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第5部 ギウリーク動乱篇~ミトラへの道
第125話 襲撃
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二時間ばかり歩いただろうか。
山の中腹で見晴らしのいい空き地で、おじいさんはくるりとわたしたちを向き直り、破顔した。
「どれ、中食としようか。昼は食い損ねたし、昨日の夜も今朝も携行食ばかりじゃ。
少し、腹を満たしてもバチも当たるまい。」
「そいつは、ご丁寧に。」
旅芸人の男のほうが口ごもった。
「しかし、道中急ぎますので、ここで」
「まあ、クローディア公の上洛に合わせてなにか仕掛けているのなら、まだ急ぐ頃ではないぞ。」
そう言われて、男は顔を伏せた。明らかに表情を読まれたくない、そんな仕草だった。
見慣れない弦楽器を抱えた女のほうは、艶然と微笑んで、まるで挨拶をするように言った。
「そう言えば、ロデリウム公爵家の先代には、白金貨百枚がかかっておりましたかねえ。」
サッと、供回りの二人がおじいさんと旅芸人さんの間に割って入った。
うげ。
喉の奥から酸っぱいものが込み上げる。たぶん両者の殺気に当てられたのだ。
現世、2回目のリバースは、おじいちゃんが止めてくれた。
「よしなさい、マロク、シチカ。
このお人らは、仕掛け屋じゃ。
わしの命を狙っているならとっくに仕掛けておるわ。」
「こりゃあ」
男は笑った。いつの間にかその指先には、玉のようなものが握られている。
「さすがは、御老公、といいたいところだが、そこまで見抜かれた相手を黙って行かせるわけにもいかなくなったな。」
「ふむ?
わしらがここでやり合えば、喜ぶのはここら一帯を我が物顔にしている盗賊どもだけだが?」
おじいちゃんは、ジウルさんの方を向いた。
「お主はどうする?」
「言っただろう?
俺は武者修行中なんだ。噂にきく、ギウリーク聖帝国ロデウム公爵家の筆頭騎士団“ナンバーズ”とやり合えるなら大歓迎なんだが?」
「ほう?」
おじいちゃんは目を細める。
「ジウル・・・ジウル・ボルテック。
お主はまさかグランダ魔道院の妖怪の血縁者か?」
「ひいひいひい・・・孫に当たる。」
と、本人は平然と言った。
「このアキルという女をミトラに届ける途中だ。こっちは俺の弟子のドロシー、この黒ずくめの女剣士は銀級冒険者の“鮮血”のガレルア。」
ドロシーさんは丁寧に、平民が貴族にするときの礼を、適当な偽名で紹介されたオルガっちは軽く頭を下げた。
「面白い道連れが出来たかの?」
おじいちゃんは、楽しそうだ。
これが、楽しいなんてどれだけ修羅場をくぐって来たんだろう。
旅芸人の仕掛け屋さんたちも、うれしそうだった。
ガレルアことオルガっちも楽しそうに笑っていた。
なんだ!まともな神経の持ち主はわたしだけかい!
見ればドロシーさんさえも普通じゃない。目はとろんとしているし、頬はほんのり上気して、息が荒くなっている。
決めた。今晩の宿は、階を別にしてもらおう。野宿なら20メートル以上離れて。
「ところでここまで話したのならもう一声!
打ち明けてもらってもよいかのう?」
な、なんだろう?
心当たりが多すぎて思いつかない。
「銀灰皇国の“闇姫”オルガの出奔の情報は、ギウリークにもはいっておるのだ。」
おじいさん、いやじじいは悪い笑いを浮かべた。
「皇帝暗殺が濡れ衣かそうでないかは問題ではない。ことが皇位の継承に関わる以上、ギウリークならびに西域諸国はこれに介入しない。
アンテ=リドール条約の通りにな。」
オルガっち、めちゃバレバレだよ!
「その、アキルという少女こそがオルガ姫なのだろう? 違うかな、ジウル・ボルテック!!」
ジウル、ドロシー、オルガっち、なんで「え?バレた」って顔をするんだっ!
ち、ちがいますっ!
わたし、流血、殺人、残虐大好きのなんとか皇国の闇姫じゃなくて、邪神です。
・・・え? 詰んだ?
「アンテ=リドール条約はまだ有効なのか? 他国の王位の継承には、互いに一切介入しないという?
継承に絡んでの亡命は無条件に受け入れ、引き渡しなどは行わない。まして拘束も投獄も行わず、暗殺などについては、その国の治安機構ができる最大限の努力をもってこれを保護する、という。」
「ほうほう、よく勉強しとるな。国と国の間柄としては、現在も有効じゃよ。ただし、王権、国権が地方領主まで浸透しない昔ながらの封建制の国もあり、また。」
じじいは、こんどは、旅芸人の「仕掛け屋」さん・・・自称、ギンさんとリクさんにむかって笑う。
「こんなその道の専門家もおるのでな。王宮から離れた王族の命など、灯籠の前の蛾一匹のように儚きものなのだが。」
「そういうご老人は、のんびりこうして旅を楽しんでおられる。」
ジウルさんが皮肉った。
「それどころか、積極的に厄介事に首をつっこんでおられるような。」
「最初はただの視察のつもりだったのだが、実力に訴えて、解決する悪い癖が若い頃から抜けなくて、な。」
じじいは、何気なく頭をさげた。
その頭上を、矢が走りぬけていった。
木立の間から現れたのは・・・いや山賊じゃないでしょ。山道を走れるように軽装備だけど。これってちゃんとした兵隊さん、じゃない?
なんだか魔法使いみたいなひともいるし。
「どうも政のみだれは地方からはじまるようでな。」
じじい、楽しそうだな。
「武装した兵士の集団には我が拳は、まだ試していなかったな。」
ジウルさん、あんたってひとは。
「血、血、血、ちぃ~~~~」
オルガっち・・・・
「はあはあはあ・・・」
ドロシーさん・・・
「ううう・・・誰かルトくんみたいにマトモナひといないの?」
聞きつけたジウルさんが振り返ってにやりと笑った。
「まともなルト? どこの時間軸の話だ?」
山の中腹で見晴らしのいい空き地で、おじいさんはくるりとわたしたちを向き直り、破顔した。
「どれ、中食としようか。昼は食い損ねたし、昨日の夜も今朝も携行食ばかりじゃ。
少し、腹を満たしてもバチも当たるまい。」
「そいつは、ご丁寧に。」
旅芸人の男のほうが口ごもった。
「しかし、道中急ぎますので、ここで」
「まあ、クローディア公の上洛に合わせてなにか仕掛けているのなら、まだ急ぐ頃ではないぞ。」
そう言われて、男は顔を伏せた。明らかに表情を読まれたくない、そんな仕草だった。
見慣れない弦楽器を抱えた女のほうは、艶然と微笑んで、まるで挨拶をするように言った。
「そう言えば、ロデリウム公爵家の先代には、白金貨百枚がかかっておりましたかねえ。」
サッと、供回りの二人がおじいさんと旅芸人さんの間に割って入った。
うげ。
喉の奥から酸っぱいものが込み上げる。たぶん両者の殺気に当てられたのだ。
現世、2回目のリバースは、おじいちゃんが止めてくれた。
「よしなさい、マロク、シチカ。
このお人らは、仕掛け屋じゃ。
わしの命を狙っているならとっくに仕掛けておるわ。」
「こりゃあ」
男は笑った。いつの間にかその指先には、玉のようなものが握られている。
「さすがは、御老公、といいたいところだが、そこまで見抜かれた相手を黙って行かせるわけにもいかなくなったな。」
「ふむ?
わしらがここでやり合えば、喜ぶのはここら一帯を我が物顔にしている盗賊どもだけだが?」
おじいちゃんは、ジウルさんの方を向いた。
「お主はどうする?」
「言っただろう?
俺は武者修行中なんだ。噂にきく、ギウリーク聖帝国ロデウム公爵家の筆頭騎士団“ナンバーズ”とやり合えるなら大歓迎なんだが?」
「ほう?」
おじいちゃんは目を細める。
「ジウル・・・ジウル・ボルテック。
お主はまさかグランダ魔道院の妖怪の血縁者か?」
「ひいひいひい・・・孫に当たる。」
と、本人は平然と言った。
「このアキルという女をミトラに届ける途中だ。こっちは俺の弟子のドロシー、この黒ずくめの女剣士は銀級冒険者の“鮮血”のガレルア。」
ドロシーさんは丁寧に、平民が貴族にするときの礼を、適当な偽名で紹介されたオルガっちは軽く頭を下げた。
「面白い道連れが出来たかの?」
おじいちゃんは、楽しそうだ。
これが、楽しいなんてどれだけ修羅場をくぐって来たんだろう。
旅芸人の仕掛け屋さんたちも、うれしそうだった。
ガレルアことオルガっちも楽しそうに笑っていた。
なんだ!まともな神経の持ち主はわたしだけかい!
見ればドロシーさんさえも普通じゃない。目はとろんとしているし、頬はほんのり上気して、息が荒くなっている。
決めた。今晩の宿は、階を別にしてもらおう。野宿なら20メートル以上離れて。
「ところでここまで話したのならもう一声!
打ち明けてもらってもよいかのう?」
な、なんだろう?
心当たりが多すぎて思いつかない。
「銀灰皇国の“闇姫”オルガの出奔の情報は、ギウリークにもはいっておるのだ。」
おじいさん、いやじじいは悪い笑いを浮かべた。
「皇帝暗殺が濡れ衣かそうでないかは問題ではない。ことが皇位の継承に関わる以上、ギウリークならびに西域諸国はこれに介入しない。
アンテ=リドール条約の通りにな。」
オルガっち、めちゃバレバレだよ!
「その、アキルという少女こそがオルガ姫なのだろう? 違うかな、ジウル・ボルテック!!」
ジウル、ドロシー、オルガっち、なんで「え?バレた」って顔をするんだっ!
ち、ちがいますっ!
わたし、流血、殺人、残虐大好きのなんとか皇国の闇姫じゃなくて、邪神です。
・・・え? 詰んだ?
「アンテ=リドール条約はまだ有効なのか? 他国の王位の継承には、互いに一切介入しないという?
継承に絡んでの亡命は無条件に受け入れ、引き渡しなどは行わない。まして拘束も投獄も行わず、暗殺などについては、その国の治安機構ができる最大限の努力をもってこれを保護する、という。」
「ほうほう、よく勉強しとるな。国と国の間柄としては、現在も有効じゃよ。ただし、王権、国権が地方領主まで浸透しない昔ながらの封建制の国もあり、また。」
じじいは、こんどは、旅芸人の「仕掛け屋」さん・・・自称、ギンさんとリクさんにむかって笑う。
「こんなその道の専門家もおるのでな。王宮から離れた王族の命など、灯籠の前の蛾一匹のように儚きものなのだが。」
「そういうご老人は、のんびりこうして旅を楽しんでおられる。」
ジウルさんが皮肉った。
「それどころか、積極的に厄介事に首をつっこんでおられるような。」
「最初はただの視察のつもりだったのだが、実力に訴えて、解決する悪い癖が若い頃から抜けなくて、な。」
じじいは、何気なく頭をさげた。
その頭上を、矢が走りぬけていった。
木立の間から現れたのは・・・いや山賊じゃないでしょ。山道を走れるように軽装備だけど。これってちゃんとした兵隊さん、じゃない?
なんだか魔法使いみたいなひともいるし。
「どうも政のみだれは地方からはじまるようでな。」
じじい、楽しそうだな。
「武装した兵士の集団には我が拳は、まだ試していなかったな。」
ジウルさん、あんたってひとは。
「血、血、血、ちぃ~~~~」
オルガっち・・・・
「はあはあはあ・・・」
ドロシーさん・・・
「ううう・・・誰かルトくんみたいにマトモナひといないの?」
聞きつけたジウルさんが振り返ってにやりと笑った。
「まともなルト? どこの時間軸の話だ?」
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