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第6部 聖帝国ギウリークの終わりの始まり
第231話 悪夢たちの旅立ち
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護衛官イザークは、出立の準備をするよう指示されて、御前をさがった。
準備といっても元が、冒険者である。
ここで暮らすための雑貨はそのままに、銀灰皇国でしかつかえない硬貨は、西域共通貨幣の「ダル」に換えた。
ミトラへは、いくつか山を超えてオールべに出て、そこから魔道列車を使うのが早い。
山越えの険しい道ではあったが、途中に宿場街もある街道が通っている。
両替した残りの金で携行食料を買い込んでいると、うしろから声をかけられた。
振り返ってみるとまだ、十歳にも満たない子供だった。
「竜の手配は済んでるぞ。」
「あ、悪夢・・・か。」
イザークは、仰け反るようにして距離をとった。この国はいろいろとやっかいだ。
彼女の故郷、ランゴバルトが他国からは「冒険者の国」と呼ばれていても、そこに住むものすべてが冒険者ではない。
同じように「魔道の国」銀灰皇国に、おいても全員が全員、魔法使い、なわけはなかった。
ただ、体内の魔力過多による発育時の問題がかなり多いのだ。いや、あまりにも多すぎて、銀灰皇国ではそれをすでにまったく問題と見なしていない。
つまり、見かけ上の年齢など最初から無視してかかる。
目の前のこどもの声に、イザークは聞き覚えがあった。
さきに皇帝に「ミルトエッジ」と名乗った「悪夢」だ。
「悪夢」が銀灰皇国の精鋭戦力、ランゴバルトの「聖櫃」やギヴリークの「竜人」、鉄道公社の「絶士」に相当するもの達の総称であることは、イザークも知っていた。
その悪夢たちの育成機関のひとつ、ミルトエッジ塾。
その長が。
「ミルドエッジだ。」
お子さまはかわいい手を差し出した。
「言っておくが、弟子でもないお主に師匠とか老師とか呼ばれたくはない。敬語などもっての他だ。特に他国では目立ってしょうがない。
ぼくのことは気軽にエッちゃんと呼ぶように。」
銀灰皇国には、基本、やっかいな奴しかいないのか!
悪名たかき銀級パーティー「燭乱天使」の一員でありながら、イザークは心の中で悲鳴をあげた。
握り返した手のひらは、小さく柔らかく。
「ところで、おまえは潰乱皇の命を正しく理解しておるかの?」
話し方はどこか老人くさい。
「刺客どもを、排除して、姫君を当国に連れ帰れ、でしょうか?」
「姫の心臓を祭壇に捧げよ、の意味は?」
「別段、“心臓だけ”を持ち帰れとは言われていないわけで」
「心臓こみ」の五体満足のオルガ姫をつれ帰っても文句は出ないだろう。
「いや文句は出るのじゃ。」
少年はケラケラと笑った。
どこから?と、イザークが尋ねると、真面目な面持ちに戻って、
潰乱皇以外の全部から。
と答えた。
「なので、我らがオルガを追跡するのは、公的にはあくまで、闇姫討伐のため、ということにしておかねばならんのじゃ。そうしないと」
「こちらが、銀灰皇国の人類全てから狙われることになると?」
「ものわかりが良いのぉ。
それこそ、皇太子派、公爵派、第一皇女派、中央軍団派、改革派、保守派、そば派、うどん派まで満遍なく、な。」
「最後の二つは人類じゃなくて、麺類の話だろう?」
エッちゃん、と後ろから呼ばれて、ミルドエッジ老師は「はあい」と答えて、振り返った。
美少女だ。とんでもない美女二人が、結構に扇情的な格好で手を振っている。
「お話が済んだら出発しましょうよ。『暴走竜』バクオンが北の丘陵で待ってるわ。」
「そいつが、陛下の直属護衛官のイザークちゃんね。わたしはアモウ。」
「わたしはクルス。エッちゃんの弟子なの。よろしくね。」
そいつはどうも。
と、イザークは口の中で応えて、軽く頭を下げた。
「楽しみよね! オルガとやりあえるなんて! もう十年ぶりくらいかしら。」
「あいつが、グランダの留学から帰ってすぐくらいよ。思い出しても腹が立つ!」
二人はミルドエッジ老師の両手を取って、仲良く歩き始める。
イザークも慌ててそれを追いかけた。
どうせ、三人が三人とも見かけ通りの年齢ではないのだろうが。
おまけに「暴走竜」か。
古竜に運んでもらった経験のあるイザークも、「暴走」の二つなのある竜には乗せてもらいたくはなかった。
しかし、イザーク自身も闇姫には用があるのだ。
そのために、銀灰皇国にやってきたと言っても過言ではない。
彼女の目的。
それは、闇姫オルガをクリュークにかわる「蝕乱天使」のトップになってもらうようオルガを説得すること。
それが、臨時のリーダーである「聖者」マヌカからの指示だった。
準備といっても元が、冒険者である。
ここで暮らすための雑貨はそのままに、銀灰皇国でしかつかえない硬貨は、西域共通貨幣の「ダル」に換えた。
ミトラへは、いくつか山を超えてオールべに出て、そこから魔道列車を使うのが早い。
山越えの険しい道ではあったが、途中に宿場街もある街道が通っている。
両替した残りの金で携行食料を買い込んでいると、うしろから声をかけられた。
振り返ってみるとまだ、十歳にも満たない子供だった。
「竜の手配は済んでるぞ。」
「あ、悪夢・・・か。」
イザークは、仰け反るようにして距離をとった。この国はいろいろとやっかいだ。
彼女の故郷、ランゴバルトが他国からは「冒険者の国」と呼ばれていても、そこに住むものすべてが冒険者ではない。
同じように「魔道の国」銀灰皇国に、おいても全員が全員、魔法使い、なわけはなかった。
ただ、体内の魔力過多による発育時の問題がかなり多いのだ。いや、あまりにも多すぎて、銀灰皇国ではそれをすでにまったく問題と見なしていない。
つまり、見かけ上の年齢など最初から無視してかかる。
目の前のこどもの声に、イザークは聞き覚えがあった。
さきに皇帝に「ミルトエッジ」と名乗った「悪夢」だ。
「悪夢」が銀灰皇国の精鋭戦力、ランゴバルトの「聖櫃」やギヴリークの「竜人」、鉄道公社の「絶士」に相当するもの達の総称であることは、イザークも知っていた。
その悪夢たちの育成機関のひとつ、ミルトエッジ塾。
その長が。
「ミルドエッジだ。」
お子さまはかわいい手を差し出した。
「言っておくが、弟子でもないお主に師匠とか老師とか呼ばれたくはない。敬語などもっての他だ。特に他国では目立ってしょうがない。
ぼくのことは気軽にエッちゃんと呼ぶように。」
銀灰皇国には、基本、やっかいな奴しかいないのか!
悪名たかき銀級パーティー「燭乱天使」の一員でありながら、イザークは心の中で悲鳴をあげた。
握り返した手のひらは、小さく柔らかく。
「ところで、おまえは潰乱皇の命を正しく理解しておるかの?」
話し方はどこか老人くさい。
「刺客どもを、排除して、姫君を当国に連れ帰れ、でしょうか?」
「姫の心臓を祭壇に捧げよ、の意味は?」
「別段、“心臓だけ”を持ち帰れとは言われていないわけで」
「心臓こみ」の五体満足のオルガ姫をつれ帰っても文句は出ないだろう。
「いや文句は出るのじゃ。」
少年はケラケラと笑った。
どこから?と、イザークが尋ねると、真面目な面持ちに戻って、
潰乱皇以外の全部から。
と答えた。
「なので、我らがオルガを追跡するのは、公的にはあくまで、闇姫討伐のため、ということにしておかねばならんのじゃ。そうしないと」
「こちらが、銀灰皇国の人類全てから狙われることになると?」
「ものわかりが良いのぉ。
それこそ、皇太子派、公爵派、第一皇女派、中央軍団派、改革派、保守派、そば派、うどん派まで満遍なく、な。」
「最後の二つは人類じゃなくて、麺類の話だろう?」
エッちゃん、と後ろから呼ばれて、ミルドエッジ老師は「はあい」と答えて、振り返った。
美少女だ。とんでもない美女二人が、結構に扇情的な格好で手を振っている。
「お話が済んだら出発しましょうよ。『暴走竜』バクオンが北の丘陵で待ってるわ。」
「そいつが、陛下の直属護衛官のイザークちゃんね。わたしはアモウ。」
「わたしはクルス。エッちゃんの弟子なの。よろしくね。」
そいつはどうも。
と、イザークは口の中で応えて、軽く頭を下げた。
「楽しみよね! オルガとやりあえるなんて! もう十年ぶりくらいかしら。」
「あいつが、グランダの留学から帰ってすぐくらいよ。思い出しても腹が立つ!」
二人はミルドエッジ老師の両手を取って、仲良く歩き始める。
イザークも慌ててそれを追いかけた。
どうせ、三人が三人とも見かけ通りの年齢ではないのだろうが。
おまけに「暴走竜」か。
古竜に運んでもらった経験のあるイザークも、「暴走」の二つなのある竜には乗せてもらいたくはなかった。
しかし、イザーク自身も闇姫には用があるのだ。
そのために、銀灰皇国にやってきたと言っても過言ではない。
彼女の目的。
それは、闇姫オルガをクリュークにかわる「蝕乱天使」のトップになってもらうようオルガを説得すること。
それが、臨時のリーダーである「聖者」マヌカからの指示だった。
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