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第5部 ギウリーク動乱篇~ミトラへの道
第109話 聖光教の誘惑
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ラウレスが、リンクスによばれたとき、彼は、ガトルと、さる貴族に頼まれたウェディングケーキの打ち合わせをしていた。
それは人の背の高さの倍はある豪勢なもので、そこにガトルは飴細工で、その貴族家の栄光をたたえる飾りをつけることになっていた。ランゴバルドでも古くから続く、その名門伯爵家には、ランゴバルト英雄王とともに戦ったマジュハールの戦いがよかろうと、モチーフが決まり、そろそろ制作にかかろうか、というところだった。
「ちょっとあけられるか、ラウレス。」
立場は料理人と支配人だが、同じくらいの(見かけ上)年代で、同じくルトに騙されたか、助けられたか微妙な兼ね合いでいまのポジションにいる、ということがわかって、気の合う友人同士となっている。
「うん、ちょうど打ち合わせは終わったところだ。当日、目の前でケーキに飾り付けをするパフォーマンスを提案してみようかと、話してたとこなんだが。」
「それはいいな。」
リンクスは頷いた。
並の職人技ではできない飴細工も、ガトルの魔法ならば可能だ。それを列席者の眼の前で行えば、物珍しさも手伝ってかなりの反響があるだろう。
リンクスはラウレスを別室に誘うと、まず、すまんっと言いながら頭をさげた。
「ど、どしたの? なんかあったか?」
ラウレスの脳裏によぎったのは自分の出自がバレて、なんらかの圧力がかかったことだった。
なにしろ、変態竜で馬鹿蜥蜴である。人と竜族、両方からまんべんなく評価の低いラウレスなのだ。
「この前のグランダとの対抗戦でみせたパフォーマンスが、ミトラの偉いやつらに伝わったらしい・・・・」
「そ、それは伝わるかもしれないけど・・・。その後の料理の依頼は全部断ってきただろ? こっちの営業が忙しすぎるからって。」
「断れない筋から、依頼が・・・」
リンクスの表情に苦いものが走った。
「というか命令がきてしまった。きいて驚け、聖光教の枢機卿さまからだ。」
「そ、それは!」
たしかに人間にとっては断りにくい筋だろう。しかし、一介のレストランに、枢機卿から直接、命令って。
あ、レストランではなくて、冒険者ギルドだったか。
この点は、最近、メイリュウもリンクスも忘れかけている。
いやいや冒険者ギルドでも一緒だろう。
なんで、聖光教の枢機卿が命令するルートが、冒険者ギルドにあるのか。
「なんで、枢機卿がみずから命令を発したか、だろ。」
リンクスはほんとうにすまなそうな顔で言った。
「ここ“神竜の息吹”は、聖光教のランゴバルドに対する非合法工作の元締めなんだよ!」
・・・・・
え?
嘘でしょ?
なにも知らないラウレスであった。
「すまない。今まで黙ってて。」
もう一度、リンクスは頭をさげた。
「おまえもなんかつらい過去があって、ここに来ていてそれがギウリーク聖帝国・・・ミトラがらみのことだってことはうすうすわかってた。
それでも、断れなかったんだ。
一応・・・聖光教の出張機関は辞めて、裏切る気は満々なんだけど、まだ時期がまずい。いまは、言われた通り、ミトラで鉄板焼きのパフォーマンスを」
リンクスの頭は、ほとんどテーブルにつきそうだった。
ラウレスはあわてて、リンクスの手をとって頭をあげさせた。
「わかったわかった・・・言われたとおりにするよ。でも聖光教は、わたしが、元竜人部隊のラウレスだってわかって言ってるのかな?」
気まずい沈黙がふたりを包んだ。
「え・・・」
たっぷり一分以上はたっていただろう。
リンクスが、目を見開いた。
「ええっ・・・竜人師団最高顧問のラウレス将軍・・・・」
ラウレスも同時に思い出していた。「沈黙」のスズカゼの弟に腕利きの魔法師がいたことを。
「リンクスって・・・・『雷弓』のリンクス?」
ふたりは同時にあたまを抱えた。
脳裏に浮かんだのはルトの顔だった。
あいつ、ぜんぶわかっててこいつをぼくに押し付けたのかあっ!!
「まさか・・・ガトルも・・・」
「ああ・・わたしが失脚した原因となったグランダでの失敗のときに実働部隊を指揮していた・・・」
「まさか・・・ドゥバイユも?」
「いや、彼女は、ほんとうにヴァルゴールの使徒に間違いない。」
ああっ!
なんていうメンバーを集めてしまったのだろう。それもこれも・・・ルトだ。
「まあ、そのルトを責めるのもなんだと思う。」
ラウレスはなだめるように言った。
「ガトルの分隊を全滅させたのは、ルトではなくて、フィオリナ姫だし。」
「ルトの婚約者じゃないかっ!」
「わたしのブレスを弾き返したのは、アモンさまだし。」
「ルトのパーティのメンバーじゃないかっ!」
「わたしのランゴバルト冒険者学校の試験でボロボロに叩いたのは、エミリアとリウだし。」
「それもルトの関係者だろう!」
言われてみれば、ぜんぶルトが関係していた。
「・・・まあ、でも結局、なんだかんだでここを紹介してくれたのもルトなんだよね。リンクスは?」
「もともと、ギルド『神竜の息吹』の幹部連中はどうしようもないクズだった。
ルトがやつらを追い出してメイリュウをトップに据えたんだ・・・」
「まあ、結果が良かったのだからよし、としようよ。」
古竜と魔法師はそろってもう一度ため息をついた。
「それで、日程なんだけどね・・・明日にでもここを立ってほしいんだ。まあ、飛んでいけばそのほうが疾いけど、むこうがラウレスがラウレス元将軍であることをわかっているのかどうか不明だから正体は隠したほうがいい。
魔道列車の特等席をとってあるから、のんびり行ってくれ。こちらは、鉄板焼きなしでなんとか頑張るよ。」
「リンクス!」
「ラウレス・・・いやラウレス閣下・・・」
「い、いまさらやめてくれっ!」
それは人の背の高さの倍はある豪勢なもので、そこにガトルは飴細工で、その貴族家の栄光をたたえる飾りをつけることになっていた。ランゴバルドでも古くから続く、その名門伯爵家には、ランゴバルト英雄王とともに戦ったマジュハールの戦いがよかろうと、モチーフが決まり、そろそろ制作にかかろうか、というところだった。
「ちょっとあけられるか、ラウレス。」
立場は料理人と支配人だが、同じくらいの(見かけ上)年代で、同じくルトに騙されたか、助けられたか微妙な兼ね合いでいまのポジションにいる、ということがわかって、気の合う友人同士となっている。
「うん、ちょうど打ち合わせは終わったところだ。当日、目の前でケーキに飾り付けをするパフォーマンスを提案してみようかと、話してたとこなんだが。」
「それはいいな。」
リンクスは頷いた。
並の職人技ではできない飴細工も、ガトルの魔法ならば可能だ。それを列席者の眼の前で行えば、物珍しさも手伝ってかなりの反響があるだろう。
リンクスはラウレスを別室に誘うと、まず、すまんっと言いながら頭をさげた。
「ど、どしたの? なんかあったか?」
ラウレスの脳裏によぎったのは自分の出自がバレて、なんらかの圧力がかかったことだった。
なにしろ、変態竜で馬鹿蜥蜴である。人と竜族、両方からまんべんなく評価の低いラウレスなのだ。
「この前のグランダとの対抗戦でみせたパフォーマンスが、ミトラの偉いやつらに伝わったらしい・・・・」
「そ、それは伝わるかもしれないけど・・・。その後の料理の依頼は全部断ってきただろ? こっちの営業が忙しすぎるからって。」
「断れない筋から、依頼が・・・」
リンクスの表情に苦いものが走った。
「というか命令がきてしまった。きいて驚け、聖光教の枢機卿さまからだ。」
「そ、それは!」
たしかに人間にとっては断りにくい筋だろう。しかし、一介のレストランに、枢機卿から直接、命令って。
あ、レストランではなくて、冒険者ギルドだったか。
この点は、最近、メイリュウもリンクスも忘れかけている。
いやいや冒険者ギルドでも一緒だろう。
なんで、聖光教の枢機卿が命令するルートが、冒険者ギルドにあるのか。
「なんで、枢機卿がみずから命令を発したか、だろ。」
リンクスはほんとうにすまなそうな顔で言った。
「ここ“神竜の息吹”は、聖光教のランゴバルドに対する非合法工作の元締めなんだよ!」
・・・・・
え?
嘘でしょ?
なにも知らないラウレスであった。
「すまない。今まで黙ってて。」
もう一度、リンクスは頭をさげた。
「おまえもなんかつらい過去があって、ここに来ていてそれがギウリーク聖帝国・・・ミトラがらみのことだってことはうすうすわかってた。
それでも、断れなかったんだ。
一応・・・聖光教の出張機関は辞めて、裏切る気は満々なんだけど、まだ時期がまずい。いまは、言われた通り、ミトラで鉄板焼きのパフォーマンスを」
リンクスの頭は、ほとんどテーブルにつきそうだった。
ラウレスはあわてて、リンクスの手をとって頭をあげさせた。
「わかったわかった・・・言われたとおりにするよ。でも聖光教は、わたしが、元竜人部隊のラウレスだってわかって言ってるのかな?」
気まずい沈黙がふたりを包んだ。
「え・・・」
たっぷり一分以上はたっていただろう。
リンクスが、目を見開いた。
「ええっ・・・竜人師団最高顧問のラウレス将軍・・・・」
ラウレスも同時に思い出していた。「沈黙」のスズカゼの弟に腕利きの魔法師がいたことを。
「リンクスって・・・・『雷弓』のリンクス?」
ふたりは同時にあたまを抱えた。
脳裏に浮かんだのはルトの顔だった。
あいつ、ぜんぶわかっててこいつをぼくに押し付けたのかあっ!!
「まさか・・・ガトルも・・・」
「ああ・・わたしが失脚した原因となったグランダでの失敗のときに実働部隊を指揮していた・・・」
「まさか・・・ドゥバイユも?」
「いや、彼女は、ほんとうにヴァルゴールの使徒に間違いない。」
ああっ!
なんていうメンバーを集めてしまったのだろう。それもこれも・・・ルトだ。
「まあ、そのルトを責めるのもなんだと思う。」
ラウレスはなだめるように言った。
「ガトルの分隊を全滅させたのは、ルトではなくて、フィオリナ姫だし。」
「ルトの婚約者じゃないかっ!」
「わたしのブレスを弾き返したのは、アモンさまだし。」
「ルトのパーティのメンバーじゃないかっ!」
「わたしのランゴバルト冒険者学校の試験でボロボロに叩いたのは、エミリアとリウだし。」
「それもルトの関係者だろう!」
言われてみれば、ぜんぶルトが関係していた。
「・・・まあ、でも結局、なんだかんだでここを紹介してくれたのもルトなんだよね。リンクスは?」
「もともと、ギルド『神竜の息吹』の幹部連中はどうしようもないクズだった。
ルトがやつらを追い出してメイリュウをトップに据えたんだ・・・」
「まあ、結果が良かったのだからよし、としようよ。」
古竜と魔法師はそろってもう一度ため息をついた。
「それで、日程なんだけどね・・・明日にでもここを立ってほしいんだ。まあ、飛んでいけばそのほうが疾いけど、むこうがラウレスがラウレス元将軍であることをわかっているのかどうか不明だから正体は隠したほうがいい。
魔道列車の特等席をとってあるから、のんびり行ってくれ。こちらは、鉄板焼きなしでなんとか頑張るよ。」
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「ラウレス・・・いやラウレス閣下・・・」
「い、いまさらやめてくれっ!」
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