あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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第5部 ギウリーク動乱篇~ミトラへの道

第188話 追うものと追われるもののゲーム

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オールベのギルドというギルドに。冒険者という冒険者すべてに。
緊急の依頼が、かかった。
暫定で、エステル伯爵を継いだキッガの名によるものだった。

「クローディア公とその仲間を見つけて無力化せよ。」

荒事の専門家である冒険者たちは、その意味を正しく理解した。
“殺しても構わないから捕えろ”
の意味だった。

報酬金額はとんでもないものだったが、冒険者たちがただちに積極的に動いたかというとそうでもない。
数人で、役所を守備隊ごと壊滅させた連中である。
実際に戦ったところを見たものは少なかったが、その中のひとり、アウデリアの名前は冒険者たちの間では知れ渡っていた。
彼女が、クローディア公の妻として、婚姻の式をあげるためにミトラへ行く途中だったという情報も知れ渡っていた。
アウデリアを敵に回す?

冒険者たちもオーベルの裏社会のものたちもこれには二の足をふまざるを得ない。
しかし、その日の夕刻に使えないはずの線路に列車が到着し、鉄道公社の保安隊がぞくぞくと乗り込んできたのを見て、かれらの少なくとも一部は決心した。
というよりも諦めた。

クローディアを探して捉える。探すふりだけでもしないと、目を付けられてロクでもないことになる!


「ご老公。」
街を行く、いまは商人風の格好のシチカが耳打ちする。
「つけられております。冒険者ではありません。おそらくはオーベルの裏社会・・・殺し屋かと。」

「やっかいだな。」
マロクがつぶやいた。ロデリウム公爵家の精鋭「ナンバーズ」といえども、無限に湧いて出る殺し屋からご老公を無限に守り続けられるかといえば、答えはNOだった。
「まずは、なんとか、いったんこの街を抜けましょう。」
シチカが提案した。
「この街にあるロデリウム公爵家の『影』に力を借りれば・・・」
「だめじゃわい。」
ご老公は苦虫を噛み潰したような顔でぼそりと言った。
「この街の『影』どもはとっくに伯爵家、いや、白狼団のキッガ、いや」
口唇が苦い笑みを形作った。
「鉄道公社のものよ。」

ナンバーズの二人は息をのんだ。

「影が単純に『利』で動いたとも思えぬ。鉄道公社の見せた未来がそれほどまでに魅力があったということじゃろう。
昔ながらのやり方しかできん、わしら門閥貴族とは違ってな。」
「ご老公!」
シチカは目に涙を浮かべた。
「それを改革されようとして、教皇庁に目をつけられ、まだまだお元気なのにもかかわらず、公爵位をまだ十歳にも満たぬお孫さまに譲位。そして公爵家とは一切かかわること、まかりならぬとのお達しで、公式には公爵家からも追い出される形での旅ぐらし。
その教皇庁と鉄道公社の癒着もまた明白。
あまりにも酷い。あまりにも無体なやり口ではありませんか。」
「ふん!」
老人は笑った。
「センチになるほど老いぼれてはおらん・・・・来るぞ。」

前後から二人ずつ。都合四人。得物は短剣と針。人通りは少ないとはいえ、衆人の目の前なのだ。一応「暗殺」にしたかったのだろう。
シチカとマロクは目配せした。卓越した武術の達人である彼らにはわかる。
四人ともに「できる」。
戦って勝てるかとえば勝てるのだろう。しかし、戦っている間に、ご老公が無防備になってしまっては元も子もない。

「おれは前から来る二人をやる・・・おまえは後ろの二人を。」

なにかの習い事、稽古帰りの町娘と思しき、見目のいい女が彼らにすれ違った。
「うしろの二人はおまかせください。」
風がささやくような声がした。

ご老公は目をひん剥いた。
「ギンさんか! ずいぶんと若作り・・・」
「まあ、いやだわ、おじいちゃんったら。」

笑いながら、まるで顔見知りに出会ったので会釈をするようなそぶりで、ギンは後方から迫る殺し屋に向かう。
ともに両の手に短剣を取り出していた。
そのまま、歩く速度をあげて突っ込んでくる。
ギンは、右側の男にむけて、楽器の弦をはじく爪をふるった。男がそれをかわしざまに短剣をふるう。ギンは踊りの一節のように身体をくねらせてよけた。
もうひとりはギンの背後から・・・だがその男は、そばの路地から伸ばされた手に襟首を掴まれてそのまま細い路地に引き込まれた。

「なにしやが・・・」
振り向こうとした男がびくりと、痙攣し、そのまま倒れた。
心の臓を握り潰されている。
ギンはその路地に逃げ込んだ。
仲間を殺された殺し屋が逆上して、飛び込んだ路地にまっていたのは、ごつい『手』だった。そのまま男の顔を鷲掴みにしてげもちあげる。
ギンが、手鏡の柄から飛び出た銀色の刃でその喉頸をかき切った。

そのまま路地の奥に姿を消していく、ギンとリク。
一体一ならば、街の殺し屋風情などマロクとシチカの敵ではない。すれ違いざまに剣の柄で腹をつかれ、もうひとりは関節を極めたまま投げを打たれて肩をはずしたあと、頭を小突かれて気を失った。

「なにはともあれ、クローディア陛下やアウデリアどのと合流いたしましょう。」

ご老公の難しい顔は解けない。
いまの短時間ながら激しい戦闘を「観察」していたものがいる。
それが、別の殺し屋なのか冒険者なのかはわからなかった。

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