130 / 574
第5部 ギウリーク動乱篇~ミトラへの道
第111話 峠に咲いた紅の華
しおりを挟む
囲まれてしまった。
わたしは、四方に目を走らせたが、揺れる草むらが風のものなのか、ひとのものなのか、区別がつかない。
とりあえずとした、剣の柄に指を掛けて、1センチばかり、剣を抜いた。おおおっ!指切ったぜ。
わたしの体はなにしろ、邪神さまの依り代につくられたので、めちゃくちゃ、頑丈で果てしなく不死身、のはずだ。
でも普通の人間があたりまえにもってる自動治癒の性能がない。
血は止めようと思わなければ流れ続けるし、傷は治そうと思わないと治らない。
これは、剣術よりさきに、回復魔法だな、とわたしは、思った。
危なくって転ぶこともできないじゃないか。
ドロシーは無数の氷塊を作り出すと、周りの草むらに適当に打ち込んだ。
さすがはドロシー。なんか敵の居場所がわかる魔法があるんだな。
と、思ったが要するにアレだ。
下手な鉄砲も数打ちゃ当たる。
草むらのなかから、ぐえっ、とかぐうっ、とかいう苦悶の声が聞こえた場所にドロシーさんはさらに、先端を尖らせた氷の剣を打ち込んだがこれは外したようだった。
ジウルには、二人同時に殺し屋が襲いかかった。一人は短剣。もつ一人は指の間に太い針のようなものを挟んでいた。
ジウルさんとドロシーが、それぞれの敵を相手どって戦い始めた瞬間!
「闇皇姫オルガ、お命頂戴っ!」
うん、いきなり人違いだね。
体を沈めながら、相手の足を払った。
「全部は殺すな!
事情を、聞き出す」
ジウルの声は余裕すら感じる。
ドロシーはと言うと、体の周りに尖った氷の短剣を、並べて浮遊させていた。
いつでも発射できる、という牽制なんだろうけど、逆にいうと先に展開させちゃったら、交わされやすくならないからと思っていたら、草むらから現れた人影に、ドロシーさんはいきなり突進した。
相手の間合いに入った瞬間、体を沈めてコマのように回転しながら、相手の顎を空に跳ね上げる。
浮遊する氷塊に気を取られたいた相手の意表をついたのだ。
次の相手にも、同じように突進。仲間がやられたのを見ていたそいつは、ドロシーさんの動きに注目。その瞬間に。
ずドドドドどっ!
氷の礫がそいつを打ち据えた。
膝がしら、鳩尾、鼻先。結構打つ場所を選んでるので、一撃一撃が重い。たまらず二人目も昏倒した。
ジウルさんってば楽しそう!
短剣と針(おそらく毒あり)を余裕をもってかわしている。
でも欲を言えば楽しんでないで、こっちを助けて欲しいんだよね。
わたしが足を払った殺し屋さんはすごい形相で起き上がってきた。
頭を打ってると思うんだけど、戦意を失った様子はない。
この人の獲物は、ナタみたいな短剣だった。分厚くって、切れ味よりも重さで叩き切るタイプの刃物だ。大きく振りかぶったので、また体を沈めて、今度は膝を蹴った。
膝には皮の当て物をしていたので、よろめきながらも苦痛を堪えて、ナタを振り下ろす男。
避けたひょうしに、木の根に躓いたわたしは、派手に転んでしまった。
頭からダイブする形のこけ方だ。いちばんやってはいけない自分の顔をクッションにするやつ。
目の中で火花が散る。身を起こそうとしたら、どろっとしたものが鼻から溢れた。
振り返ると男もよろけている。さっき、転んだ拍子の頭を打ったのが効いているみたいだ。
よし、体勢を立て直して。
突然、わたしの息が止まった。
何か。紐のようなものがわたしの首に巻き付いている。
そのまま、吊り上げられた。
よく窒息までは時間がかかるけど、首の動脈を絞められるとあっという間に意識がなくなるって言うけど。
どう言うものか、わたしはぜんぜん意識が飛ばない。
舌が口の中から飛び出て、目の前が暗くなった。このまま、死なせて欲しいような苦痛。体が空気を求めて痙攣する。指が喉を締めるける紐を緩めようとしたが、わたし自身の全体重をかけて締まっているのだ。
びくともするものではなかった。
ドロシー!
ジウルさん!
わたしはバタバタと体を揺らす。頚椎あたりが変な音を立てた。
「しぶとい。」
頭上から聞こえたのは女の声だった。
たぶんわたしやドロシーとそんなに違わない若い女の声。
「首を切り落とせ! アデア!」
男の声が叫んだ。
「闇の皇女だ。首を絞めたくらいじゃ死なねえのかもしれない。」
ひ、ひと違いですよお。
声が出ないわたしは、とりあえず、顔の前でバッテンを作って違うってことをアピールしたのだが。
「クソっ! 効いてない。早く刺せ! アデア。」
効いてる効いてる。苦しいし。うぎゃあ、目ん玉が飛び出してきたあ。その途端。
生暖かいものが、上から降ってきて、その液体に塗れてわたしは落下した。
痛い。
受け身をは取ったつもりだけど、痛い。
地面は、芝草とかではなくて、木の根とか岩が剥き出しのゴツゴツした山道だ。
脇腹を打ってうめくわたしの前に。
どさっ。
落ちてきたのは、今までわたしを絞め殺そうとしていた女殺し屋なのだろう。
首と、胸部、腹部、下半身。
全部バラバラだった。
わたしの目の前に首はごろんと転がった。
ぽっかり空いた口は何が起こったのかわからなかったみたいだった。
開きっぱなしの目から、涙がつうっと流れた。
ああ。
死んだな。
とすれば、わたしが塗れているこの赤い液体は血、なのだろう。
立ちあがろうとしたが、ぬるりと滑った。
見上げたわたしの頭上。木の枝に立ってわたしを見下ろす影もまた女のものだった。
黒い顔の中に三日月が開いた。
笑っている。
女は笑っている。
殺したのがうれしくてしょうがないのだ。
血と臓物と。それらが醸す臭い。
多分そのなかには、わたし自身の排出したものもまじっている。
失神寸前まで首を締めあげられるっていうのは、そういうことだから。
「おぬしが、銀灰皇国の闇姫オルガ姫か。」
影の女はがそう言った。
「噂通りの美人だな。血まみれがよく似合う。」
わたしは、四方に目を走らせたが、揺れる草むらが風のものなのか、ひとのものなのか、区別がつかない。
とりあえずとした、剣の柄に指を掛けて、1センチばかり、剣を抜いた。おおおっ!指切ったぜ。
わたしの体はなにしろ、邪神さまの依り代につくられたので、めちゃくちゃ、頑丈で果てしなく不死身、のはずだ。
でも普通の人間があたりまえにもってる自動治癒の性能がない。
血は止めようと思わなければ流れ続けるし、傷は治そうと思わないと治らない。
これは、剣術よりさきに、回復魔法だな、とわたしは、思った。
危なくって転ぶこともできないじゃないか。
ドロシーは無数の氷塊を作り出すと、周りの草むらに適当に打ち込んだ。
さすがはドロシー。なんか敵の居場所がわかる魔法があるんだな。
と、思ったが要するにアレだ。
下手な鉄砲も数打ちゃ当たる。
草むらのなかから、ぐえっ、とかぐうっ、とかいう苦悶の声が聞こえた場所にドロシーさんはさらに、先端を尖らせた氷の剣を打ち込んだがこれは外したようだった。
ジウルには、二人同時に殺し屋が襲いかかった。一人は短剣。もつ一人は指の間に太い針のようなものを挟んでいた。
ジウルさんとドロシーが、それぞれの敵を相手どって戦い始めた瞬間!
「闇皇姫オルガ、お命頂戴っ!」
うん、いきなり人違いだね。
体を沈めながら、相手の足を払った。
「全部は殺すな!
事情を、聞き出す」
ジウルの声は余裕すら感じる。
ドロシーはと言うと、体の周りに尖った氷の短剣を、並べて浮遊させていた。
いつでも発射できる、という牽制なんだろうけど、逆にいうと先に展開させちゃったら、交わされやすくならないからと思っていたら、草むらから現れた人影に、ドロシーさんはいきなり突進した。
相手の間合いに入った瞬間、体を沈めてコマのように回転しながら、相手の顎を空に跳ね上げる。
浮遊する氷塊に気を取られたいた相手の意表をついたのだ。
次の相手にも、同じように突進。仲間がやられたのを見ていたそいつは、ドロシーさんの動きに注目。その瞬間に。
ずドドドドどっ!
氷の礫がそいつを打ち据えた。
膝がしら、鳩尾、鼻先。結構打つ場所を選んでるので、一撃一撃が重い。たまらず二人目も昏倒した。
ジウルさんってば楽しそう!
短剣と針(おそらく毒あり)を余裕をもってかわしている。
でも欲を言えば楽しんでないで、こっちを助けて欲しいんだよね。
わたしが足を払った殺し屋さんはすごい形相で起き上がってきた。
頭を打ってると思うんだけど、戦意を失った様子はない。
この人の獲物は、ナタみたいな短剣だった。分厚くって、切れ味よりも重さで叩き切るタイプの刃物だ。大きく振りかぶったので、また体を沈めて、今度は膝を蹴った。
膝には皮の当て物をしていたので、よろめきながらも苦痛を堪えて、ナタを振り下ろす男。
避けたひょうしに、木の根に躓いたわたしは、派手に転んでしまった。
頭からダイブする形のこけ方だ。いちばんやってはいけない自分の顔をクッションにするやつ。
目の中で火花が散る。身を起こそうとしたら、どろっとしたものが鼻から溢れた。
振り返ると男もよろけている。さっき、転んだ拍子の頭を打ったのが効いているみたいだ。
よし、体勢を立て直して。
突然、わたしの息が止まった。
何か。紐のようなものがわたしの首に巻き付いている。
そのまま、吊り上げられた。
よく窒息までは時間がかかるけど、首の動脈を絞められるとあっという間に意識がなくなるって言うけど。
どう言うものか、わたしはぜんぜん意識が飛ばない。
舌が口の中から飛び出て、目の前が暗くなった。このまま、死なせて欲しいような苦痛。体が空気を求めて痙攣する。指が喉を締めるける紐を緩めようとしたが、わたし自身の全体重をかけて締まっているのだ。
びくともするものではなかった。
ドロシー!
ジウルさん!
わたしはバタバタと体を揺らす。頚椎あたりが変な音を立てた。
「しぶとい。」
頭上から聞こえたのは女の声だった。
たぶんわたしやドロシーとそんなに違わない若い女の声。
「首を切り落とせ! アデア!」
男の声が叫んだ。
「闇の皇女だ。首を絞めたくらいじゃ死なねえのかもしれない。」
ひ、ひと違いですよお。
声が出ないわたしは、とりあえず、顔の前でバッテンを作って違うってことをアピールしたのだが。
「クソっ! 効いてない。早く刺せ! アデア。」
効いてる効いてる。苦しいし。うぎゃあ、目ん玉が飛び出してきたあ。その途端。
生暖かいものが、上から降ってきて、その液体に塗れてわたしは落下した。
痛い。
受け身をは取ったつもりだけど、痛い。
地面は、芝草とかではなくて、木の根とか岩が剥き出しのゴツゴツした山道だ。
脇腹を打ってうめくわたしの前に。
どさっ。
落ちてきたのは、今までわたしを絞め殺そうとしていた女殺し屋なのだろう。
首と、胸部、腹部、下半身。
全部バラバラだった。
わたしの目の前に首はごろんと転がった。
ぽっかり空いた口は何が起こったのかわからなかったみたいだった。
開きっぱなしの目から、涙がつうっと流れた。
ああ。
死んだな。
とすれば、わたしが塗れているこの赤い液体は血、なのだろう。
立ちあがろうとしたが、ぬるりと滑った。
見上げたわたしの頭上。木の枝に立ってわたしを見下ろす影もまた女のものだった。
黒い顔の中に三日月が開いた。
笑っている。
女は笑っている。
殺したのがうれしくてしょうがないのだ。
血と臓物と。それらが醸す臭い。
多分そのなかには、わたし自身の排出したものもまじっている。
失神寸前まで首を締めあげられるっていうのは、そういうことだから。
「おぬしが、銀灰皇国の闇姫オルガ姫か。」
影の女はがそう言った。
「噂通りの美人だな。血まみれがよく似合う。」
13
あなたにおすすめの小説
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる