129 / 574
第5部 ギウリーク動乱篇~ミトラへの道
第110話 勇者アキル!ランゴバルド街道ぶらり徒歩の旅
しおりを挟む
ランゴバルド街道は、その名の通りランゴバルドを起点とし、国内の主な街々を巡る街道である。
そろそろ秋風が冷たく感じるその街道を、急ぐ影がみっつ。
ひとつは筋骨たくましい拳法家と思しき美丈夫。
苦み走った顔は、若々しくまた荒々しい魅力にあふれていた。名をジウル・ボルテック。我流の拳を極めるために北の地からはるばる西域にやってきた野心あふれる拳術使いである。だが、その野心は立身出世ではなく、ひとえに己の拳を世に知らしめたいという願望から出ている。そしてまた、未だ未完成の自分の拳を完成されること。
それが彼の野望であり、目標だった。
付き従う細い影は、ドロシー・ハート。西域のランゴバルド出身の冒険者の卵だった。
故あって、ジウル・ボルテックに師事し、その一番弟子兼想い人でもある。楚々とした印象ではあるが、よく見れば鍛え上げたしなやかな筋肉につつまれていることがわかるだろう。
拳や足刀に魔法の火や氷の刃を形成して戦う吸血鬼の真祖から直伝をうけた独自の技の使い手でもあった。
三人目はわたし。
黒髪、黒目はこの界隈では珍しい。オリーブがかった肌はきめ細やかだ。まあ、そのくらいしか褒めるとこはないかもしれん。
名を夏ノ目秋流。
異世界よりこの世界に召喚された「勇者」である。
わたしだけは、腰に剣を指していた。とりあえず、素人が振り回しやすいように短めにつくった剣である。
これがけっこう重たい。
ガチャガチャして歩きにくいし。
この世界には“収納”って便利魔法があるのだが、だいたいかなり優秀なひとでトランク二個分。しかもその間魔力も消費するってわけで、大量の荷物の持ち運びは無理。
大抵は宿に着いたら収納解除。
翌朝、収納して出発が、基本だ。
ジウルさんはその数少ない例外らしい。
さっきから街道を行くのはわたしたち、だけ。
前も後ろもヒトカゲなし。
道を間違えてるわけじゃないよね?
・・・・なんで?
「魔道列車があるからです。」
とドロシーが教えてくれた。
こんな清楚で純真そうに見える子が、昨日の宿場町の宿では。
同室だったのだが、押し殺したあの声ってあんな感じなんだ。
勉強になるね。人間って素晴らしい。
あと、声隠せても息遣いや匂いでわかってしまうからね。
神さま、なめんな。
「それにしても人がいなさすぎじゃない?」
「はい、この道は急な坂や細い隧道やらが多すぎて、機械馬の馬車が通れないのです。整備しなおすよりも新しい街道を作ったほうがコストが安いらしく、いずれは廃止される予定です。」
たしかに、一応レンガみたいなものは敷いてあるんだけど、黄色のレンガは風化して色をうしなってる。歩きやすいように敷き詰めるべきなんだろうけど、ところどころは、方向を示すためにほんのいくつかを埋め込んでいるだけみたいなところもあって、草も茂ってて歩きにくいったらない。
しかし、わたしひとりが、異世界人。ふだんから歩いて移動してるひととは耐久力が違うのじゃあ。疲れた!もう。
「あ、それはオレも同感。オレが転移術をマスターしたのはそのためだからね。」
「わたしもランゴバルド育ちですから。それにまさかミトラにいくのに旧街道をあるかされることになるとは、思ってません。」
二人の拳法家の冷たい視線がつきささる。
そんな視線になれていない、わたしは下を向く。
いやもっと神を愛そうよ。
もともと、見物を兼ねて、歩きでミトラを目指そうって言ったのはジウルさんだった。
彼にしてみれば、観光を兼ねて、途中の街々で名を売るつもりだったのだろうが、旅籠が一軒だけの田舎町に、新しい拳術なんか興味がある人もいないし、必殺なんとか拳の出番があるわけもない。
初日の一戦は、ドロシーと床の中で行ったわけだけだ。あはははは。
気の利いたジョークのつもりだったんだけど、きっとヴァルゴールなら笑ってくれたと思うんだ。
寂しいね、二人が一人になってしまうと。
・・・ところで、毎晩、続かないよね、これ。
夏草の刈り込みもしていない街道は、坂道に入った。岩が階段になっているのだが、というか階段っぽい岩があるだけでところどこに黄色い塗料が塗られてて、進んでる方向が正しいのだと教えてくれる。
そろそろお昼の休憩を提案しようと思ってるときに、ジウルが立ち止まった。
「どうしたの?」
ドロシーの態度は、断言しておく!
絶対に弟子が師匠にするものではない。
「待ち伏せされている。」
「近いの?」
「この先、だな。人数は10人ばかり。」
「どうする?」
「無駄な戦いはしたくはないが・・・」
うそだ。
絶対、うそだ。
「アキルもいることだし、安全第一で戦おう。や・・・」
ジウルはニマリと笑った。
「向こうから気がついてくれたぞ。いい動きだ。熟練者だな。」
「な、なんの熟練・・・」
「殺しの、だな。」
わたしに下がっていろ、といい、ドロシーには魔法の準備をさせた。
本人は、特に用意もない。
誰何よりも先に飛んできた弓はジウルが叩きおとす。
「ほう、この間に後ろにも回ったか・・・」
取り囲まれたってこと!だよね。
そろそろ秋風が冷たく感じるその街道を、急ぐ影がみっつ。
ひとつは筋骨たくましい拳法家と思しき美丈夫。
苦み走った顔は、若々しくまた荒々しい魅力にあふれていた。名をジウル・ボルテック。我流の拳を極めるために北の地からはるばる西域にやってきた野心あふれる拳術使いである。だが、その野心は立身出世ではなく、ひとえに己の拳を世に知らしめたいという願望から出ている。そしてまた、未だ未完成の自分の拳を完成されること。
それが彼の野望であり、目標だった。
付き従う細い影は、ドロシー・ハート。西域のランゴバルド出身の冒険者の卵だった。
故あって、ジウル・ボルテックに師事し、その一番弟子兼想い人でもある。楚々とした印象ではあるが、よく見れば鍛え上げたしなやかな筋肉につつまれていることがわかるだろう。
拳や足刀に魔法の火や氷の刃を形成して戦う吸血鬼の真祖から直伝をうけた独自の技の使い手でもあった。
三人目はわたし。
黒髪、黒目はこの界隈では珍しい。オリーブがかった肌はきめ細やかだ。まあ、そのくらいしか褒めるとこはないかもしれん。
名を夏ノ目秋流。
異世界よりこの世界に召喚された「勇者」である。
わたしだけは、腰に剣を指していた。とりあえず、素人が振り回しやすいように短めにつくった剣である。
これがけっこう重たい。
ガチャガチャして歩きにくいし。
この世界には“収納”って便利魔法があるのだが、だいたいかなり優秀なひとでトランク二個分。しかもその間魔力も消費するってわけで、大量の荷物の持ち運びは無理。
大抵は宿に着いたら収納解除。
翌朝、収納して出発が、基本だ。
ジウルさんはその数少ない例外らしい。
さっきから街道を行くのはわたしたち、だけ。
前も後ろもヒトカゲなし。
道を間違えてるわけじゃないよね?
・・・・なんで?
「魔道列車があるからです。」
とドロシーが教えてくれた。
こんな清楚で純真そうに見える子が、昨日の宿場町の宿では。
同室だったのだが、押し殺したあの声ってあんな感じなんだ。
勉強になるね。人間って素晴らしい。
あと、声隠せても息遣いや匂いでわかってしまうからね。
神さま、なめんな。
「それにしても人がいなさすぎじゃない?」
「はい、この道は急な坂や細い隧道やらが多すぎて、機械馬の馬車が通れないのです。整備しなおすよりも新しい街道を作ったほうがコストが安いらしく、いずれは廃止される予定です。」
たしかに、一応レンガみたいなものは敷いてあるんだけど、黄色のレンガは風化して色をうしなってる。歩きやすいように敷き詰めるべきなんだろうけど、ところどころは、方向を示すためにほんのいくつかを埋め込んでいるだけみたいなところもあって、草も茂ってて歩きにくいったらない。
しかし、わたしひとりが、異世界人。ふだんから歩いて移動してるひととは耐久力が違うのじゃあ。疲れた!もう。
「あ、それはオレも同感。オレが転移術をマスターしたのはそのためだからね。」
「わたしもランゴバルド育ちですから。それにまさかミトラにいくのに旧街道をあるかされることになるとは、思ってません。」
二人の拳法家の冷たい視線がつきささる。
そんな視線になれていない、わたしは下を向く。
いやもっと神を愛そうよ。
もともと、見物を兼ねて、歩きでミトラを目指そうって言ったのはジウルさんだった。
彼にしてみれば、観光を兼ねて、途中の街々で名を売るつもりだったのだろうが、旅籠が一軒だけの田舎町に、新しい拳術なんか興味がある人もいないし、必殺なんとか拳の出番があるわけもない。
初日の一戦は、ドロシーと床の中で行ったわけだけだ。あはははは。
気の利いたジョークのつもりだったんだけど、きっとヴァルゴールなら笑ってくれたと思うんだ。
寂しいね、二人が一人になってしまうと。
・・・ところで、毎晩、続かないよね、これ。
夏草の刈り込みもしていない街道は、坂道に入った。岩が階段になっているのだが、というか階段っぽい岩があるだけでところどこに黄色い塗料が塗られてて、進んでる方向が正しいのだと教えてくれる。
そろそろお昼の休憩を提案しようと思ってるときに、ジウルが立ち止まった。
「どうしたの?」
ドロシーの態度は、断言しておく!
絶対に弟子が師匠にするものではない。
「待ち伏せされている。」
「近いの?」
「この先、だな。人数は10人ばかり。」
「どうする?」
「無駄な戦いはしたくはないが・・・」
うそだ。
絶対、うそだ。
「アキルもいることだし、安全第一で戦おう。や・・・」
ジウルはニマリと笑った。
「向こうから気がついてくれたぞ。いい動きだ。熟練者だな。」
「な、なんの熟練・・・」
「殺しの、だな。」
わたしに下がっていろ、といい、ドロシーには魔法の準備をさせた。
本人は、特に用意もない。
誰何よりも先に飛んできた弓はジウルが叩きおとす。
「ほう、この間に後ろにも回ったか・・・」
取り囲まれたってこと!だよね。
13
あなたにおすすめの小説
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる