あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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第5部 ギウリーク動乱篇~ミトラへの道

第189話 クローディア陛下の小芝居

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一方で、冒険者「黒の傭兵」ガルレアこと銀灰皇国の「闇姫」オルガは、クローディアとの道行を楽しんでいた。
二人が飛び込んだギルドは、すでにクローディアの人相書きがはられており、「無力化して捉えたもの」には金貨1000枚。

なかなかの大盤振る舞いだった。
クローディアは、つかつかとその手配書をボードからはずし、受付に差し出した。
ちなみに1人しか受けられない依頼ではないので、何枚も重ねて同じものが貼ってあった。
受付にいたのは、中年の男。ギルドマスターの印であるバッジをエリにつけていた。

「この依頼を受けたいんだが。」

クローディアがそう言うと、ギルマスは、胡散臭そうにクローディアを見上げた。

「初めて見る顔だな。よそ者か?」
「ランゴバルドの鉄級冒険者でヒルドだ。オールべの街はまだ半年がそこいらだ。よそものには違いない。」

ギルマスは、ぶつぶついいながら、手配書に印を押した。
「・・・ほら、よ。なんか情報だけでも買い取るらしいから精々、無理はしねえように、な。」
「無理なんか、するかい。」
クローディアは、気弱そうな、少しずるそうな笑みを浮かべた。
「この歳まで現役やってんだ。あぶねえことは、鼻が効くんだ。」

「馬鹿言え、クローディアひとりならともかく」
「ああ、分かってる。アウデリアだろ。俺はミトラで会ったことがある。おっかない姐さんだ。あれとやり合うような馬鹿なマネは、生まれ変わらせてくれるって女神サマが保証してもお断りだね。」

「それもなんだがな。」
ギルマスは、声を顰めた。
「こりゃあ、戦だよ。冒険者が手を出してはだめな類の戦いだ。」
「戦だ?」
クローディアは、せせら笑った。
「どっかに、騎馬に総鎧の騎士様の一団でもいたかい?」

「いや、そりゃまだだ!
だが少なくとも陣営は固まってる。いままでの権益をがっちり守りたい封建貴族対鉄道公社だ。
ここは、その最初の戦場になるのさ。」

そのとき、ギルドのドアが開いて、鉄道保安隊の一団が踏み込んできた。

「手配書は、ちゃんと貼ってあるな!?
よし、全力をあげてクローディアとその一味を捕らえるんだぞ。」

保安隊は、ぐるり、とギルド内を睨めつけた。
目が合った冒険者たちは、仕方なしに頷いた。

保安隊はそれで満足して、奥の受注カウンターでギルマスと親しげに、話し込んでいる古株の冒険者には目もくれずに出ていった。
クローディアとしては、そうなるだろうという目論見でこのギルドに飛び込んで、ギルマスに話しかけたのであり、予想通りの展開となった。

「随分と威張り腐るじゃねえか、よ。」
クローディアは、呆れたように言った。

ギルマスも頷く。
「これが新しい時代ってわけだ。だが言っちまえば、古い権益に、しがみつくもんとそれを取り上げようとするもんの、戦だ。
列車を止めちゃあ、公社から金をむしり取ってた伯爵のやり方は、褒められたもんじゃないが、公社だって自分のもうけを増やすために動いてるだけた。
冒険者が手を出すもんじゃねえや。」

ギルマスは、クローディアを見上げた。歳は彼と同じくらいだろう。見たところ右手が少し不自由なようで。それが、彼が引退した理由なのかもしれなかった。

「俺の故郷は、俺がガキの時分に戦で焼かれてな。」
ギルマスは寂しそうに笑った。
「ランゴバルドに流れて冒険者学校に入ったんだよ。もちろんいろいろ技術も習ったんだが、こんなことも叩き込まれた。
冒険者が、参加していい戦は、戦火と自分の街の間の盾となることだけだ、とさ。」

クローディアは、自分とガルレアに食べ物を頼んだ。
弱めの酒を頼むのは、水事情は不明なためしかたがないことだ。
ガルレアこと、オルガはクローディアをまじまじと見て、くすり、と笑った。

「とんだ食わせものじゃのお、主様は。
表情と話し方をかえるだけでそんなにひとはころころと、騙せるものかえ?」

「お主が口調をかえるだけで、一介の冒険者に化けているようなものだな。」

「まあ、わらわのことはいったん捨ておけ。
あまり話を盛り込んでも消化不良になるじゃろ?」
闇姫はずるそうに笑った。
「それで、これからどうするのじゃ?
ジウルは、ドロシーとアキルを助けに行ったまま帰ってこん。
やつらの手に落ちた可能性は高いぞ。」

「それについては、考えても仕方ない。ただあの妖怪がまともな人間を相手にくたばるところは想像できん。」
「おや、陛下もあの男のことはご存知なのかえ?」
ころころと、闇姫は笑った。

「グランダ魔道院の百年にわたる支配者だからな。」
「それを主らが連れていたウィルニアを名乗る若僧に譲ったと?
なにものじゃやつは。」
「だから、そのままさ。賢者ウィルニアだ。」
「バカバカしい。」
さすがに闇姫は言い捨てた。
「そんな阿呆を、どこで拾ってきたのだ。」

クローディアは首を捻った。
「そう言えば確たる証拠はないな。」
「じゃろ!? だから・・・」
「我々が、わかるのはあの男が“ 魔王宮”の第六層からやってきたこと、そこで階層主面をしていたことくらいだからな!」

闇姫は黙り込んだ。
考え込んでいるのかそれとも、筋の多い串焼き肉の咀嚼に集中しているのか微妙だったが、前者のようだった。

「だとしたら、暴走中の迷宮のコアを抱え込んでいるような、ものじゃ、ぞ?」

「うむ、銀灰皇国ではそう伝わっているのだな。」
クローディアは頷いた。
「ほかの階層主たちも概ね、同じ意見だった。」
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