あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

文字の大きさ
251 / 574
第6部 聖帝国ギウリークの終わりの始まり

第232話 灰冥宮の妖怪たち

しおりを挟む
ヘルムド=ラセル三世は、思う。
銀灰皇国は、当たり前の国にある当たり前のものに欠けている。
それは、人が耕したり家を立てたりするのに、ふさわしい平らな土地だったり。
人が人の命を奪うことへの忌避感だったり。

そんな足りないものが、ヒトを歪にし、その歪の果てが、“闇姫”オルガだったりするのでは無いかと。
そう思う。

だが彼はそれを忌まわしいとは、思わない。
所詮は有限の命しか持たない人の生である。置かれた土地で、その環境で育つしかないのだ。
むしろ。
目の前で、先程から長広舌を並べ立てている男のほうがよほどタチが悪い。

彼のもっとも信頼する(とされる)皇太子は、彼が退位後にすむことになる離宮の説明をやっと終えて、膨大な資料の山を、後方の秘書官に渡した。 

「正直に申し上げれば、今すぐ移り住んでいただきたいくらいです。」

三世の無言の視線を浴びて、皇太子はあわてて付け加えた。
「いえいえ、引退を早めた方が、という意味ではございません。
政務をとっていただくのにも、充分な広さがある、と。それだけのことです。」

「良い仕事をしたようだ。」
三世の言葉に、皇太子の顔にほっと安堵の色が浮かんだ。

「もうひとつの仕事はどうなっておる?」

皇太子は、僅かに、眉をひそめた。

「父上自らが“悪夢”を放ったとのお噂は」
「真のことだ。」
「そのように心配なさらずとも、闇姫はもはや無力です。陛下に害を及ぼす心配は万に1つも。」
「現に、おまえの放った刺客は返り討ちにあったぞ。」

皇太子は舌打ちした。
こういうところがダメなのだ、おまえは。
三世は、心の中で言った。
おまえは怒りや苛立ちをまわりに出しすぎる。そういうものこそ、抑えなければならぬ。
皇帝の怒りは、向けられた相手の死を意味するものでなければならぬ。
おまえの感情はあまりにも軽い。

だが、三世はおだやかに微笑んだだけだった。

「そのような、者に心当たりはありません、陛下。」
皇太子は言い放った。
「仮に闇姫の犠牲者の遺体がまた、見つかったのならば手厚く埋葬いたじしょう。
ですがそれは、わたしとはなにも関係がない。もしそれが、ほんとうに闇姫を打とうとしたのならば、おそらくは、イーブ公爵の」

「妙な噂話はやめにしてもらおうか、皇太子殿下。」

イーブ公爵カガツキは、ブーツで謁見室の床を踏みつけた。
床材が割れて、部屋がぐらりと揺れた。
「わたしは、陛下とのお約束を忠実に守っている。闇姫はそのまま、泳がせて本人の意思での帰還と、釈明を待っている。」

「泳がせている?」
第一皇女フレイは、扇子で口元を隠しながら嘲笑った。
「語るに落ちるか、公爵。それはつまり、陛下のお言い付けを守らずに、
闇姫に監視をつけていると公言したに等しいのだぞ!」

「御三方ともに、お控えください。皇族同士でいがみあっておられるのも臣下にとっては目のやり場に困るというもの。」

中央軍の中枢であるズールー元帥の言葉に一同は押し黙った。
ズールー元帥は、三世に、向き直るとうやうやしく、しかし、全く敬意の感じられない声で言った。

「陛下が自ら“悪夢”を放たれたといえことは、これ以上オルガを放置する必要はなくなったと、そう思ってよろしいのでしょうか?」

「わたしがオルガを捉えてその心臓をこの場に持ってくる。」
三世は無表情に言った。
「それまでは、手出しは無用だ。」

「かしこまりました。」
うやうやしく、元帥は一礼した。
「ですが、少々の手助けはさせてくださいませ。“熾火”の選りすぐりは、すでにランゴバルドに待機しております。」
「元帥っ・・・」
「出すぎた真似をっ!」
「御三方の暗部の活動も確認しております。」
元帥は、ゆったりと笑った。
少なくとも若き皇族たちよりは、経験も実力もうえ、なのだ。
それが、はっきりと、わかる場面だった。

「ランゴバルドに、待機させた“ 熾火”からの、報告では、オールべでエステル伯爵とその娘、さらには鉄道公社の局長が暗殺された様子。」

ゆったりとした、口調で、元帥は続けた。
「そこに、居合わせたクローディア大公の一行のなかに、黒目黒髪の女性が確認されておりますな。
異世界人のアキル、と名乗っているようですが。」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...