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第5部 ギウリーク動乱篇~ミトラへの道
第215話 偽りの言の葉
しおりを挟むゼナス・ブォレストはは、天井を見上げた。
「なるほど、クローディア陛下を犯人と決めつけるには、無理があったようだ。」
あまりにも他人事なその台詞に、ボイス管理官が血相を変えて詰め寄ろうとするのを、クローディアが制した。
「先ほど、キッガ殿がエステル伯爵の暗殺を要望したとおっしゃったが?」
「確かに、寝物語にそのようなことも言っていたが。」
ゼナス・ブォレストは、そっくり返って笑った。
「具体的に何かをしたということはない。」
「そうかな?」
クローディアは、皮肉に笑った。
「そちらの絶剣士どのからは、命を狙われた。アウデリアもなかなか頑丈な育ちだが、そうでなければ即死の一撃を、シホウ殿からいただいている。」
「誤解ですよ、陛下。行き違いによる不幸な事故です。」
ゼナス・ブォレストは立ち上がった。
「この妙な椅子のせいで、誤解されたようだ。これは、街の商工会からの寄贈品でしてな。座り心地を試していただけなのですよ。」
「・・・法廷でそれが通るといいな、ゼナス・ブォレストどの・・・」
「そうですな。残念ながら鉄道公社の局長ともなりますと、各国の開く裁判には出席できないのですよ。これは条約によって定められた権利となります。
まあ、もちろん、わたしの至らぬ行動によって、クローディア陛下をはじめ、お連れの皆さまに不快をお掛けしたことはお詫び申し上げます。
おそらく・・・・わたしは、鉄道公社の査問委員会にかけられて、この度の一件からは解任となるのでしょう。下手をすれば減給もあるかもしれない。
まったく厳しい世の中です。」
満面の笑みをたたえながら、ゼナス・ブォレストは、ボイス管理官に指示をした。
「集まった保安部員には解散を命じてくれ。
クローディア大公閣下の捜索、及び逮捕命令は解除。これは、冒険者ギルドに対するものも含まれる。
オールべの治安長官の指示に従い、街の治安維持に協力、並びに列車の運行再開に向けての安全確保に当たるよう。
それと、エステル伯爵の秘書官ムーガルの身柄を抑えるように。
彼が、陛下がエステル伯爵を刺したと、証言したのだ。何か事情を知っているかもしれん。」
「なあ・・・我が君」
アウデリアが囁いた。
「鉄道公社にまともな奴は一人もいないのか? 公国への鉄道の敷設は、一旦保留にしたらどうだ?」
「・・・・以上が、鉄道公社のオーベル方面責任者ゼナス・ブォレストからの指示内容となる。」
屋敷の前に出てきて、集まった保安員たちに、あるいは冒険者やオールべ治安局のものたちにそんな話をした屋敷の警護隊長は、地区監督官のボイスと名乗った。
それがどの程度の地位なのか、どのような権限を持っているのかは、さすがに事情通の前ロデニウム公爵閣下のご老公にも、妙に博識なウォルトにも検討がつかなかった。
「恐れながら、先のロデニウム公爵閣下の御一行はおられますか?」
「ああ・・・わしだが?」
心底嫌そうにご老公は手を上げた。
「これより、ご迷惑をお掛けしたことへの謝意も込めてささやかな宴を設けさせていただきたいとの事です。」
「誰が言うておる?」
「あれ、がです。」
「お主は、疑問は感じぬのか?」
ボイスは顔をしかめた。
「わたしはこれでも元は、連合王国の騎士でした。
兎にも角にも、上の言うことは絶対というのに、やりきれなくなり、鉄道公社に転属いたしましたが、正直、後悔しております。」
「わしらが出席を断ったらどうなる?」
「みなさんを逮捕、拘束、あるいは秘密裏に抹殺するのは流石に諦めたかと存じます。
御身の安全は担保されたとお考えください。
あとは、ご老公さまが宴に出席いただけないとなると」
ボイスは、軽く自分の首を手で叩いた。
「この首が飛んで、それまでです。」
「嫌みなことをするな。」
「ご老公ならご存じかとも思いますが、鉄道公社の幹部は嫌みなことしかしないのです。」
クローディアが今まで参加したパーティで、最もどうにもならないパーティはこれが初めてだった。
あの旧グランダ王国の「夜会」でさえ、もう少し、意味があった。
会うべき人物もいたし、話べき内容もあった。仕掛けるべき策もあった。
ここには何もない。
ついでに言えば、ロクな酒も食べ物もなかった。
クローディアの感想では、迷宮内でヨウィスが作った鍋料理の方がよほど美味かったのだが、これは比較が悪いだろう。
ヨウィス自身が料理本をベストセラーにするほどの、料理人であり、また彼女の「収納」の大きさを考えれば、市場を丸ごと引き連れて、探索をしているようなものだったのだから。
クローディアはそれでも我慢した。
ご老公が話しかけてくるまでの間であったが。
「よくぞ、我慢いただいた、クローディア陛下。」
「なにしろ他国の地です。」
クローディアは、ほとんど酒も食べ物も口にしていない。
一つには毒を警戒したためだが、実際のところ、楽しく飲み食いする気には、なれなかったためだ。楽しそうにする気にすらならなかった。
「ブォレスト局長やキッガ殿を処断する権利はない。」
「それで正解です。歯がゆいことに。」
ご老公は、いまいましそうに言った。
「暫定とはいえ伯爵位を継いだキッガと、鉄道公社の幹部であるゼナス・ブォレストを処罰するには、わしや陛下では無理です。それぞれの組織の持つ権力に守られていますからな。
方法として、戦いに紛れて」
ご老公は首に手刀を当てるフリをした。
「正当防衛で、バッサリやることでしたが、向こうに矛先をおさめられてしまっては、それも無理ですわい。」
「陛下、お怪我の具合はいかがです?」
そばによってきたウォルト少年が、所載なくクローディアに話しかけた。
「きみの治癒魔法のおかげだ・・・すこぶるいい。ついでにこの気分の方もなんとかしてくれるとありがたいのだが。」
「さっき、アキルと話してたのですが。」
ウォルトは、振り返った。
黒髪の少女は、ドロシーやオルガ、それにミランも一緒にいる。盛り付けられたあまり美味しくない揚げ物をパクつきながら、それなりに楽しそうだった。
「ご老公。何やら旅芸人の二人連れと、ご一緒になったとか、で。」
「ふむ。ギンとリク、と名乗っておったが。
この騒ぎで、離れ離れになっておる。」
「なら、クローディア陛下の気鬱も少し晴れるかもしれません。」
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