あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

文字の大きさ
201 / 574
第5部 ギウリーク動乱篇~ミトラへの道

第182話 勘違いするものたち

しおりを挟む
この決して長いと言えない打合せの間にも多くの齟齬が発生したが、アライアスもギムリウスもそれにまったく気がついていなかった。
これはもちろんアライアスのせいではない。そして、驚くべきことにギムリウスのせいでもない。

アライアスは、転移能力に特化したギムリウスと、その若い友人たちに、オーベルで何が起こっているかを探らせるつもりだった。
必要ならば、クローディア大公を救出するための部隊を送り込む。鉄道管理について領主に問題があるようなら然るべき、処罰を加える。

ギムリウスは、全てを解決するつもりだった。
クローディア夫妻と、ウィルニアがなにかトラブルに巻き込まれているようなら、解決する。
抵抗するものがあれば、全て打ち倒し、粉砕し、踏み躙る。

対人戦闘ならば、人化した古竜ですら圧倒するエミリア。ヴァルゴールの12使徒のミラン。ギムリウスの試練に耐えたウォルトとミイシア。そして神獣ギムリウス。
当然、城砦の如き「本体」を呼ぶことも、無限に製造される蜘蛛軍団を差し向けることもできる。
無敵に近い布陣である。
誰か忘れているような気がした。

ギムリウスは、首を傾げたがまあ、いいやと思った。



齟齬は、遠くオーベルの地でも起こっていた。

鉄道公団は、ゼナス・ブォストルは頭がよく、他者から傅かれるのが当然と思って生きてきた。
彼は今回の任務、つまりオールべの街をギウリーク聖帝国から切り離し、鉄道公団の直轄にすること。
すでに、邪魔な領主の命は断った。その犯人として名指しされたのは、クローディア大公であり、さすがにこれほどの嫌疑であれば一国の領主といえども逮捕しても差し支えはなかろう。
全ては順調であり、彼のコントロールのもとにある。
ただ、人質だけがうまくいかない。
キッガが彼に無断で雇いいいれた爵位持ちの吸血鬼。ロウ=リンド。
彼の目論見通りに、人質として、拳法家の弟子どもを拉致したらのが、手元に抱え込んで彼が手出しをすることを一才、許さない。
なんと、二人の女が自分のことを見限って出奔したのだと信じ込んだ拳士は誘拐をどうしても信じないのだという。
ならば、女どもの体の1部を切り取って送り付けろと「命じた」彼の命令にロウ=リンドは平然と反対したのだ。

“ ジウルはこちらに引き込んだほうがいい。人質に手荒な真似は禁物だ。”と。
それは合理的な判断であったし、キッガもその方がいいだろうと、彼に言った。
キッガはともかく吸血鬼風情が、公社の人間に指図をしたのだ。これは許し難い。

彼のプランはとにかく、連中を個別にバラバラにした上で始末する、というものだった。
だから、人質などいたぶり殺しても構わない。逆上して乗り込んでくれば推し包んで返り討ちだ。
ゼナス・ブォストルはこの任務に当たって、三名の「絶士」を保安部から借り受けていた。
ならば負けるはずがないのだ。

ゼナス・ブォストルは、胸の中に広がる苦いものを噛み殺した。
目の前で踊るキッガの肢体に、集中する。まったく!
この女もこの体さえなければ、とっとと、始末してやるのだが。


ウィルニアは、彼にしては賢明なことに自分が動けば動くほど、事態が悪化することが多いのに気がついており、まあ、数日の我慢で列車が運行されるならば、ふて寝を決め込んでいればいいか、と思い実際何日かは大人しくしていたのだ。

しかし、まあ。
およそ、我慢には程遠いのがウィルニアの性格である。

うん、そうだな。宿から出て少し歩くくらいはいいんじゃないだろうか。

そう思って、ギルドの門を出て3歩、歩いた時だった。
彼の周りの世界がぐるりと回った。
いままでいた繁華街はどこにもなく、暗黒の空に岩場がどこまでも続く。

強制転移?
いや、異界への「落とし穴」か。

ウィルニアが見上げた岩のうえには、女が立っていた。
「メイド・・・さん?」

一人で掃除から調理までこなすハウスメイドさん、に見えた。
そうでないと、メイド服のロングエプロンを身につけ、両手に包丁をもっている意味がわからない。

「絶魔法士グエルジン。」
隠隠と彼女は名乗った。
「ゼナス・ブォストルさまの命令はひとりひとり、すり潰せ、とのことだ、」
彼女は、その頭上で包丁をカシャッと交差させた。

「絶士?」

魔法士、と名乗った彼女はその名乗りに反し、包丁を振りかざして、ウィルニアに襲いかかった。
ウィルニアは、動けない。

突然、体重が何倍にもなったかのような重だるさ。1歩を踏み出すことさえ叶わぬ。

飛び降りたグエルジンの包丁は、ウィルニアと彼女の間にあった岩塊を、バターのように切り裂いた。

「刃物はよく研いであるけど、踏み込みが甘いな。」

グエルジンは、呆然とウィルアを見つめた。
包丁はウィルニアを両断したはずだった。だが彼女とウィルニアの距離は、相変わらず10メトルはあり、それは全く、縮まっていないように見えた。

グエルジンの叫んだ魔法の言葉は、ウィルニアも聞いたことがなかった。手のひらに光の玉が収縮し、そのから光の放流が放たれる。
それは、ウィルニアの体に達することなく。
消えた。
「破邪光槍の射程は1000メトル。」
グエルジンは、顔を歪めた。
「わたしとおまえの距離はそれ以上ある、ということか。」
「なに、10日も旅すればたどり着けるさ。」
ウィルニアは安請け合いした。

グエルジンの、額に3つ目の目が開いた。
「わたしの“目”に距離など関係ない。」
そして大きく包丁を振りかざした。
「見えているならば斬撃はどこにでも届く。」
はたして。

振り下ろした包丁は、交差する黒い鎌が受け止めた。
「斬撃を転移させているようです。」
黒い骸骨の聖女はたんたんと告げた。
「いくら距離を好きに設定できるからと言って、障壁も、なしに敵の前に立つのは」
「まだ、敵と決まった訳では無いよ、シャーリー。」

その、声が余りにも、のんびりしていて、まるで、これからお茶会でもはじめそうだったので、シャーリーは鎌の柄で、主の頭を小突いた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...