151 / 574
第5部 ギウリーク動乱篇~ミトラへの道
第132話 ギムリウス出陣す!
しおりを挟む
第三校舎の、1階から3階までづ吹き抜けの廊下での出来事だった。
「ロウ」
まだらの蜘蛛の背に乗った少女が、天井から降りてくるのは、真祖たる吸血鬼であるロウ=リンドにしてもちょっと胸がどきどきする光景である。
逆さ吊りになった蜘蛛は、天井から糸で繋がっている。
一般生徒が見たらトラウマになること必至だろうと思われるのだが、ギムリウスもヤホウも気にしていない。
一回見たら、トラウマだったら慣れるまで見せればいい。どうせ、彼らはここで生活しているのである。ヤホウの魔法講座は、今のところ、ルールス分校の生徒しか参加していないが、高度な魔法知識、丁寧な説明と、無尽蔵の魔力による豊富な実演、授業態度の悪い生徒は食われるという噂による緊張感のある授業態度などが好評で、見学の生徒は後を立たない。
「これでもう一歩、受講生以外は食われるという噂になれば、生徒も増えるのではないか。」
とヤホウは、ゴウグレに相談したのだが、ゴウグレは難しい顔をして、
「それだと、あなたが討伐される可能性がある。」
と言った。
「冒険者学校の講師が討伐されたなどという無茶な話は聞いたことがない。」
「ヤホウ先輩」
ゴウグレは、魔王宮以外の外界を書物でしか知らない先達に、がっかりしたように言った。
「先輩のかっこよさは、人間にはわからないのです。」
「うむむ。」
格好いいも何も、ヤホウは、まだら模様の入った牛ほどもある大蜘蛛である。額の部分に人の顔をかたどったお面をつけていて、発声、表情、視線の動きなど全てのコミュニケーションを司ってくれるのだが、「そういう亜人」だと言う主張が、無理なのは、ヴァルゴールの使徒として、人の世に暮らしたゴウグレにはよくわかる。
さて、最近、ギムリウスは移動のときに、一緒の時は、ヤホウの背に乗っていることが多い。
なにしろ、蜘蛛なので移動が3次元である。建物から建物へ移動するときに、いちいち5階から1階まで降りて、また歩いてなどのまどろっこしさがない。
ギムリウス単体だと一応階段を降りるための二本の足がせっかくあるので、それを使っているのだが、ヤホウと一緒ならば構わないだろうと。
常識に欠けるギムリウスはそう判断したのだ。
「ルトとフィオリナからの連絡は?
ドロシーはどうしている?」
「転移なしに行くとミトラはけっこう遠いんだぞ。」
ロウは物分かりの悪い蜘蛛型決戦兵器にそう言った。
「ようやく、ミトラに着いたころだ。」
ギムリウスは沈黙した。
主人の気持ちを察したのか、ヤホウが顎をガチガチと鳴らした。
恐ろしい光景だった。
廊下をちょうど曲がっただ学生が、こちらに気がつき、声にならない悲鳴をあげて逃げて行った。
普通の学生ならともかく、冒険者学校の学生がそれでは如何なものか、とロウなどは思ってしなうのだが。
「わたしは思うのですが、ロウ。」
「何を思うのだろう、ギムリウス。」
「わたしは、ルトとフィオリナが好きなのかも知れない。」
ロウは吹き出した。
「そうだな。わたしたちはみんなそうだ。」
「わたしは好きな相手には近くにいて欲しいのです。」
「それはわたしもそうだな。」
ロウはちょっと考えたてから言った。
「実際、ルトたちが出かけてからまだ四日だぞ、ギムリウス。」
「わたしには、少し事情があります。」
ギムリウスは、ヤホウの面を覗き込んだ。
面は満足気に微笑んだ。
「わたしの体に生殖機能を備えたら、という話はしたと思うが。」
「そんな話はしてたかな?」
ロウは嫌な予感に怯えた。
真祖吸血鬼はめったなことでは、怯えりしないのだが。
「わたしやゴウグレとも相談いただいたのですが、とりあえず染色体の情報を混ぜ合わせての新生命体の創造は不確定要素が多いため、見送り致しました。」
それはそうだ。とロウは心の中で安堵した。
自分の子供を新生命体と呼ばねばならない状況での子孫繁栄はやめて欲しい。
ヤホウは得意げに進めた。
「創造主ギムリウスさまと相談の結果、擬似的なコミュニケーション手段として生殖活動の真似事ができるようにすればよいのではないかとの結論に達し、主の体はその機能を装備致しました。」
うーん。
蜘蛛の一部にことが済んだ後、雄を食べる習慣のあるものがいたよな。
ギムリウスは違うよな。
「次はその実験なのですが、マシューから被験体になりたいとの申し出を度々受けておりまして。」
ドロシーの婚約者は、なんというか。
邪魔だなあ、とロウは思った。
あれがいなくなるだけでもだいぶ、スッキリするのに。
そうか、きっとコトが済んだあとに、食べる種族なのだろう、ギムリウスは。よし、そうだ、そうに決まった。
「ただ主は、最初の被験体はルトさまを、希望されているのです。」
ルトは。
無理だぞ?
多少はルトの事情を理解しているロウはそう言ってギムリウスを諌めた。
「そんなことはないと思います。」
巨大蜘蛛型要塞のヒトガタはムキになってズボンのベルトを外した。
「真似事でいいのです。ただ快楽を司る神経も繋いでいる以上、好きな相手がよいのかと思われます。」
ロウは、ギムリウスの股間を見つめた。
・・・
えっと、これは男の子にあるというP--------だよな。
しかもロウの視線に反応してかそれはみるみる(以下略)。
「分かった。ここはマシューを被験体にしていい。わたしから、ルトやドロシーにはよく話しておく。」
むしろ、マシューの反応が楽しみでしょうがなくなったロウは、そう言ってるんるん気分でその場を去った。
あとに残されたギムリウスとヤホウは相変わらず天井からぶら下がったまま、通りかかる生徒の腰を抜けさせていたが。
「うん、やっぱりルト自身に直接的相談してみよう。」
「それがよろしいかと存じます。」
常識以外のすべての知識を備えた蜘蛛軍団の知恵袋ヤホウは、主にそう答えた。
「わたしが一緒ではミトラでは目立ってしまいますが御身おひとりなら大丈夫でしょう。」
ギムリウスもそう考えた。
そうだよね、転移で行ってちょっとルトと話をして帰ってくるだけだし。
「ロウ」
まだらの蜘蛛の背に乗った少女が、天井から降りてくるのは、真祖たる吸血鬼であるロウ=リンドにしてもちょっと胸がどきどきする光景である。
逆さ吊りになった蜘蛛は、天井から糸で繋がっている。
一般生徒が見たらトラウマになること必至だろうと思われるのだが、ギムリウスもヤホウも気にしていない。
一回見たら、トラウマだったら慣れるまで見せればいい。どうせ、彼らはここで生活しているのである。ヤホウの魔法講座は、今のところ、ルールス分校の生徒しか参加していないが、高度な魔法知識、丁寧な説明と、無尽蔵の魔力による豊富な実演、授業態度の悪い生徒は食われるという噂による緊張感のある授業態度などが好評で、見学の生徒は後を立たない。
「これでもう一歩、受講生以外は食われるという噂になれば、生徒も増えるのではないか。」
とヤホウは、ゴウグレに相談したのだが、ゴウグレは難しい顔をして、
「それだと、あなたが討伐される可能性がある。」
と言った。
「冒険者学校の講師が討伐されたなどという無茶な話は聞いたことがない。」
「ヤホウ先輩」
ゴウグレは、魔王宮以外の外界を書物でしか知らない先達に、がっかりしたように言った。
「先輩のかっこよさは、人間にはわからないのです。」
「うむむ。」
格好いいも何も、ヤホウは、まだら模様の入った牛ほどもある大蜘蛛である。額の部分に人の顔をかたどったお面をつけていて、発声、表情、視線の動きなど全てのコミュニケーションを司ってくれるのだが、「そういう亜人」だと言う主張が、無理なのは、ヴァルゴールの使徒として、人の世に暮らしたゴウグレにはよくわかる。
さて、最近、ギムリウスは移動のときに、一緒の時は、ヤホウの背に乗っていることが多い。
なにしろ、蜘蛛なので移動が3次元である。建物から建物へ移動するときに、いちいち5階から1階まで降りて、また歩いてなどのまどろっこしさがない。
ギムリウス単体だと一応階段を降りるための二本の足がせっかくあるので、それを使っているのだが、ヤホウと一緒ならば構わないだろうと。
常識に欠けるギムリウスはそう判断したのだ。
「ルトとフィオリナからの連絡は?
ドロシーはどうしている?」
「転移なしに行くとミトラはけっこう遠いんだぞ。」
ロウは物分かりの悪い蜘蛛型決戦兵器にそう言った。
「ようやく、ミトラに着いたころだ。」
ギムリウスは沈黙した。
主人の気持ちを察したのか、ヤホウが顎をガチガチと鳴らした。
恐ろしい光景だった。
廊下をちょうど曲がっただ学生が、こちらに気がつき、声にならない悲鳴をあげて逃げて行った。
普通の学生ならともかく、冒険者学校の学生がそれでは如何なものか、とロウなどは思ってしなうのだが。
「わたしは思うのですが、ロウ。」
「何を思うのだろう、ギムリウス。」
「わたしは、ルトとフィオリナが好きなのかも知れない。」
ロウは吹き出した。
「そうだな。わたしたちはみんなそうだ。」
「わたしは好きな相手には近くにいて欲しいのです。」
「それはわたしもそうだな。」
ロウはちょっと考えたてから言った。
「実際、ルトたちが出かけてからまだ四日だぞ、ギムリウス。」
「わたしには、少し事情があります。」
ギムリウスは、ヤホウの面を覗き込んだ。
面は満足気に微笑んだ。
「わたしの体に生殖機能を備えたら、という話はしたと思うが。」
「そんな話はしてたかな?」
ロウは嫌な予感に怯えた。
真祖吸血鬼はめったなことでは、怯えりしないのだが。
「わたしやゴウグレとも相談いただいたのですが、とりあえず染色体の情報を混ぜ合わせての新生命体の創造は不確定要素が多いため、見送り致しました。」
それはそうだ。とロウは心の中で安堵した。
自分の子供を新生命体と呼ばねばならない状況での子孫繁栄はやめて欲しい。
ヤホウは得意げに進めた。
「創造主ギムリウスさまと相談の結果、擬似的なコミュニケーション手段として生殖活動の真似事ができるようにすればよいのではないかとの結論に達し、主の体はその機能を装備致しました。」
うーん。
蜘蛛の一部にことが済んだ後、雄を食べる習慣のあるものがいたよな。
ギムリウスは違うよな。
「次はその実験なのですが、マシューから被験体になりたいとの申し出を度々受けておりまして。」
ドロシーの婚約者は、なんというか。
邪魔だなあ、とロウは思った。
あれがいなくなるだけでもだいぶ、スッキリするのに。
そうか、きっとコトが済んだあとに、食べる種族なのだろう、ギムリウスは。よし、そうだ、そうに決まった。
「ただ主は、最初の被験体はルトさまを、希望されているのです。」
ルトは。
無理だぞ?
多少はルトの事情を理解しているロウはそう言ってギムリウスを諌めた。
「そんなことはないと思います。」
巨大蜘蛛型要塞のヒトガタはムキになってズボンのベルトを外した。
「真似事でいいのです。ただ快楽を司る神経も繋いでいる以上、好きな相手がよいのかと思われます。」
ロウは、ギムリウスの股間を見つめた。
・・・
えっと、これは男の子にあるというP--------だよな。
しかもロウの視線に反応してかそれはみるみる(以下略)。
「分かった。ここはマシューを被験体にしていい。わたしから、ルトやドロシーにはよく話しておく。」
むしろ、マシューの反応が楽しみでしょうがなくなったロウは、そう言ってるんるん気分でその場を去った。
あとに残されたギムリウスとヤホウは相変わらず天井からぶら下がったまま、通りかかる生徒の腰を抜けさせていたが。
「うん、やっぱりルト自身に直接的相談してみよう。」
「それがよろしいかと存じます。」
常識以外のすべての知識を備えた蜘蛛軍団の知恵袋ヤホウは、主にそう答えた。
「わたしが一緒ではミトラでは目立ってしまいますが御身おひとりなら大丈夫でしょう。」
ギムリウスもそう考えた。
そうだよね、転移で行ってちょっとルトと話をして帰ってくるだけだし。
10
あなたにおすすめの小説
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる