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第5部 ギウリーク動乱篇~ミトラへの道
第177話 嘆きの魔拳ジウル
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ジウルは血相を変えて、ギルマスに詰めよった。
ギルマスは驚いた。
興奮していて言ってることはわからないが、要するに、連れの女がいなくなったらしい。
とにかくその迫力に押されて、ギルマスはたじろいだ。
こんな迫力は、彼が若い頃に、竜と対峙して以来だった。
「落ち着いてください、ジウルさん。いくら彼女にフラれたからって、ギルドに苦情を持ち込むのは筋違いってモンです。」
かろうじてそう返したが、ちょっと違うようだった。
「誰が・・・・」
ジウルは助けを求めるように、仲間たちを振り返った。
クローディアが真面目くさった仮面を被っているだけで、その他の連中はくすくすと笑ったり、視線を逸らしたりしている。
その様子に力を得たギルマスは続けた。
「なあ・・・ジウルさん、あんたは幾つだ?」
「俺の年が何か関係あるのか?」
「なあ、ジウルさん。そりゃああんたはまだ若い。若いが二十歳はとっくに超えているだろう?
あの娘さんは、どう見たってまだ10代じゃないか。
下手をすれば成人すらしていない。」
「グランダじゃあ、成人は16歳なんだ。」
ムッとしてボルテックは答えた。
「じゃあ、まだまだ子供と言っていい年齢だ。なあ、ジウルさん、俺たち大人には若いもんを導いてやるって仕事があるんだぜ。これは順繰りに回ってくる仕事で、俺たちもガキの頃には随分と躾けられたもんだ。」
「あのな・・・・」
「わかってるよ。夜の方は満足させてたっていうんだろ。
男は大抵、そう言うんだが、それはおまえさんが若い子をそうなるように『仕込んだ』からそう感じるだけなんだよ。
実際には、女だって同じくらいの年頃の相手に惹かれるもんさ。
だいたい、あんたは、ドロシーさんに、ちゃんと自分のことや彼女自身の将来のこととか、話をしてやってたかい?」
ジウル・ボルテックは言葉に詰まった。
まったく的外れなギルマスの言葉であったが、その指摘についてはジウルも思うところがあったのだ。
実際、彼は、ドロシーの若い体に、溺れていると言ってもいい。
その反応に、仰け反ったときの白い喉に、昂るにつれてほんのり血の気を帯びるその肌に、獣のようにうめきながらも優美さを失わないこの肢体に、どうしょうもなく惹かれていた。そして彼自身が思いもよらずに得ることになった青年の肉体もそれを楽しんでいた。
そして、それ以外の時間はすべて、拳の修練に充ててしまっていただめ、会話らしい会話は、本当に睦言程度しかなかったのだ。
とうとう、堪えきれずにアウデリアが噴き出した。傭兵ガルレアこと闇姫オルガは、もっと容赦ない。呼吸困難になるくらいに笑っている。
ご老公もその部下たちも呆れ返ったように、ジウルを見つめている。
「いや、違うんだ! ドロシーとアキルは誘拐されたんだ!」
「ああ、もう一人の黒髪の子も一緒にいなくなったのかい。」
同情するようにギルマスは言った。
「まさかとは思うが、そっちにも手を出そうとしたんじゃないだろうね?
書き置きもなしにいなくなかったからそう思いたいのは、男としてわからんでもないが。
すっぱり諦めて、自分にふさわしい女を探すんだな。
逃げた女を無理やり探し当てたところで、自分が惨めになるだけだぞ。
まして、それがうんと歳の離れた彼女だったりすると、な。」
ショックのあまり、口も聞けなくなったジウルを親切な仲間たちは、席に座らせて、彼のために酒と肴を注文してやった。
「今日は、無理せんでいいから。」
ご老公は好々爺然とした顔で、彼を慰めた。
「適当にうまいもんでも食って、酒でも飲んでいなされ。わしたちはそれぞれでやれることをやっておくからの。」
違う、違うんだ。
と、ジウル・ボルテックは叫びたい。叫びたいが、話は、もはやギルド中に知れ渡ってしまっている。叫ぼうが喚こうが恥の上塗りになるだけである。
しかたなし、ジウルは、酒と肉をしこたま食らった。こんなことは本当に久しぶりだった。
確かに、ドロシーを伴侶と呼べるほど、長い期間、傍に置くつもりはもともとなかったジウルであったが、では当初の予定通り三ヶ月で、冒険者学校に戻すつもりかといえば。答えは明確に「NO」だった。
ドロシーが傍らにいなくなることが、こんなにも堪えるとは!
魔道院で妖怪とまで言われた魔導師、またはその曾孫を名乗る拳士は、そのまま酒をお代わりし、怒りをぶつけるように骨つき肉を骨ごと噛み砕いた。
そんな彼をギルドの冒険者たちは遠巻きに見守りながらも、視線が合わないように注意するのだった。
ギルマスは驚いた。
興奮していて言ってることはわからないが、要するに、連れの女がいなくなったらしい。
とにかくその迫力に押されて、ギルマスはたじろいだ。
こんな迫力は、彼が若い頃に、竜と対峙して以来だった。
「落ち着いてください、ジウルさん。いくら彼女にフラれたからって、ギルドに苦情を持ち込むのは筋違いってモンです。」
かろうじてそう返したが、ちょっと違うようだった。
「誰が・・・・」
ジウルは助けを求めるように、仲間たちを振り返った。
クローディアが真面目くさった仮面を被っているだけで、その他の連中はくすくすと笑ったり、視線を逸らしたりしている。
その様子に力を得たギルマスは続けた。
「なあ・・・ジウルさん、あんたは幾つだ?」
「俺の年が何か関係あるのか?」
「なあ、ジウルさん。そりゃああんたはまだ若い。若いが二十歳はとっくに超えているだろう?
あの娘さんは、どう見たってまだ10代じゃないか。
下手をすれば成人すらしていない。」
「グランダじゃあ、成人は16歳なんだ。」
ムッとしてボルテックは答えた。
「じゃあ、まだまだ子供と言っていい年齢だ。なあ、ジウルさん、俺たち大人には若いもんを導いてやるって仕事があるんだぜ。これは順繰りに回ってくる仕事で、俺たちもガキの頃には随分と躾けられたもんだ。」
「あのな・・・・」
「わかってるよ。夜の方は満足させてたっていうんだろ。
男は大抵、そう言うんだが、それはおまえさんが若い子をそうなるように『仕込んだ』からそう感じるだけなんだよ。
実際には、女だって同じくらいの年頃の相手に惹かれるもんさ。
だいたい、あんたは、ドロシーさんに、ちゃんと自分のことや彼女自身の将来のこととか、話をしてやってたかい?」
ジウル・ボルテックは言葉に詰まった。
まったく的外れなギルマスの言葉であったが、その指摘についてはジウルも思うところがあったのだ。
実際、彼は、ドロシーの若い体に、溺れていると言ってもいい。
その反応に、仰け反ったときの白い喉に、昂るにつれてほんのり血の気を帯びるその肌に、獣のようにうめきながらも優美さを失わないこの肢体に、どうしょうもなく惹かれていた。そして彼自身が思いもよらずに得ることになった青年の肉体もそれを楽しんでいた。
そして、それ以外の時間はすべて、拳の修練に充ててしまっていただめ、会話らしい会話は、本当に睦言程度しかなかったのだ。
とうとう、堪えきれずにアウデリアが噴き出した。傭兵ガルレアこと闇姫オルガは、もっと容赦ない。呼吸困難になるくらいに笑っている。
ご老公もその部下たちも呆れ返ったように、ジウルを見つめている。
「いや、違うんだ! ドロシーとアキルは誘拐されたんだ!」
「ああ、もう一人の黒髪の子も一緒にいなくなったのかい。」
同情するようにギルマスは言った。
「まさかとは思うが、そっちにも手を出そうとしたんじゃないだろうね?
書き置きもなしにいなくなかったからそう思いたいのは、男としてわからんでもないが。
すっぱり諦めて、自分にふさわしい女を探すんだな。
逃げた女を無理やり探し当てたところで、自分が惨めになるだけだぞ。
まして、それがうんと歳の離れた彼女だったりすると、な。」
ショックのあまり、口も聞けなくなったジウルを親切な仲間たちは、席に座らせて、彼のために酒と肴を注文してやった。
「今日は、無理せんでいいから。」
ご老公は好々爺然とした顔で、彼を慰めた。
「適当にうまいもんでも食って、酒でも飲んでいなされ。わしたちはそれぞれでやれることをやっておくからの。」
違う、違うんだ。
と、ジウル・ボルテックは叫びたい。叫びたいが、話は、もはやギルド中に知れ渡ってしまっている。叫ぼうが喚こうが恥の上塗りになるだけである。
しかたなし、ジウルは、酒と肉をしこたま食らった。こんなことは本当に久しぶりだった。
確かに、ドロシーを伴侶と呼べるほど、長い期間、傍に置くつもりはもともとなかったジウルであったが、では当初の予定通り三ヶ月で、冒険者学校に戻すつもりかといえば。答えは明確に「NO」だった。
ドロシーが傍らにいなくなることが、こんなにも堪えるとは!
魔道院で妖怪とまで言われた魔導師、またはその曾孫を名乗る拳士は、そのまま酒をお代わりし、怒りをぶつけるように骨つき肉を骨ごと噛み砕いた。
そんな彼をギルドの冒険者たちは遠巻きに見守りながらも、視線が合わないように注意するのだった。
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