あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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第5部 ギウリーク動乱篇~ミトラへの道

第212話 正当なる裁き

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「ここの責任者はどなたかな。」
友人宅でも訪問しているかのような優雅さで、クローディア陛下は尋ねた。

「保安部ミトラ=オールべ地区監督官ボイスと申します。」
きちんと襟章のついた制服を着た男が、一礼した。
「恐れながら、陛下には、エステル伯爵殺害の容疑がかかっております。身柄を拘束させていただきたい。」

「それはまた大層な嫌疑だ。」
クローディアは大仰に肩をすくめて見せた。

「保安部は他の地区からも、のべ5000名がオーベルに集結しております。いかにお連れの方の武勇が秀でたものであっても抵抗することは叶いますまい。
正当な裁判をお約束します。投降してください。」

「この短期間に5000もの兵を動員するとは!」
感嘆したようにクローディアは言った。
「すでにその人数がオーベルに到着したのかな?」

「いや・・・」
ボイス監督官は少し躊躇ったが、正直に答えた。
「現状は、2000弱。しかもあなたとその仲間を探すために市街に散ってしまっております。ここは局長と暫定伯の身柄を護衛するためのわずかな後詰めしかおりません。
ですが、すでに集結するよう命令は通達されており・・・・」

「先ほどの狼煙だそれか!
いや見事な練度だ。わが白狼騎士団にスカウトしたいくらいだよ、ボイス司令。
ところで、そのような短時間での大量動員を可能にしたのも鉄道のなせる技だとは思う。
動員の命令はいつ下ったのかね?」

「わたしくは四日前ですが、それが何か・・・・」

「エステル伯爵の殺害は三日前の話だ。どうもきみたちの局長は、伯爵の殺害前に事件が起きることを知っていたらしいが、何か感想はあるかね?」

「・・・・・」

「なるほど、局長殿に疑問があるのは、わたしもきみも一緒のようだ。
彼のところに案内願えるかな?」



「けっこう集まりましたねえ。」
ウォルトはのんびりと保安部隊が、市内の各所から集まってくるのを見下ろしている。
屋敷のあるところは小高い丘になっているので、見晴らしは悪くない。
集まった兵は、すでに数百を超えている。

「包囲されているぞ。」
ご老公が少し緊張した声で言った。
「逃げることも叶わん。ゼナス・ブォストルとキッガを人質にとって突破を図ってみるか?」

「わたしが乗せて行こうか?」
ラウレスが、言った。
「君たちくらいならば一緒に運べる。」

「冒険者や治安局の皆さんはどうします。」
ウォルトは却下した。
「戦っているならば敵の増援ですが、今現実に戦いなど起こっていないのです。
いくら集まろうが、それは見物客が増えただけに過ぎません。
それに」

ウォルトはシチカとマロクを振り返った。

「そろそろ頃合いです。」


集まった保安部隊員たちは、何をしたらいいのかわからずに、困っていた。
挙げられた狼煙は、緊急用のものだ。すわ戦闘かと駆けつけてみれば、それらしい様子もない。
あげた拳の振り下ろす先を失って、「絶拳士」シホウとジウルの試合を遠目に見せられているだけである。

その凄絶でありながら、まったく事態の進展と関わりのない激闘も終わりを迎えつつあった。
ジウルの全力を込めた拳。魔力をそのまま攻撃力に転化した一撃が、シホウの左胸を捉えた。
正直に言って当たるところはどこでもいい。
「神龍皇妃」リアモンドの鱗を破ってダメージを与えた魔拳である。
当たればあたったところが壊れる。ガードすればガードごと粉砕する。

だが、その衝撃を逃すかのように、四方の巨体が回転した。ジウルの手に伝わった感触は、肋骨を砕いたそれ。しかし、その打撃の大半を自らの巨躯。その動きに乗せて、ジウル目掛けて横殴りの拳が襲った。
ジウルの首が捩じ切ればばかりに曲がり、そのまま後退。尻餅をついた。

だが、殴ったシホウの拳もまた砕けている。全ての指があらぬ方向に曲がり、手首の関節はすでにその腕に全く力が入らない事を伝えていた。

「鍛錬が甘いなあ、絶拳士さんは。」
「・・・・倒れたのはお主だ。」
「これは飲み過ぎのせいだな。まだやるかい?」

「はいはい。」
パンパンとウォルト少年が手を叩いた。
「今回はここまで。命までかける戦いじゃないから。」

「ルトみたいな物言いをしやがる。」
ジウルは体を起こした。
よろけたジウルを、ドロシーが走りよって支えた。
「大丈夫なの!」
「大丈夫なわけがあるか。俺の一撃を俺が食らったんだぞ。
魔力で擬似的に展開した竜鱗がなかったら頭がなくなってる。」

また、常識はずれなことをしている。ドロシーはそっとため息をついた。

集まった鉄道公社の保安部の兵たち、オールべの治安局や冒険者たち。
全員の目がいまや彼ら一行に集まっていた。

マロクがずいと前に出た。
「ひかえい、ひかえい、ひかえい! この紋章が目に入らぬか!」
シチカが叫んだ。
「ここにおわすお方をどなたと心得る! 先のロデリウム公爵閣下にあらせられるぞ!
頭が高い! ひかえおろうっ!」

ご老公は若干、遠い目をしていた。

え? ここでやるの? それってなんだか恥ずかしくない?

「いや、もともとけっこう恥ずかしい事なんです。」
ウォルトが耳元で囁いた。
「ご老公だからできる事です。やっちゃってください。」

じろっとウォルトを睨んでから、ご老公は一歩前に出た。
その威信。ひと目で只者ではないとわかる。
場にいたもの、全員が膝をついた。

「鉄道公社のものたちに告げる!」
声は魔道により増幅され、集まったものたちに隅々までよく聞こえた。
「オールべを鉄道公社の直轄地としようとした一件は、しばしおこう。
エステル伯爵の治世にも、確かに問題はあった。それは然るべき裁きを下さねばならぬ。」

太い眉の下の目が、炯々と輝いて、一堂を睨んだ。

「だが、伯爵を殺害し、その罪をこの地を訪れたクローディア大公陛下になすりつけるとは、いかなる所存か!」

保安部のものたちにざわめきが広がる。
確かに異様な事態ではあった。だが、それはそれで、上のものは何某かの証拠を持って動いているのだろうと自分を納得させていたのだ。

「この一件は、この前ロデリウム公爵たるわしと、長く聖竜師団の最高顧問を務めた黒竜ラウレス閣下が預かる。」
これが、老公ひとりならばこうは行かなかったかもしれない。
しかし、先程までオールべ上空を脅かした黒竜もまた前ロデリウム公爵側についているのなら。

老公が肩を叩いたのは、まだ少年と行って良いほどの童顔の青年。
これが、黒竜ラウレスの人化した姿なのか?

老公は、またもラウレスに感嘆していた。なんの打ち合わせもせずに、いかなり矢面に立たされ、言いたいこともあるだろうが、すべてを飲み込み、穏やかな微笑みを浮かべている。

“ラウレス・・・なにがなんだかわかってないな。”
とウォルトだけが思ったが、残りのものは、全員、一行に頭を垂れたのだった。
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