あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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第5部 ギウリーク動乱篇~ミトラへの道

第218話 相談無用

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「まあ、我流というやつだ。」
ジウルは渋々そう認めた。

「そうだろうな。」
シホウは、相手の顔を見つめる。物腰に長者の風格があり、年齢は分かりにくいが20代であることは間違い無いだろう。
決してハンサムではないが、精悍な顔立ちと、引き締まった体躯は、異性からモテそうだ。
「だが、もとになった拳法はないのか? 例えば俺の拳は、中原に祖を持つ光烈式体術に、俺の体格に合わせて独自の工夫を加えたものだ。
師は誰についた?」

「ついた・・・と言えるほどの師匠は、なあ。」
ジウルは、土瓶を取り上げて、相手の盃に酒を注いでやる。
すまんな、と言いながら、シホウはそれを飲み干した。
どんぶりほどもある盃は、シホウの巨大な掌の中では猪口のように見える。

「強いていうなら・・・・ザザリ、かな?」
「闇森のザザリか?」
シホウは言った。
「おとぎ話の魔女だろう、それは。」

「いやいや、北の国では、闇森に居を構えていた実在の人物だ。実際には何代も代替わりしているのだろうが」
実際には、そうではない、とジウル・ボルテックは知っていたが、ザザリの名を出した途端に、シホウやアイクロフト、グエルジンが危ないやつを見る目つきになったので、慌てて付け加えたのだった。

「むかし、ザザリに挑んだ拳法家が、魔術なしの体術勝負で敗北したという逸話が残ってるんだ。
その時、ザザリは、その拳士に言ったそうだ。

拳に魔力を乗せることができるようになるまでは、いっさい武は封じよ、まずは魔道を学べと。」

「・・・確かに、魔力撃はそれが実用できれば無敵だろうがさ。」
シホウは疑わしそうに言った。
「普通はそこまで魔力を練るだけで、人は生涯を費やさねばならん。不老不死ならいざ知らず、そこまで遠回りすることに現実的に意味があるのか?」

「この世界じゃあ、体内の魔力が過剰に存在すると異常な長寿を得ることがあると聞いている。」
グルジエンが、果物らしき黄色の塊にかじりつきながら言った。
「魔法士ならば、あるいはそんな修行の仕方もありかもね。」

「ならそのまま魔道の方を極めるだろう。」
アイクロフトが面白くもなさそうな顔で、缶詰の蓋をこじ開けた。パーティとは名ばかりで、専用のコックもいない席の食べ物は、結局、保安部の備蓄食糧の蓋を開けて盛り付けただけのものが多かったのだ。

彼ら四人で席を移して飲み直し、ということになっても出てくるものが特によくなるわけでもない。だが、そのような事情で特に悪くなることもなかったのだ。

「拳術を極めるために、魔道を極めるのはやはり、あまりにも遠回りだ。
で、どうなのだ、ジウルよ。
我々、絶士に加わってみる気はあるのか?」

「確かに、興味はあるよ。他の連中もお前さんたちくらい使えるならな。
ただ、俺には、すでに入りたいパーティがあってだな。そっちがどうにもダメそうなら改めて相談してもいいか?」

「冒険者のパーティか? 黄金級か、英雄級?」
「いや、やっとこの前、銀級に昇格したばかりのパーティだ。『踊る道化師』という。」

ジウル・ボルテックは怪訝そうな顔をする三人をぐるりと見回した。

「ギムリウスやフィオリナと試合ったと言ったな。その二人が所属しているパーティだと言ったら、興味が湧くかね?」

三人は揃って頷いた。

ややあって、ジウルは尋ねた。

「ところで、あんたたちの任務は、局長の護衛というのは含まれてないのかね?
こんなところで油を売っていていいのか?」

「間接的にはゼナス・ブォレストの護衛をしているつもりだ。」
アイクロフトが答えた。
「クローディアやロデリウムの爺さんは、権力があるが故にそれに縛られて動けない。
ならば、権力に縛られずに、ゼナス・ブォレストを殺しに行けるジウルという拳法家を、我々三人で無力化しているという見方もできるわけだ。」

「無茶なことを!」
ジウルは笑った。
「俺以外のものが、局長さんを殺しに行ったらどうなる。」

「それはそのときよね。」
グルジエンが生真面目な顔でそういった。
「私たちはできるベストなことを遂行しているわけで、正直、それ以上のことをしてまで、守るべき命だとは思ってないのね。ゼナス・ブォレストとキッガも。」


キッガは、ゼナス・ブォレストの手を振り払った。

「今日は、一人でいたいの、局長さん。」
「こんなことは一時的な後退に過ぎない。わたしは、この地の総監督官になる。その権限は王を超え、その武力と富は八強国も凌ぐようになる。」

キッガは笑った。

「わかってるって。だからそのお手伝いをしてあげるって言ってるの。」

「・・・・」

「クローディアをわたしの部屋に呼んであるの。うまくたらし込んで味方につければ、これ以上ない後ろ盾になってくれるわ。」

「しかし・・・・」

「わたしが、こういう女だと分かっているわよね?
まあ、わたしに任せておきなさい。その後で気が向いたら遊んであげるから。」


ゼナス・ブォレストは、キッガの後ろ姿を見つめながら、舌打ちをした。
エステル伯爵家を葬るにはちょうどいいタマであったが、もとより、彼の隣に席を与える気などはない。それはもっと・・・例えば、ギウリークかランゴバルドの有力な貴族か、王室から迎る。
だからといって、いつキッガを切り捨てるかについては、彼は迷っている。
すぐにでも切り捨てたい一方で、彼女の持つ蠱惑的な魅力には確かにひかれてはいるのだ。

いつ切り捨ててやろうかと、考えているうちに当の相手からはもう切り捨てられている。
恋愛関係ではよくある話であったが、当事者はなかなか気が付きにくものなのだ。
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