いろいろしちゃってるけど、そこまでしてないから。」
ああ。
ぼくは頷いた。
あれをあれしたり、ああしたりこうしたりしてるんだけど、あそこまではしてないってことね。
「そいいう方こそ、持ってるべき。ちょっとその場ののりで出来ちゃったりするので。」
「精神がまだ幼児だって言ってなかった?」
「知識だけは豊富なもので。」
ドロシーはしばらく考えていたが、袋をそっとしまった。しまうのか。
「ところで、ジウル・ボルテックはこれからどうするって?」
「わからない。しばらく西域を周りたいとか言ってたけど。」
そうか。
ぼくは、気が付いた。
ドロシーは、小さな声で、これからいっしょにためしてみない? ロウさんにお部屋をあけといてもらってるんだけど、とか言いながらジャケットの胸元をそっとひらいてみせている。
さっきお腹をみせたときにわかってたけど、ジャケットの下、素肌だな。
あのね、ドロシー、バストトップにシールはるのは、昨夜ロウがやってただろ。 あれぼく喜んでたか? 店のひとから入店を断られたの見ただろう。
「ボルテックにきみから頼んでみてくれないか?」
「え、え。え・・・」
ドロシーの顔が赤くなる。いや、
なにを頼ませると思ったのだろうか。
「アキルが、ミトラに行きたがってる。
あっちの流儀の剣を習いたいそうだ。ボルテックに同行をお願いしてくれないか。
勇者クロノと剣聖カテリナあてに紹介状を、クローディア大公国姫フィオリナに書いておいてもらうから。」
ぼくは正直困っていた。
冒険者学校の学生というのは、実はのんびり旅行するには立場が弱い。
ランゴバルドという国の法的な庇護は、公費で生活している学生には冷たいことが多いのだ。
国境の検問や、ランゴバルド以外の街中の番所で折に触れ提示しなければならない手形は、冒険者学校の学生には発行すらしてもらえない。
この世界で後ろ盾のないアキルは、そもそも一人ではミトラに行くこともできないのだ。
「いや、待ってよ。わたしの信徒ってこういうときになんにも役に立たないわけ?」
「御身が肉体を持って、現世に降臨されていることは一般の信徒には、知られない方がいいでしょう。」
祭司であるアザールがそう言うのはもっともで、神の血をひく者ならいざ知らず、神そのものが体をもって地上を歩いているのは、神話の時代の話である。
どんな混乱がおきるか、想像もつかなかった。
使えない
と、ぶつくさ言うのは十代の小生意気な女の子ならアリなんだろうけど、邪神が言うとあまりにも怖すぎないか?
「身分の保証のあるものに同行してもらえば解決するかと存じますが、いかがでしょう?」
「それ名案! アザール、キミはどうよ?」
「わたくしは、もともと俗世間からは離れておりましたので。」
「なら、みんなはどう?」
出席していた12使徒は一堂に首をひねった。
「もともと、ミトラはアスタロトの贄場と決まっておりました。
それ以外のものが、ミトラに入れば、当然、聖光教の討伐隊の動くところとなります。」
「じゃあ、ルト!
ルトくんなら大丈夫だよね?」
「ぼくも今んところは、ただの生徒。グランダの冒険者証があるから、手形がわりにはなると思うけど。」
「踊る道化師からどなたが同行頂けますか?
それなりの力のある方が望ましいのです。」
アザールが言った言った
「魔王と神竜は面倒を見なければならない自分の部下がいるので、離れたがらないと思います。そうすると、神獣か吸血鬼ですが・・・」
「ミトラは、西域でも亜人に対する差別が強い土地です。うまくいくとは思えない。」
アザールは考え込んだ。
とにかく、真面目で常識ある邪神の祭司である。
「わたし自身といえばこれから十日間『一般常識』の特別講習があり、校外に出ることもできません。」
え? 君もなの?
「どなたか、適当な人物を探していただけませんでしょうか。
ミトラに堂々と訪問できる社会的な地位があり、アキルさまがなんらかの暴走を行なっても止めることのできる方。」
ううむ。
それだと少なくとも古竜なみの実力者ってことか。
「こちらに対する好意や信用はゼロでも構いません。」
「それは・・・どう言う・・・」
「アキルさまに『隷属』で縛って貰えば、なんの問題もありません。」
縛られる方は大いに問題があるなあ。
また新しい仕事をおおせつかった気分で、ドロシーとの約束の場所に移動した。
「何かまた厄介ごと?」
気がついてくれるのは、なんだかうれいい。
ランゴバルド冒険者学校の制服は、清楚で細いドロシーにはよく似合う。
飲み物は二人分、取ってくれてあったが、冷め具合から結構待たしてしまったみたいだ。
「アキルが、ミトラで剣を習いたいって言い出してね。」
「それだったら、フィオリナ姫に紹介状を書いてもらったら。」
うん。彼女は、清楚で素直で常識的で頭の回るいい子なんだ。
「あれ、いくら頭が沸いてても姫だから。」
その毒舌が、なんとなくボルテックを思い出させて、胸が痛いような気がする。
そのまま、ボルテックの修行について、あれこれ話をする。
もともとがグランダ魔道院の妖怪と言われた人物だ。魔導師志望だったドロシーには、ふさわしい教師だったろう。
「拳法のほうはほとんど基礎トレーニング。体作りかな。」
ドロシーはジャケットをめくって白いお腹をみせた。腹筋がきれいに割れている。
「魔力を身体に通すには、全身の筋肉を意識できるようにするのが大事だっていわれて。毎日毎日、基礎体力と型の練習。
思うんだけど、ジウル・・・あのひとってまだ、ちゃんと拳法を教えたことがないんじゃないかな。」
「ジウル」と「あのひと」の言い換えではなんの意味もないぞ、ドロシー。
「いろんな技とか蹴りとかも、ひとつひとつはすごいけど、コンビネーションになってないのよね。
だから、ジウルもわたしを教えるのにひとつひとつ手探り。覚えるわたしも手探り。お互いに手探りで、ひとつのものをつくってる感じ
ジウルの拳法っていうか流派をふたりで作り上げてる。。
戦ってるわけじゃないけど、毎日が真剣勝負。」
確かにボルテックもボルテックで、手足に氷や炎をまとい、関節技と魔法を組みわせるドロシーの戦い方にには興味があるだろう。
ドロシーをボルテックに預けたのは正解だったのだ。
それを慰めにするしかない。
「ぼくの身体は魔力過多のため成長がゆっくりだ。」
まともにそのことを話すのははじめてだった。
「たぶん、ぼくの身体も心もまだ幼児のそれでしかない。」
何を言っている。そんな顔でぼくを見る。
「でも・・・」
「これは無理やり身体を成長させている。これ以上成長させたら心と身体のバランスがくずれてなにかの弊害がでる。」
ドロシーの目は、丸く見開かれた。
なにかに合点したように。
「なんて・・・・こと。」
「魔力を過剰に宿した人間の寿命が長くなるのは、わりと知られている。いまのきみのパートナーであるジウル・ボルテックのように。あるいは、ルールス先生もそうだ。
だが、悪い方に出る場合もある。
ぼくの場合は極端にでた。ぼくは、意識して成長をするまで、何年たっても赤子のままだったよ。」
お茶が苦い。
「フィオリナは幼児のころから、ずっと一緒にいた。ぼくは彼女が成長するのに合わせて自分の身体を成長させてきた。
だが、それも限界があった。ぼくは、男女の営みについては知識もある。興味もある。だが、ぼくの心も身体もその準備ができていない。」
「・・・そのことを知ってるのは?」
「話しているのは、フィオリナとその父上だけだ。
まあ、リウやロウはわかってると思う。
アモンはもともと人間の色恋なんかに関心がない。ギムリウスにいたってはそもそも生殖行動自体に関心がない。
まあ、ジウル・ボルテックなんかはだいたい気がついてるんじゃんないか。」
「その・・・フィオリナ、さんがミュラさんとそのいい仲になっちゃったのも。」
「それは本人の意志。」
ぼくはバッサリ言った。
「ドロシーがジウル・ボルテックといい仲になったのも。」
「そのことなんだけど、あの」
ドロシーは、おずおずとテーブルの下から見覚えのある袋を取り出した。
まえにルールス先生からもらった例の袋だった。昨日、酔っ払ってたときにまだまだストックがあるとか言っていたが、だれとどこで使うのかは詮索しないのがいいんだろう。
「使ってないから返す。」
「・・・・」
「わたしとジウルは、そこまでしてないから。」
ドロシーは急いで言った。
「いろいろしちゃってるけど、そこまでしてないから。」
ああ。
ぼくは頷いた。
あれをあれしたり、ああしたりこうしたりしてるんだけど、あそこまではしてないってことね。
「そいいう方こそ、持ってるべき。ちょっとその場ののりで出来ちゃったりするので。」
「精神がまだ幼児だって言ってなかった?」
「知識だけは豊富なもので。」
ドロシーはしばらく考えていたが、袋をそっとしまった。しまうのか。
「ところで、ジウル・ボルテックはこれからどうするって?」
「わからない。しばらく西域を周りたいとか言ってたけど。」
そうか。
ぼくは、気が付いた。
ドロシーは、小さな声で、これからいっしょにためしてみない? ロウさんにお部屋をあけといてもらってるんだけど、とか言いながらジャケットの胸元をそっとひらいてみせている。
さっきお腹をみせたときにわかってたけど、ジャケットの下、素肌だな。
あのね、ドロシー、バストトップにシールはるのは、昨夜ロウがやってただろ。 あれぼく喜んでたか? 店のひとから入店を断られたの見ただろう。
「ボルテックにきみから頼んでみてくれないか?」
「え、え。え・・・」
ドロシーの顔が赤くなる。いや、
なにを頼ませると思ったのだろうか。
「アキルが、ミトラに行きたがってる。
あっちの流儀の剣を習いたいそうだ。ボルテックに同行をお願いしてくれないか。
勇者クロノと剣聖カテリナあてに紹介状を、クローディア大公国姫フィオリナに書いておいてもらうから。」
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